表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/25

4話 「生死流転」

 その日、私は死のうとしていた。


 この川に私が身を投げればみんな幸せになれるのなら。

 それでみんながあしたからごはんをたべていけるなら。


 誰も泣かないで済むのなら。


 私は喜んでこの身を川の神様に捧げよう。

 


 そう、思っていた……。



 だけど、いざやろうと思うとなかなか足が踏み出せない。


 あと一歩、この川に踏み出せば私の小さな体は流されて、川の神様のもとへ行けるのに。

 そして暴れるのをやめてくださいと、神様に懇願すればいいだけなのに。


 震えている。


 川の水が冷たいからとかじゃない。

 死んでしまうことを怖がっているなんて自分でも初めて知った。


 だって、お父さんもお母さんももう天国にいて、私もそこに行きたがっていたはずなのに……。

 貧しいだけの暮らしに未練なんてないはずなのに……。


 なのに、どうして……?

 

 生きるか死ぬかの瀬戸際で私が葛藤していると、ふと、どんぶらこっこどんぶらこっこと大きなものが流れてくるのが見えた。

 

 目を凝らしてみると、それは人間だった。

 私より先に、決断を済ませてしまった人がいたなんて……!

 私もあの人のように踏み出して、流れに身を任せてみる……?

 

 いやいや、よく見るとあの人は変だ。

 足首に足かせがついている……。


 もっと変なのが魚だ。

 たくさんの骨魚があの人の体を乗せて泳いでいる……。


 不意に好奇心が膨らんでくる。

 さっきまで死のうかどうか迷っていたのなんてどうでもよくなっていた。


 今はよくわからないあの人を引き上げるのが先だ!

 私の探求心がそういっている。


 私は川原においた自分の服を割いてねじって、魔法でくっつけたり伸ばしたりして、両端を大きな輪っかにしてその一方を川辺の岩に巻き付ける。

 そして輪投げの要領で流れゆく人型にもう一方の輪っかを投げる。


 掠っただけだった。


 このままでは遠くまで流されてしまう。チャンスは後一度しかないだろう。

 私は焦りをしまい込み、水面に浮かぶわっかを手繰り寄せ、よく狙いを定めて第二弾を投げる。


「てりゃぁぁっ!」


 輪っかはまたも掠ったかと思ったが、足かせと重石をつなげる鎖に引っかかてくれた。

 私は即席の縄に魔力を流し込んで、がっちり輪を締めて、縄の強度を強化する。

 人一人分の重さ+足かせ+激流に逆らいながらやっとのことで引っぱる。


「よし、もうすぐ!」


 ようやく手の届くところまで引き寄せたところだった。


「あっ、縄が!」  


 縄に限界がきて割けてしまったのだ。

 ここまで来て川に持ってかれてたまるか!


 私は手を伸ばして遠ざかる彼の腕をつかみ、そのまま、一緒に川に勢いよく流されてしまった。

 図らずも、さっきまで逡巡していた一歩を踏み出す形になってしまった。

 顔が水に沈んだり、浮かんだりで苦しい。


 息ができなくて苦しい。

 死ぬのってこんな苦しいことだったんだ。

 

 このままこの人と一緒に川の神様の元に召されるのかな?


 いやだ、死にたくない……!

 死にたくないよう……!

 いまさらのように湧き上がる気持ち。

 それをあざ笑うかのように、川の激流は容赦なく叩きつけ来る。


 でもそれが唐突に終わる。


 私たちを運んでいた水の流れが止んだ。

 水に打たれて、流されて、沈んで、ぐるぐると動き回る視界の端で、さっきまで流木だったものが、一瞬にして――初めからそこに根付いていたような――大樹に成長していた。

 そして幹が九の字に曲がって私たちを受け止める。


 それにしがみつくことでなんとか河から上がることできた。

 今日は不思議なものを見てばかりだ。


 もしかして、これもこの人の力だろうか?

 私の「死にたくない」って願いを聞いて救ってくれたのかも……?


 息を切らしながら引き上げた『彼』は、ここらへんじゃ見ないくらい上質な服を着ていて、身なりがいい。

 どこかの大貴族なのかな?

 だけど生きているのか死んでいるのかわからない。

 いや、死んでいるのかもしれない。

 だって顔面蒼白だし。

 

 それでも脈を確かめてみる。

 すると驚いたことにかすかに鼓動があった!

 

 この人を死なせるわけにはいかない……!


 私は大急ぎで彼の胸に手を当てて、押す。

 ひたすら押す。


 そういえば息も吹き込まなきゃいけないんだっけ?


 恥ずかしいけど、人助けだもんね!

 恐る恐る唇を彼の紫色になったそれに近づける。


 冷たいが柔らかかった。


 息を一泊開けて「ふーっ、ふーっ」と吹き込む。


 まだ反応がないなぁ。


 もう一回胸に手を当てようとしたとき、彼の目がカッと見開いた。

 一拍おいて、水を勢いよく飲んだ時みたくむせる。


「よかった! 息を吹き返したんだ!」


 こんな自分でも人を救うことができるんだってうれしくって涙が出そうになった。

 咳が収まった彼は私の方を見てわなわな震える唇で話しかける。


「死後の世界ってのは裸の幼女がデフォなのか……?」


 それが彼の第一声だった。


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ