じゃがいも?こうして、こうやって、こうしてやる!
「ゆづか!!」
飛び込んできたのはカウルだった。
カウルはフェンに体当たりをして、わたしとの間に割り入ってくれたのだ。
大きな背中に庇われると途端にほっとする。
「っか、カウル!!」
あまりの恐ろしさに慌てて起き上がり彼の服を掴むと、手がカタカタと震えていた。カウルの影にかくれ、今はフェンの姿が見えないことに安堵する。
「ってぇーな!何すんだよ」
「それはこっちのセリフだ!勝手に処罰するなんて許されないぞ。一体どう言うつもりだ!」
「勝手に処遇を変えた奴に言われたくないね!」
「それにはちゃんと理由があっただろう。リアの様子が一変した。そして本人から別人と証言があった!フェンだってわかるだろ?だから彼女の“中身”が何者なのか判断がつくまで、処罰は保留となった。話し合ったじゃないか」
「お情けばかりかけるお前も、なんの疑問も持たずにすぐに靡く城の者たちもうんざりだ!何が話し合いだ。会合でカウルがあまりにも頭を下げるから、みんな仕方なしにに承諾しただけだろう!」
二人はにらみ合った。
わたしはハラハラとそれを見守る。
「ゆづかに手出しはさせない!」
カウルが手を赤く光らせて先ほどのフェンのように何かを取り出すような構えをした。カウルも、手から剣をだせるのだろうか。
二人は暫く睨みあっていたが、フェンは舌打ちをすると力を抜き、踵を返した。
「ふん」
腕を一振りすると、剣が一瞬にしてシュッと消える。フェンはそのまま何も言わずに歩いて行ってしまった。カウルも黙って見送っていたが、姿が見えなくなると、ほうっと息をついた。
カウルは見張り役に、先ほどの出来事を口止めしていた。
わたしのせいで内輪もめのようになってしまっている。申し訳ないと思いつつも、どうしようも出来ない。
「ちょっと来い」と言われ、手を引かれてついていく。カウルはちょっと早足で、わたしは小走りになった。どこへ行くのだろう。グルグルとらせんの階段を上がり進んだ。
何階か上ると、見たことのない場所に出た。ここはどの部屋も扉が豪華だ。こんなところもあったのだと、キョロキョロと視線を動かした。そういえば、この階は掃除に入った事がなかったかも。
まっすぐの廊下をカウルはスタスタと進む。
焦りながらついていくと、「入れ」と大きめの部屋に通された。
部屋の右手にもドアがあり、開きっぱなしになっていたため中が見えた。向こう側に見える部屋は執務室のようだ。壁一面を埋める書物、装飾が施された机に、積み上がった書類がみえた。
わたしが案内された部屋には、天蓋付きの大きなベッドがあった。肌触りの良さそうなシーツに、大きな枕が3つ無造作に置いてある。なんてゴージャスなんだ。この世界に、こんなふわふわ羽毛に包まれます、みたいなベッドが存在しただなんて。
「今夜からここで寝ろ」
「え?ここは?」
「俺の部屋だ」
「え?!」
「なんだ。不満か?」
「い、いいえ!そうじゃなくて…え、いいの?」
「いいから連れてきたんだろ」
「…そう、だけど」
こんな恵まれた部屋でわたしなんかが過ごして良いのだろうか。また反感かうかもしれないし、それにカウルと同じ部屋っていうのは…。
わたしは落ち着かなくて体をソワソワとさせた。
カウルは大きなため息をつくと疲れを見せてどさっとベッドに腰掛けた。
「また命を狙われたら困るだろう。俺が見張っていれば誰も襲ってこないだろうし、知らない間に打ち殺されたんじゃたまらん」
「…うん…」
「ほら、夜が明けてしまうから早く寝るぞ。朝から畑仕事をするんだろ?」
カウルの部屋には大きめの窓があった。ガラスではない、戸板を組み合わせた隙間からはうっすらと外が明るくなっているのが見えた。
「わっ」
カウルは勢いよく寝転ぶと同時に、わたしの腕をひっぱった。ばふんと隣に転がる。
ベッドはやっと慣れてきた青臭い香りではなく、ハーブのような優しい香りがした。
(ハーブを使って魚や肉の料理もみんなに食べて貰いたいな)
「いい匂い…」
呟くと「香油だろう」とカウルが答えた。
「手がずっと震えているな」
「…あ」
「もう手出しはさせないから、安心していい」
震えを誤魔化すため、放りだしていた手をぎゅっと握ると、上からカウルの手のひらが包んでくれる。
気が抜けたのか、急にずんと体が重くなり、ベッドに埋もれるように沈んだ。
これって羽毛かな。久しぶりのちゃんとしたベッドって気がした。あまりの気持ちよさに、体も思考もふわふわと揺れた。