表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/41

めちゃくちゃ美人じゃないですか

***


手当が終わると食堂に案内され、食事をだしてくれた。ふかしたジャガイモだ。顔にかかるほど立ちのぼる湯気に、祭りで食べたジャガバターを思い出す。

皮付きのジャガイモはほくほくとし、柔らかい舌触りと微かな甘み、そしてバターの塩っ気が染みて、家で食べるより何倍も美味しく感じた。


出された物は味付けも何もない、質素なものだった。

中くらいのものがふたつほど。

普段のわたしであったら二つも食べないだろう。しかし極限まで飢餓を感じていたわたしはむさぼりついた。


熱々の芋が口の中でとろける。すこしでも栄養を取ろうと、皮も食べた。

いつもなら直ぐに水分が欲しくなるのに、今日はそれどころではなく喉に流し込んだ。


なんだか懐かしい味だ。のり塩やマヨバター、塩辛もなかなか美味しいよね。たこ焼き器で蒸して、アヒージョのように一口ずつ味が違ったら楽しいし写真映えしそうだ。ああ、生きているうちにインスタグリムにアップできてたら、たくさん評価もらえたかな。


食堂の料理人や給仕係らしき人たちは、何か言いたそうに顔をしかめ、必死に食べるわたしをじっと見つめていた。


「ああ、美味しかった。ごちそうさまでした」


パンと両手を併せて頭を下げる。凝った味付けばかりではなく、たまには素材の味をそのまま楽しむのもいい。


食べおわったお皿を持ちいそいそと立ち上がると、周囲の人たちがあり得ない、といった視線を向けてきた。


「お食事ありがとうございました。お皿はどこで洗うんですか?」


声をかけてみるがみんな困惑していて答えてくれない。ヒソヒソと耳打ちをし、一定の距離を取って近寄っても来なかった。

見かねたカウルが「こっちだ」と厨房へ案内してくれる。


厨房木の根を細く裂いたような面白いスポンジで洗う。白くてゴボウのささがきみたいだ。洗剤はかわいらしい壺にはいっていて、木のスプーンで掬って使った。『掛けすぎ注意』と書いてあったが、ティースプーン一杯でも多過ぎたようだ。泡風呂のように、シンクよから溢れるほど、もこもこと泡だってしまった。


泡がもったいなかったのとついでだったので、他の食器や調理器具も洗ってしまうことにする。


さすが城。大人数が暮らしているらしく、大量の皿があった。うつわや平皿すべてを併せると600枚くらいあったんじゃないだろうか。塗ってくれた薬が水をはじく優れものだったお陰で、傷口も多少ヒリヒリする程度だったため頑張れた。

しかし皿洗いも結構疲れる。腕が重たかった。



「ゆづかは皿洗いが好きなのか?」


厨房からの帰りがけ、わたしは本名を呼ばれたことに目を丸くした。


「いえ、特に好きとか嫌いとはなくて、泡だらけになったからついでに洗っただけだけど。それよりも名前…」


「なんだ。お前はゆづかという名前なんだろう?それともまた俺達を騙しているのか?」


「いえいえいえ!何も騙してないです!信じてくれたんだなって驚いただけで」


「まだ信用したわけじゃない。こんな皿洗いくらいで信用を取り戻せると思うなよ」


「も、もちろん」


ギロッと睨まれ、わたしは胸の前で小さなガッツポーズを見せた。

なんでわたしがリアの尻ぬぐいをしているのかわからないが、今はとにかく頑張るしかない。頑張らないと、命は危ういは、気軽に話せる仲間はいないわで、気が狂ってしまう。

今まではSNSがあったからそれでもよかったが、ここにはそういった通信設備はなさそうだし。


「本格的な仕事は明日からだ」


「は、はいっ」


こうしてわたしは、次の日から城の仕事を請け負うことになった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ