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じゃがいも?こうして、こうやって、こうしてやる!

***


カウルはおかわりの列に並ぶ者たちに、嬉しそうに対応するゆづかを眺めていた。


(やはり、リアとは違う)


リアは自分が働くという概念がなかった。以前、毎日遊び歩いている彼女に、少しは城の手伝いをしたらどうだと苦言をしたら、「なんでわたしが働かなくちゃいけないの?そんなのは下賤の者がやることでしょ」と鼻で笑っただけだった。

役職のあるもの以外は人間とも思っておらず、見下し、馬鹿にして、誰の言葉も聞こうとしなかった。


ゆづかという人間は、城の仕事も嫌がらずに行い、誰にでも挨拶なども積極的にし、明らかに別人であった。誰とすれ違おうとも、視線さえよこないリアとは違う。


楽しそうに料理をしていた。以前はほんの少し着物が汚れただけで激怒していたが、今は身なりなど気にしていない。


よく動き、よく笑う。

そんな彼女を気がつけば目で追ってしまう。


初めこそは責任もあり、監察が目的であった。

ついこの間までの彼女は到底許せるものではない。この国一美しいと言われていた容姿も、性格のワガママさが、きつい顔つきに見せていた。だが今はどうだろう。見た目は以前のリアのままなのに、別人に見える。今のゆづかを見ると、どうにも気持ちがソワソワとした。


隣の席のラジは無表情であったがチビチビと食べていた。美味いのが気に食わないといった感じで、なんとも納得出来なげに咀嚼する。


「美味いな」


声をかけると「まぁ不味くはない」と素直ではない返答がきた。

麺、という食べ物らしい。初めて食べた味と食感に、なんともいえない喜びが込み上げた。


しかし周りを見渡すと、素直に喜んでいるのは一部だった。半数以上は複雑そうな顔で食べている。まぁ、まだ仕方が無い。信用など出来ないだろう。


(このまま裏切ってくれるなよ)


これ以上何かしでかしたら今度こそ庇えない。頼むから改心して欲しい。


国を良くしたい。そして、出来れば先代の忘れ形見である彼女を処罰などしたくない。

彼女がここまで我が儘にのさばって来たのは、優しすぎる自分のせいだとラジとフェンには何度も怒られていたからだ。






リアを眺めていると、がしゃーーん!とテーブルが鳴り揺れる。周囲の器やコップが揺れスープが零れた。


不穏な音に、ガヤガヤとしていた食堂は一瞬にしてシンとした。

音の主はフェンだった。

テーブルを拳で叩いたフェンは、ギリギリと奥歯を噛み叫んだ。


「やってやれっか!!」


「フェン、落ち着け…」


手を差し出すが振り払われる。


「たかが1食作ったくらいで、罪滅ぼしになるとおもうなよ!リアのやって来たことは重罪!!みんな、こんなやつの飯を食うなんてどうかしてる!!」


フェンは一口も食べていなかった。吐き出した憎悪に、その場にいた三分の一ほどが顔を見合わせながら同意をした。


「まぁ、そうだよなぁ」

「また騙されるところだった」

「高貴なお姫様は、俺達が簡単に靡くから心の底でせせら笑っているんだろうよ」


久しぶりの賑やかな雰囲気の食堂に、正直に戸惑いを表せられなかった者たちも、ゆっくりとスプーンをおく。喜んで食べていた者も気まずそうにし、食べるのをやめてしまった。


「あ…」


ゆづかの眉毛が下がった。


「カウルが強く出れないのを良いことに取り入って、次は子供たちでも味方に付ける気でいたか?」


「違うよ、そんなつもりは…ただわたしは美味しいご飯を作って、それをみんなに楽しんで貰いたかっただけ」


泣くかと思ったゆづかは、唇をきゅっと引き結ぶとしっかりと答えた。


「少しずつでも信頼を得られるように、今、出来ることを一生懸命してるだけだよ」


「それが媚びてるっていうんだ!処罰が決まってから改心したように見せたって遅いんだよ!本当に忌々しいやつだ…!!」



フェンは一見、線も細く見た目も中性的なため、可愛らしく見えるが、誰よりも男らしい性格だ。体力と筋力は平均より少し上程度だが、魔力だけなら恐らくノーティ・ワンNo.1となる。

怒りと共にぶわっと噴出した魔力は、周囲の空気をビリビリと震わせた。


これには女性子供は勿論、警備隊の連中も震えあがる。ゆづかもきっと恐れたに違いない。


「っこんなもの……!!」


フォローしなくてはと思った時、フェンはテーブルに乗っていた器を数人分、なぎ倒しながら腕で払った。俺のは食べ終わっていたからスープが少量飛んだだけであったが、正面のラジのは少しまだ残っていたし、フェンのはまるまる残されていた為、中身が飛び散った。


「フェン!」


さすがに俺は怒った。

これはゆづかだけでなく、手伝った料理係達をも悲しませる行為であった。

ゆづかは料理が落ちた床を見て俯いた。さらりと落ちた金髪と拳が震えている。


「ゆづ…」


「ーーーーひどい」


彼女に駆け寄ろうと一歩を踏み出した時、ゆづかがきっと顔を上げ、俺は動きを止めた。


「わたしに怒るのは仕方ないけど、料理に当たるってのは違うんじゃないの?!これは、わたしだけじゃなくてみんなが協力してくれて出来上がった食事なのよ?」


「はっ!何様だ。リアにそれが言えた立場か」


「そうかもしれないけれど、でも今は…」


「うるせぇよ!お前と議論なんかするつもりはないね!リアの処遇には反対だ。俺は許さないぞ!」


フェンは俺のことも睨むと、椅子を蹴り倒すと食堂を出て行ってしまった。


「あ、フェンさん!」


直属の部下達が数人追って行く。ゆづかは悲しそうにそれを見送った。

フェンもそうだが、早めに不満を抱える者たちのケアをしないと、国が分裂しそうだった。



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