プロローグである。大概死ぬのである。
駐車スペースの横には、三坪ほどの畑がある。そこからシソとミニトマトとサニーレタスの葉を何枚か摘み取り、それにナスをを一本だけ収穫して部屋に戻った。今日の夕食の素材だ。昨日ササミ肉を買ったから、シソチーズを挟んでササミフライを作ろう。あとはナスの味噌汁がいい。
ササミを冷蔵庫から出しペチンとまな板に置いた。筋を削ぐように包丁をいれたあと、真ん中に切り込みを入れ観音開きにする。塩コショウをふるいなじませると、洗ったシソと、とろけるチーズを挟んだ。
小麦粉を全体にまぶし、溶いた卵にくぐらせると、パン粉をくっつけた。
熱しておいた油にジュワッといれる。衣の周囲から小さな泡が無数に飛び出すと、直ぐにチーズの濃厚な香りとシソの爽やかな香り、それに油の香ばしい匂いが部屋に広がった。
三分か四分くらいだろうか。菜箸で少しつつき回しながら時計を確認した。
ちょうどタイマー予約してあった炊飯器がピーッとミッション完了のアラームを鳴らした。十穀米が炊き上がったようだ。少し蒸らして置こう。
その間に摘んできたサニーレタスとトマトを洗って皿に盛りつけた。
同時進行で作っていたナスの味噌汁は、お湯に入れる前に油で炒めておくのが好みだ。長ネギも加え軽く煮立たせると、あっという間にできあがった。
陶芸教室で自分で作った皿は、下手なりにも味わいのあるものに仕上がった。それに盛ると写真映えするのでお気に入りだ。
揚げ終わったササミを取り出し油を軽く切る。真ん中あたりで斜めに切り込みを入れると、シソと肉の隙間からとろっとチーズが零れだした。
「うわ、大成功。いそげいそげ。写真だ」
サニーレタスに半身が掛かるように盛り付ける。その横に前日に付けておいたタマネギのマリネを添えた。タマネギも自分の畑で収穫したものだ。
できあがった品々を急いで円卓へ運び、転がってしまったミニトマトの場所を修正する。ご飯と味噌汁も並べ、お気に入りのくまが寝そべった形の箸置きに箸をかけた。
黒豆や赤米が、白米をほんのりピンクに染めているのを見て、ごくりと唾を飲んだ。
早く食べたい。
揚げたてにかぶりつきたいのをぐっと堪え、SNS用の写真を何枚か撮った。
あとは食べながらにしよう。夕食を頬張りながら、写真を少し加工したり、文を考えるのも日課であった。
「よし!いただきまーす!」
パンと両手を鳴らすと、味噌汁の茶碗をとり一口飲む。味噌のしょっぱさが一気に胃に染み渡った。続けてお米をそのまま一口。所々にはいっている玄米やヒエのプチプチとして食感が堪らない。米の甘みを充分に咀嚼し飲み込むと、お目当てのササミフライをつかみ、大口をあけた。最初はソースをかけずにいただこう。
ああ、今日も幸せだ。平穏に生き、おいしいご飯を食べる。作るのも食べるのもなんて楽しいんだ。今日のわたし一日お疲れ様。たくさん食べるんだぞ。
誰もいないのにあーんと満面の笑みになった。
「あー…」
軽く歯が衣に掛かったくらいで、バキバキメキメキと変な音がした。同時に爆弾が爆発したかと思うほどの轟音がドゴオオンと響き、わたしはササミフライを咥えたまま縁側から続く庭に視線を向けた。
爆風のようなものを感じた。
ーーーーそこに見えたのは、砕けるブロック塀。タイヤに潰される畑。潰れ去った縁側、掃きだしの窓ガラスが割れて飛び散り、窓枠が面白いくらいに簡単に歪んだ様。
そして、それらを突き破ったトラックの前方部分、一瞬であったが、フロントガラス越しに運転席のおじさんの首がカクンと後ろに反り、ぽっかりと開いた口と開いていない目が見えた。
(ーーーーーー居眠り!!)
居眠りだったのか、はたまた病気とか何かを避けた拍子とか、原因など何も分からない。
そんなことはどうでも良い。とにかく、トラックが我が家に突っ込んできたのだ。
家が揺れた気がした。ボロいからこのまま崩れ去るんじゃないか。
わたしはササミフライを落とした。
茶碗と箸を持ったまま死ぬのか。これがわたしの最後か。
悲鳴を上げる余裕もない。
そのまま、まっすぐ突っ込んできたトラックのライトで視界が真っ白になった。




