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今回は1000字ちょっとです。詳細はあとがきで。
「ティノ!」
エセルは思わず声をあげてベッドに駆け寄った。
高熱なのか頬を紅潮させて横たわっているのは、なつかしい道案内の少年だった。
エセルの声が聞こえたらしく、彼は閉じていた目をうっすらとひらいた。そして純白の翼の主を視界に入れると、かすれた声で問いかけた。
「エセル……。天つ御使い様になっちゃったの?」
子どもの発言にぎょっとしたイリが、大慌てでエセルにあやまりはじめる。
「す、すみません。この子ったらお姫様を呼び捨てに……」
「いいのよ、呼び捨てで。わたしたち、お友達なの」
目を白黒させているイリに軽く笑いかけてから、エセルはティノのほうに向き直った。
「安心して。御使い様じゃないわ」
言いながら、今度は自分が瞳を閉じて気持ちを集中させる。
姫の背中から両翼が消えていく様子を、ティノはぼんやりしながらみつめていた。それから、軽く息をつくと寝返りを打ち、再び眠りこんでしまった。
眠りを妨げないよう外に出てから、エセルは少年の養い親でもあるイリに事情を教えてもらった。
それによると、ティノは怪我を負って寝込んだわけではなく、今日の午後いきなり高熱を出して臥せってしまったのだという。
けれど、この発熱はおそらく精神的なショックのためで、病気ではないにちがいないというのがイリの見立てだった。
今回ショックを受けた原因は、ペルーダの群れを間近にしたことと、火事で家々が燃え落ちるさまを目撃したことの両方だろう。
魔物襲来は早朝だったから、普通の子どもなら家にいるはずの時刻なのだが、ティノはあいにく普通の子とはちょっとちがっていた。
早起きして少し離れた森の端まで行き、歌の練習をしていたのだ。
魔物の群れが森に来たわけではないのだが、帰路にあたる道で暴れていたため、彼は自宅に帰るまで長いこと待たなければならなかった。
しかも帰り道では火災現場をいくつも見る羽目になり、自宅に帰り着いたときはずいぶん疲れた様子だったらしい。
「こわい思いをたくさんしたのね……」
エセルが胸を痛めながら呟くと、イリは宿を切り盛りするおかみさんらしく、さばさばした調子で答えた。
「早起きして歌いに行くくらい元気だったんですから、大丈夫ですよ。とにかく病気じゃないんで、お姫様は気にしないでくださいね」
そう言ってはいるものの、彼女だって息子を気遣っているのは明白だった。
ただ宿は現在、かつぎこまれた怪我人たちの入院病棟と化していて、その介護をおかみさんが引き受けている状態だ。忙しくて我が子にかまう余裕がないのだろう。
つまり、とエセルは思った。道案内の少年に恩を返すのはいまだ。今晩あの子の看病をする役目は、自分が適任なのだ。
瑞月風花さまより、ティノと作者あてのお見舞いFAをいただきました。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。
いままで連載1回分の長さを、大体3000字から5000字くらいの間と決めていたのですが、体調その他リアル事情により、それが難しくなってしまいました。
今後は、筆の運び次第で長さが変わるという形式にさせていただきたいと思います。
併走の読者様には物足りなく、まとめ読みの読者様にはリズムが変わって読みにくいということになってしまいますが、その分更新速度が上がるよう精進しますので(できるかどうかは別として)、よろしくお願いいたします。
ちなみに、ただいまストーリーの底です……。数話分あるので早く脱出したいものです(切実)
※これから活動報告書きます~。