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2話 「転落人生まっしぐらだね」

 足が重い。視界がふらふらする。

 とぼとぼと王城から抜け出したはいいが、どこへ行こうか……?


 そこまで考えてばかばかしくなってきた。

 俺の居場所なんてもうどこにもないのにどこに行こうなんて考えることがばかばかしい。


 いつの間にか日が暮れていた。


 王城からは楽しげな声が聞こえる。

 きっと今頃はパーティーを開いているのだろう。

 そして俺のことを酒の肴に笑っているに違いない。


 でももうそんなことどうでもよかった。


 俺は何もかも失ったんだ。


 自分が今まで背負ってきた重課、それが俺の原動力だった。

 名門としての名に恥じない男になろうと血のにじむ努力をしてきたんだ!

 ずっとずっとずっと………!


 信じた人々には裏切られ、ぼろ雑巾のように捨てられて……!

 そう思い返すと怒りが湧いてくるはずなのに……。


 やはり喪失感と虚脱感が怒りの火を押しつぶしてゆく。


 もう俺には何もない。

 帰るべき場所もない。


 もう立っているのも億劫になって王庭の木にもたれかかってそのままずるずるとへたれこむ。


「殿下!」


 遠くで俺を呼ぶ声がする。

 声のする方を力なく振り向く。


 俺の下に駆け寄ってくる、長い黒髪と騎士らしく引き締まったしなやかな体つきの少女。


 従者のエリカだ。


 俺が幼いころからずっとそばにいてくれた同年代の少女。

 いつだって俺の味方だった。


 だが本当にそうか?

 ついさっき、弟にも婚約者にも裏切られたのに信じられるか?


「お前も俺を笑いに来たのか?」

「いいえ、殿下」


 目の前の少女は目に涙を浮かべながら俺の視界をふさぐ。

 柔らかい感触が顔にぶつかる。

 エリカが俺を抱きしめているのだとわかる。

 

「私は知ってます。殿下が当主たりえようと昔からずっと努力していたことを。私は知ってます。殿下が誰よりも自分に厳しく他人にやさしいことを」

「エリカ……」

「エリカはいつだって殿下の味方でございます。私、エリカ・ファルケンハウゼンは殿下に拾われたときから殿下の従者としてこの身をささげるつもりです、殿下」


 俺がエリカに出会ったのは10年前だ。


 エリカの家は当時、王国が併合した国の貴族だった。

 王国内にあって流浪の身となってしまったところをウチに使用人として引き取られた。


 その当時の彼女はどこかはかなげで、俺はどうしても放っておけなくて、よくちょっかいを出したものだ。


 最初の頃は無口で嫌そうだったが、だんだんと彼女も俺に心を開いてくれるようになった。


 なぜだか俺に懐くようになり、しまいには俺の従者になるべく、騎士になってしまった。

 まるで一匹の猫を手懐けたようだ。


「殿下からすべて奪ったうえで辱める、このような仕打ちは許せません!」


 そうだった。


 俺にはまだエリカという理解者がいるじゃないか。

 ずっとこの暖かさに身を任せていたい。


「アレク坊ちゃま、探しましたぞ!」


 またしても俺を呼ぶ声だ。

 今度はバーデン=ブロッホ家執事のハイドリヒだ。

 父の代から使え、俺に当主としての仕事を教えてくれた人でもある。


「国王陛下ならびに当主ガエウス様のご意向により、アレク様を避暑地まで案内いたします」


 避暑地?

 いや違うな。


 国王にとって俺は邪魔者でしかない。

 なら一生人目につかないところに幽閉するか、殺すかの二択だ。


「ハイドリヒ、あなたまで殿下を裏切ろうというのですか!?」

「裏切る? はて? 私はバーデン=ブロッホ家の執事にございます。当主の命に従うのは当然のこと。一門の恥さらしとなった忌みスキル持ちには早々に消えてもらいたいのですよ」

「言わせておけば!」


 歯噛みするエリカとは対照的に、ハイドリヒは軽薄に笑う。


 その背後から数十の衛兵が姿を現す。

 連中は俺たちを囲むようにじりじりと左右に動いてゆく。


「もし、従わないようなら力づくでも、そうたとえそのはずみで殺してしまったとしても、目の届かないところまで連れて行くようにとの仰せでございますゆえ」


 エリカが俺に耳元にささやく。


「殿下、お逃げください! 王国はあなたを亡き者にするつもりです。私が活路を切り開きますのでなるべく遠くまで走ってください!」


 そういってエリカは腰から下げた愛用のシミターに手をかける。


 まさかこの人数を相手に一人で戦う気なのか!?

 いくらエリカが抜刀術の達人でも形勢は不利だ。


 それに彼女の意を汲んで一人おめおめ逃げたところで、何になる?

 ここでエリカまで見捨ててしまったら、俺は本当に何もかも失ってしまう。


「いや、二人で逃げ延びるぞ。俺たちは主従なんだ。死ぬとしても一緒だ!」

「殿下……」


 エリカは何か言いかけたが、俺の意思を聞いて覚悟を決めたようだ。


「わかりました、殿下。殿下の進む先が私の進む先にございます。殿下の意志がそうであるならばどこまでもお供致します!」


 そういって俺たちは剣を抜く。

 それが戦闘の合図となった。


 エリカは抜刀と同時に敵中に切り込んでいき、目にもとまらぬ速さで鎧を身にまとった敵兵を切り裂いていく。


 そのスピードを活かした切れ味は、さすが「眠らぬ狼(インペーサ)」の二つ名を持つ抜刀術の達人にふさわしいものである。


 断末魔より先に、次々に敵を切り裂いていく。


 夜に照らされた返り血が彼女の剣舞を美しく彩る。


 さすがエリカだ!


 敵はすっかりおびえて後ずさっている。

 エリカの活躍あって漸減した敵は連携を乱している。


 俺はその隙を見逃さず、敵兵の後ろで狼狽した様子のハイドリヒに迫る。


「ひぃ……!?」


 獲った……!


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