表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/25

7話 「怪物」

 無能領主は殺した、慈悲はない。

 一応、村人たちに伺いは立てたんだけど、全会一致で処刑だった。

 いやー、恨みを買うと怖いね。


 で、なんやかんや村長やリアをはじめとする村人たちは、ネクロマンサーである俺を不気味がることもなく、無能領主を倒したとしてむしろ歓迎してくれた。


「救世主様!」

「あのひどい領主からわしらを救ってくださり、ありがとうごぜぇますだ」

「死者を操れるし、あの身のこなし、すげーよあんた! 最高にクールだぜ!」


 などなど称賛の声は後を絶たなかった。

 だけど彼らも俺がこれから川の神様をやっつけに行くと言ったらみんな途端に眉をひそめた。


「そ、それはいけねぇだ。川の神様は気性が荒れぇですし、なんでも討伐しに来た冒険者が返り討ちにされたそうで、とてもおっかねぇそうで……。それに神様の怒りに触れたら天罰が下っちまいますだ。くわばらくわばら……」

「でもアレク様は私たちを助けてくれたんですよ! アレク様はこー……、なんていうか……、そう善い人なんです! 神様は善い人には報いてくれるはずですよね!?」

「まあ、倒しに行くんだけどね」


 善人だからって殺されてくれる神様なんているのか?


「それでもアレク様はすごいんです! 神様みたいな奇跡だって起こせちゃうんです! だから神様だってきっとなんとかしちゃいます!」

「えぇ……」


 なんかいつの間にか神格化されてないか俺?

 まあ、信頼してくれるのは嬉しんだけどね。


「わかりやした。この子がそこまで言う程ならきっと大丈夫でしょう。くれぐれもお気をつけてくだせぇ」


 納得されちゃった……。


 モンスター退治……。

 このスキルを試すいい機会だ。


 この力がどれほどのものかまだ未知数だが、やはり実践あるのみだ。

 先程、手駒に加えた十人の兵士(あのデブ領主は使えないからネクロマンスしなかった)とリアを連れて、川沿いに歩くこと1時間ほどでビンゴを引いた。


 不自然に木造のダムで仕切られた池があった。そのダムに指を突っ込む子供がいた。


「あんなところに子供が!?」

「いや、あれは罠だ。この手の魔物はああやって同族に見せかけた餌で油断させたところをぱっくり行くんだ」

「このダムを決壊させてはいけない。ぼくはそのためにこうして指を突っ込んで塞いでいるんだ」

「話しましたよ!?」

「そういう魔物もいる」


「僕が指を離したら、最初は水鉄砲程度だけど、どんどん決壊していって下の方にある村は消えるよ」

「おい、ガキ! いくら脅そうが俺がお前を助けに近づくことなんてない! 観念して本体に戻ったらどうだ!?」


「チッ、ニンゲンは美談が好きだと思っていたんだがぁ。ガキがションベンで火事を救う話とかなぁ」


 先ほどまでの声変わりしていない子供のそれではない。

 この耳障りなほどゴロゴロと喉の鳴る声、これこそこのモンスターの正体だ。

 先ほどまで子供の形をしていたものは消え去り、チョウチンのような発光体となって浮き上がる。


 そしてダムが大きく横に割け、無数の牙を持つ巨大な口に変貌する。

 池の水が押し出されたかと思うと、巨大なワニのような怪物が現れた。

 凶悪な顎と一体化して幾重にも連なっている、爬虫類特有のギョロギョロした目が俺たちを見据える。

 俺はこの怪物を知っている……。


「リヴァイアサン……」


 これは想定外だった……。

 ただの水生モンスターならスキルを試すのにちょうどよいと思っていたが、まさか伝説級の怪物だったとは……。


 伝承によれば、その鱗は鋼鉄のごとき硬さで、人語を介する知能を有し、その頭から垂れ下がるチョウチンのような触手は幻影を見せるという。

 今までこの魔物を討伐しようと勇んで、一体何人の勇者が果てていったことか……。

 時の英雄や賢者のパーティですら屠ったという。


 まずいな、とりあえずリアを逃がさないと……。


「リア、とにかくこいつはめちゃくちゃやばい奴だから全力で逃げろ!」


そういってリアの方を振り向く。


「わぁ、とても大きいです! これが川の神様なんですね!」

「いや違うから!? あれはリヴァイアサンって言う伝説的にやばい魔物だから!」

「伝説上の存在なんてすごいです! わたしこの瞬間を一生忘れません!」


 リアの変なスイッチが入ってしまった。

 なんかこの子ちょくちょく、こういう譲らない時があるな……。

 好奇心を軸にして生きてるというか……いつかそのせいで死ぬんじゃないか?ってめちゃくちゃ心配になる。


「敬うがいい、小娘。我は海を総べる大蛇。……とはいえ今は首だけの残り滓だがな」


「今は首だけってことは、昔はもっと大きかったんですか?」


 なんで平然と会話しているんだこの子……?


「…………」


 リヴァイアサンも調子が外れたという様子だ。

 やつとしては何気なしに言葉を返しただけ、普通は恐れると思ったんだろう。

 こんな化け物然としたやつにまともに会話を返してくれるとは思わなかったんだろうな。

 

「貴様らを潤す川はすべて我が肉体だったものだ。かつては海の支配者だったが忌々しい神々によって陸に揚げられ、八つ裂きにされてしまったせいで、我は何万年もこの姿のまま、かつて我が肉体だったものに閉じ込められているのだ」


 心の整理がついたのかおもむろに身の上話をし出した。

 そんな地質学的な規模の話されても……。


「かわいそう……」


 ね?

 こんな月並みな感想しか出て来ないでしょ?

 って思ったけど。


 やべぇ、この化け物然としたやつと普通に会話してる時点で、クソ強メンタルすぎる。

 これは未来の大賢者様だわ。


「貴様らにわかるものか! 数万年も屈辱を味わされる我が怒りが! 貴様らも我が終わらぬ憤怒の贄となるが良い」


 怪物はそう告げると、周りの水が天高く巻き上がり、水の竜巻を形作って俺たちの方に倒れてきた。

 俺は瞬間的にリアをかばい横に避ける。


 リアが「きゃっ!?」と声を上げると同時に、水柱が隣で弾ける。そこに並んでいた十人の屍兵がばらばらの肉片に変わる。


 あーなっちゃネクロマンスできないな。

 せっかく手駒を作ったのに、初っ端から潰されるとは幸先が悪い。

 続いて怪物を中心にいくつもの水塊が宙に浮かび、俺たちめがけて飛んでくる。


 リアを抱えながらそれを悉く交わしていく。

 そして反撃とばかりに魔法で作った雷を飛ばしていく。

 それはことごとく弾かれた。


「無駄だ! 我が肉体はいかなる刃も魔法も通さん!」


 こいつを普通の方法で倒すことは不可能か!

 このまま逃げ続けるしかないのか?

 とはいえここは水場だ。

 逃げ道が少ない。


 敵もそれを知っているだろう。

 だんだん端の方に誘導されているのは理解している。

 とはいえ無防備なリアを逃がす必要がある以上、行動は制限されてくる。


 これはジレンマだ……。

 敵の攻撃をかわしながら、安全な場所まで避難するにはどうすれば!?


 俺がそんなことを考えていると声が聞こえてきた。


「わが力を以てしても討ち取れぬとは……化け物め……」

「これは、声……!?」


 それはこの場にいる誰の声でもない。

 俺の中に直接入ってくる思念だと直感的に理解できた。

 気配を感じる。


 こいつの体の中に無数の怨念がいるんだ。

 過去にリヴァイアサンに喰われていった哀れな躯が奴の中に眠っているんだ。


 ならば――!


 俺は自分の直感のままに彼らに命じた。

 自分を食らった者への報復を――

 するとリヴァイアサンに異変が起きる。


「ぐぁっ……! がはっ……!」

「ああっ! 見てください、アレク様! なんだか苦しそうにしてますよ!?」


 リヴァイアサンは苦しそうにその凶悪な口をパクパクとさせる。

 もはや攻撃できる余裕はない。


「貴様っ……、何を……した……がふっ……!」

「それがお前が雑魚のように食ってきた者たちの恨みだ、味え!」


 雑魚のように飲み込まれた人間の成れの果て、皮膚も解け切った骨だけの人型が群れを成して、顎を内側からこじ開ける。


「ぶつけてやれ! おまえたちの怨念を! あの人を餌としか思っていない傲慢な怪物に!」

「ぐああぁぁぁぁ……!!」


 口の奥からわらわらと這い出る骸骨たちがとうとう口に溢れ、その顎を引き裂いたのだ。

 ここにきてリヴァイアサンの『死』が近いのを感じ取った。

 死してなお体を内側からむしばむ亡者の執念を、力を、反乱を、この怪物にぶつけてやった!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ