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純文学&ヒューマンドラマの棚

メガネをかける



 子供の頃、俺は結構視力はいい方だった。


 けど、大学生になった辺りから、視力が悪くなってきて。でも、俺はメガネもコンタクトレンズもダメで。


 メガネは、目の前で揺れるレンズやフレームがどうしても気になって、それがダメで。

 コンタクトレンズに関しては、目に異物を入れるということ自体、俺の目が拒絶した。コンタクトレンズを目に入れてしばらくすると、両目が真っ赤に充血し、謎の頭痛に襲われたのだ。


 だから俺はしばらく、ぼやけまくった世界を生きていた。




 けどある日、彼女ができて。その彼女が「私が君の手や足になるよ。ずっと」って、ぼやけた俺の視界の向こうで、そう言った。ぼんやりとした彼女の顔。だけど、にこりと、優しく微笑んでいるのがわかった。


 彼女は俺と一緒にいる時は、俺の腕に腕を巻き付け「そこ、ドブの蓋がないから気をつけて」とか「正面から人が来るから」と、引っ張って教えてくれた。

 そこまでしなくても、目を細めればだいたい何となく見えるし、彼女にもそう言ったけど。


「だって、君の手や足になるって言ったし。…まあ、ただ単に私が君にくっつきたいだけなんだけど」


 ぼんやりとした視界の向こうで、君は口を尖らせて言った。ぼんやりとしているけど、君のその可愛らしい表情が見えて。愛しさが、溢れて。



 ──────────。



 その時僕は初めてのキスを、君の拗ねて尖った唇にした。愛しくて何度もなんども、抱きしめながら君と唇を交わした。



 磨りガラス越しのような、ぼんやりとした日々。


 だけど、君がいつも隣に居てくれるから、そんなぼやけた日々も悪くなくて。むしろ、君の温もりや声が笑顔がいつもすぐ傍にあるから、幸せで。


 そんな幸せな日々がずっと続くって、そう思ってた…けど。






 メガネ屋でメガネを探す。


 ひとり。


 俺の隣に、君は居ない。


 俺は店の人のすすめで、縁の無いメガネを購入した。


「ありがとうございました」


 店員の声を背中に受けながら、店から出る。



 ────────……



 相変わらず、目の前で揺れるレンズやフレームが気になるけど。でも、メガネを通して見える世界は、みんな形がくっきりとしていて。色鮮やかで綺麗で。まるで、異世界にでも飛び込んだ、そんな気分になった。





 ふと。


 レンズの外で、聞き覚えのある声がして、その方に振り向いた。

 そこには…いつかの君が居た。隣には、俺の知らない男がいて、その男と指を絡めて手を繋いでいた。


 キラキラとした、笑顔の君。


 磨りガラス越しの君とは、比べものにならないくらい綺麗で…




 メガネをかけてるはずなのに…俺の視界がまた、ぼやけてみえてきた。



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