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8話 「海を統べる者」

 リヴァイアサンの首は亡者たちとともにずぶずぶと水の中へと溶けていく。


「感じるぞ! 川と一体となって我は還ってゆく! あの懐かしの海に……!」


 死を間際にしたリヴァイアサンに俺たちへの敵意はなく、ただただ歓喜しているようだった。


「数万年も待ち焦がれて、ついぞ果たされなかった願いが、今! ついに! 叶うというのか……!」

「そんな!? リヴァイアサンさんが……消えちゃうなんて……」


 さん付けだと『さんさん』ってなって言いづらくないか?

 リアはどうにもこの怪物に同情的だ。

 その優しさが彼女の本質なのだろう。

 さっきまで自分を殺そうとしていた相手に同情を抱く心のゆとりを俺は持てない。


「満足かよ? 今まで人を食うだけ食ってきた怪物だろ、あんた? 俺たちを殺そうとしていた気迫はどこへ消えたよ?」

「思えばこの姿になってからなにもかも間違っていた。海は生命のゆりかごだ。我は海の支配者としてこの世に生きとし生けるものを愛しく思っていた。それが怒りに囚われ、見境なく喰らうだけの化け物となり果て……。心のどこかでは止めてほしかった。殺してほしかったのだ」


「ずっとずっと一人ぼっちなんて……。そんなのつらすぎるよ……」


 リアは涙を溜めた顔を俯かせている。

 死にゆくものに同情するのは、己に傷を残すこともあるのであまりよろしくないのだが、だからといって同情するのをやめろとも言えない。

 リアのその優しさや感受性は彼女の長所でもあると思っているからだ。


 リヴァイアサンの顔はもう半分以上溶けている。

 残るのはそのいくつも連なった目玉をくっつけた上あごと頭から吊り下がったチョウチンだけだ。



「これは報いなのだ。我はこの結果に満足している。ネクロマンサーよ。我を怒りの牢獄から解き放ってくれたことに感謝する。我はまもなく川と、海と、水と一体となって自己を失う。だがそのまえにそなたに受け取って欲しい」


 するとリヴァイアサンのチョウチンのように光っていたものが、俺の開いた手の中に収まる。


「これは……!?」

「我が力の一部だ。実体を持ったものに幻影(ホログラム)を被せることができる」


 そしてリヴァイアサンから顎がぽろりと取れて俺の足元に転がる。


「我が顎は鋼鉄をも割く牙と、いかなる魔術も剣も通さぬ骨でできている。好きに使うが良い」

 

 確かにこの長い顎は(大振りではあるが)剣に使うにぴったりだ。

 剣の柄になりそうな部分まであるとは随分と器用な骨ではあるが……。

 ……。


「おまけにあんたの目玉つきか?」

「不服か? その目玉はもはや生きてもいないし、我がものでもない。我を解き放ってくれたのだ。もっと礼を与えたいところだが、今の我にできる最大の礼はこれだけなのだ」

「ゾッとしねぇと思っただけだ。あんたの礼はしっかり受け取っとく」

「さらばだ、ネクロマンサー。そなたの行く先に幸多きことを祈る」

「…………」


 俺は言葉を返さなかった。

 リヴァイアサンは何万年も前から存在した神話生物だ。

 それに対して「さようなら」とか「お元気で」とか軽々しく言えるだろうか?

 神代から生きてきた伝説に対して告げる別れの言葉なんて存在しない。

 だから俺は沈黙を返す。


「そして悲しむな、小娘」


 海の統治者は続いて、俺の隣ですっかり泣いているリアに別れを告げる。


「あ……」

「我は海へ還るだけだ」


 リアは涙でグシャグシャになった顔で精一杯頷いた。


「はい!」

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