じゃがいも?こうして、こうやって、こうしてやる!
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わたしは目の前のジャガイモの山に目を輝かせた。髪を後ろで一つにまとめ、腕まくりをすると興奮して鼻息が荒くなる。
毒でももられては堪らないと、みんなに見張られながらの調理となった。カウルを始め警備隊のみんなも物珍しそうに覗いている。
食材を見せて貰うと、小麦や狩りで獲った獣なども備蓄されている。野菜や肉などは今までの生活と同じものだった。ショウガやソバの実、ミルクまである。ジャガイモ以外は量が少ない。希少な食材は城中に行き渡っていなそうだ。
(よし、これなら作れる!)
知らない食材もあるみたいだが、調理器具や調味料、火加減も初めてで手探りだ。失敗しないため、無難な食材で作ることにした。
キョロキョロとみまわすと廃棄のゴミ箱に鶏肉の骨が大量に捨ててあった。
「あの、これ捨てる奴ですよね」
「見りゃわかるだろ」
「貰いますね!」
「あぁ?ゴミをどうするってんだ?!」
鳥の骨を拾うと、沸かしたお湯で一度ざっと流してから、沸かしておいた大鍋に放り込む。
ついでにタマネギの皮や野菜の根など、捨てる部分を手当たり次第に放りこんだ。これはスープの下ごしらえ。棄てる食材にも栄養もダシもたっぷりあるんだから、活用しなくっちゃね。
「俺達に残飯を食べさせるつもりか!」
料理長を名乗る男が怒った。オレンジの髪をそり上げており形がパイナップルのようだ。彼はプーリーと言う名前らしい。
「まぁ見ててくださいよ」
大量にふかしておいたジャガイモを蒸し器からとりだすと、大きなボウルの中ですり潰す。
300人ほどが暮らしているらしい。大人数だから大変だ。
さすがに一人で全員分は作れないので、みなさんに手伝ってもらうことになった。
「こんな感じで、滑らかにすり潰したら塩を少し、それから小麦粉を混ぜて捏ねてください」
少しずつ小麦粉を混ぜながらやり方を見せる。ほんとうは重曹とかあると茹でた時にのびにくくなっていいんだけど。
「ふん、なんで俺がワガママ姫の言うことを聞かないといけないんだ」
彼らが手伝うことになったのはカウルが頼んでくれたからだ。文句を言いながらも手伝ってくれる。
「スミマセン、お願いします」
控えめにお願いすると、見張っていたカウルと目が合った。瞬きをするとカウルはふっと表情を和らげた。
かたぶつそうな顔が優しい雰囲気になる。ちょっとどきっとして、わたしはまた瞬きをした。
「…これは何をつくってるの?」
若い女の子が話しかけてくれる。
そう言えばいつも一人で作っていたから、過程を誰かに見られるのは初めてだ。ニヤニヤ動画の「作ってみた」で録画した過程を動画で流した事はあったが、リアルタイムっていうのはなかった。
「まだ内緒。絶対美味しいの作るから、楽しみにしててね」
嬉しくなってふふふと笑うと女の子は目を丸くして慌てて顔をそらした。
捏ねたジャガイモを耳たぶ程の堅さに調節すると、丸めて濡れた布をかけた。
生地を休ませる間に、スープの仕上げとジャガイモを茹でるためのお湯を沸かす。
スープが充分にダシを取れていることを確認すると、ザルでこしながら違う鍋に移した。塩とショウガを入れて味を調節する。
「うん。美味しい」
野菜のダシが優しく喉を通る。薄味のパイタンスープのような、しつこすぎないがしっかりとした風味が舌を喜ばせた。ショウカが鳥の臭みを消してくれ、後味も爽やかだ。上出来だろう。
プーリーにも試食をして貰うと、何も言ってくれなかったが目を見開いたのを見逃さなかった。わたしはその反応にテンションがあがる。
「俺にも」
後ろカウルが興味ありげに顔を出してきた。一口飲んでもらうと、「うまい…」とつぶやき、驚いた顔でわたしを見た。
味付けはこれから作る麺に絡むように、少しだけ濃いめにした。
ーーーそう。わたしが作ろうとしているのはモチモチのジャガイモ麺だ。
ホクホクも最高だが、ジャガイモのすばらしさは粉にも麺にも餅にもなることである。
「ふふふふふ、見てなさい。城の皆さんに最高の食事をとどけるわ!」
スープをおたまでかき混ぜながら笑っていると、カウルに「笑い方怪しすぎて魔女みたいだぞ」と突っ込まれた。