じゃがいも?こうして、こうやって、こうしてやる!
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「うううう、ぐすっ」
い草を布で包んだだけの枕ともいえない枕は、水分を含むとよけいに青臭い香りがした。ゆづかはそこに顔を押しつけて呻いていた。
「くやしいいいいい」
料理を貶されたのも、あんな風に扱われたのも初めてだった。
いくらリアが悪い奴だったからって、食べ物を粗末にするなんて許せない。
けっこう捏ねる作業って力を使うんだぞ。
300人前の麺を捏ねたのに。
せめてスープ一口でも味わってくれよ。めちゃくちゃ美味しく出来たのに。
今までは自慢のようにネットにアップするだけだったが、今日わたしは、みんなで作る楽しさを知った。
食べてくれる人の顔を見れる喜びを知った。
「一生懸命作ったのにーーーー!!」
「おい!うるさいぞ!」
「いつまで泣いてんだ黙れ!」
叫ぶと隣の牢屋のおじさんにも、見張り役にも怒られてしまう。
「ぐすっ」
わたしは鼻水をすすって泣くのを堪えた。
絶対ぜったいぜーったい!見返してやる。畑だって復活させてみせる。見てなさいよ。わたしには家庭菜園という実績があるんだから。
フェンにわたしのご飯を食べさせて、美味しいって笑わせてみせるわ!
わたしは静な闘志を燃やした。
明日は早朝から、カウルに畑に連れて行ってもらう予定だ。畑は体力を使う。たくさん寝て万全の状態で向かわなければ。
わたしはその晩、悔し泣きをしながら眠りについたのであった。
眠っているとボソボソと声が聞こえた。
石で出来た地下牢は声が響く。
「ーーーさん…」
「どうされたんですか?」
「煩いな。お前らに関係ないだろ。さっさと開けろよ」
「は、はいっ」
見張り役と誰かが話している。
煩いなぁとモゾモゾと寝返りを打って鉄格子に背を向けた。
するとガラガラガラっと背中で音が鳴る。開いたのはわたしがいる場所の格子のようだった。
眠い目を擦りうっすらと瞼を開いたが、この部屋には灯りもないため真っ暗で何も見えない。牢屋の外にある炎の揺らめきが、ゆらりと人影を浮かび上がらせた。
「え、だれ…」
何かあったのかと思い起き上がろうとしたら、首をがっと掴まれてベッドに逆戻りした。
「っあ…!」
掴まれた瞬間、喉がくっつきぐえっと嗚咽がもれる。意識は一気に覚醒し、心臓がドクドクと音を立てた。
(何?!)
「暴れんなよクソ女」
掛けられた低い声には聞き覚えがあった。
(ーーーフェン!!)
「んんんん!!」
身長にだって殆ど変わらない。彼の腕はわたしのそれと大して差はない。なのに、引き離そうとしてもびくともしない。
手と足をバタバタさせるが、お腹の上に乗っていたフェンにさらに押さえつけられてしまった。
首を絞められているようで息苦しい。フェンの手を叩きガリッと引っ掻いたが彼は鬱陶しそうに眉を動かしただけだった。
「ったく、総長であるカウルがなまっちょろいことしてるから……こんな女早く処分しちまえばいいんだ」
首を押さえる力が緩められる。途端に取り込めるようになった酸素に喉がヒューと鳴り、次に吐きそうなほど噎せた。
「ゴホッゴホッゴホッ…ふ、フェン…」
「フェンさん?!な、何を…」
見張り役が駆け込んできた。彼らが持っていた灯りでフェンの顔が浮かび上がる。
わたしを見下ろす目は何の色も灯していなかった。冷たい視線は落ちているゴミを見るようだ。
「うるせぇって、誰も動かないなら俺がやる。早く始末しまったほうが城も平和なんだよ」
フェンは右手をボウッと青白く光らせると、手のひらから腕より長い剣を取り出した。
(!!)
銀の剣身は先の方が太くわん曲していた。灯りの炎を映しオレンジの光を反射する。
「改心したんだか気が狂ったんだかしんないけどさ、このノーティ・ワンの為に役に立ちたいって言うんなら、死んでくんない?」
可愛らしい顔がニヤリと歪んだ。フェンはわたしの顎をつかみ口を塞ぐと、剣先を下に向けて持ち直した。
「まぁ俺も非道じゃないからさ、苦しまないように一瞬であの世に送ってやるよ」
自分を狙う剣先が目の前に迫る。
ガタガタと体が震え、全身から汗が噴き出した。
もう、一回死んでるんです。
なんなら最初、ここがあの世だと思ってたくらいで。
「んんーーーー!!」
わたしは力いっぱいもがいた。
(それ、悪役のセリフだからーーーーっっ!!)
わたしの喉元に向かって振り下ろそうとしたとき、「やめろ!!」という叫び声とともに、フェンの体がわたしの足元の方へふっ飛んだ。