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16話 「下準備と罠と」

「リア、俺についてくるからには、リアにも手伝ってもらうぞ」


 泣き止んだリアの頭をなでながらそういう。


「はい、なんなりと、アレク様」

「強化魔法は教えたよな?」

「物質を強化するあれですよね」

「そうだ、明日武器が届く。それを強化してほしい」

「わかりました! アレク様の役に立てるなら喜んでやります!」


 リアはまだ涙で湿った頬を緩める。

 そして、体全身を使って喜んでみせるが、暗闇の沼地だから危なっかしくて仕方がない。

 転ぶぞ?


「あっ」


 言わんこっちゃない――!

 案の定、バランスを崩して泥だまりに落ちかける。

 すかさず、彼女の体を支える。


「アレク様……」


 顔が近い――。

 リアはさっきまで思いっきり泣いていたせいか、暗闇の中でもはっきりわかるほど、

顔が赤い。

 俺は努めて紳士的に、彼女の上体を起こす。


「大丈夫か?」

「あ、あの、助けてくれてありがとうございます。私、浮かれすぎてたみたいで……」


 なんか、もじもじとしているなぁ……。

 

「もしかして体調悪い?」

「あ、いえ! そんなんじゃないんです……! ええと……」


 そして暗い沼地に探し物でもあるのか、キョロキョロと目を泳がせる。

 そして真夜中の湿原で穴を掘る屍者たちを見て、ハッとしたように――


「そう、屍者さんたちが何をやっているのか気になったんです!」


 ――ああ、そういうことか。

 本当にリアは好奇心旺盛だなぁ。

 少し微笑ましい気持ちで解説する。


「ちょっとしたおまじないさ。馬除けのね」

「馬?」

「ここらへんのぬかるんだ地面は馬にとって動きづらい場所だ。そのうえでちょっとしたトラップを仕掛ければ、こんな平地であってもお城になってしまうんだ」


 お城――というのはだいぶ誇張ではあるが、相手が騎兵中心であれば、その表現はあながち間違いじゃない。


「じゃあ、敵がお馬さんと一緒に来ても怖くないんですね!」


 『怖くない』か……。

 不思議だな……。

 明日には歴戦の傭兵団と戦うっていうのに、怖くない。


 俺は生まれてこの方、『死』の恐怖を感じたことがなかった。

 父が亡くなった日もそうだった。


 屋敷の階段で足を踏み外しての転落死だった。

 突然のことだった。


 俺に当主の座が回ってきて、父がやってきたこと、やっていくことのすべてを俺が背負うことになった。

 リアと同じくらいの年齢でそんな激務だ。

 俺は倒れた。


 死ぬかもしれないと医師が言っていたのを覚えている。

 そんな生死のはざまにあって俺に、『死』に対する恐れはなかった。

 思考はクリアだった。


「当主として務めを果たす――そのために死ぬわけにはいかない」


 ――と。

 今思えば、あれが俺が<ネクロマンサー>となる前兆だったのかもしれない。


「ああ、聞いてくれ、リア」


「はい!?」


 俺はリアの肩をつかむと――


「リアには俺の戦う姿を見届けてほしい」


――ここが明日、戦場になる。


 俺は勝利する。

 俺は生き残る。

 敵の首はドブに沈み、残るのは『死』と――

 俺と――

 そしてリアだけだ。


 確信はない。

 だがそれが真実だ。


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