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練習と本番 2

 

「あ、ごめん、音楽室にケータイ忘れた」


 バス前で気がつき玲奈に伝える。


「先乗ってて、あと先輩に言っといてー」


「わかったー、まだ時間あるから大丈夫だけど一応席取っとこうかー?」


「大丈夫ー空いてるとこ座るからー」


 そう言って急いで音楽室に戻り携帯を見つけバスへ戻るとほとんど座席は埋まってしまっていた。

 バスの中で、空いてる席を探す。

 後ろから二番目がちょうど一席空いているのを見つけた。


「よっ、準備お疲れさん、遅かったな」


 隣にいて声をかけてきたのは同じ吹奏楽部1年、パーカションの葉加瀬良次はかせりょうじ

 身長はそこそこ高く、所謂吹部のイケメン担当。


「お疲れー、ちょっと携帯忘れちゃってねー」


「そか、なんにしても間にあって良かった」


「うんありがと」


 これまで、あんまり話したことなかったのもあり少し緊張する。


「そういえば花咲はどんくらい吹奏楽やってんの?」


「中学では丸2年やってなかったけど始めたのは4歳からかなー」


「なるほどな、ブランクあってもそりゃ上手いわけだ」


「そんな、全然上手くないよ、それに多分今の実力だったらうちのパートの中で最弱だよ」


「流石にそれはねえだろ、それに先輩たちもみんな言ってた、今年のトランペット1年はメンバーが最強で他のパートより頭一個抜けてるって」


「そんなこと言われてんの?」


「ガチで、みんな言ってた、だからコンクールメンバーに全員選ばれてもおかしくないんじゃないかって」


「そーなんだ、知らなかった」


「最上とかあれ同じ1年のレベルじゃないだろ、演奏初めて聴いた時バケモンかと思ったよ、パーカスの奴らも下手したら先輩たちより上手いんじゃないかって言ってたぞ」


「玲奈は凄いよー、あたしと同じで4歳から始めて今までずっと続けてるみたいだからねー、中学でも相当上手かったらしいよー」


「そうなんか、けど俺から見たらお前も相当なバケモンだけどな」


「そのバケモンって、なんか響きが可愛くないから嬉しくなーい」


「ごめんごめん、けどそんぐらい凄いって思ってるってことだよ」


 そういえば他のパートのことはあんまり気にしたことなかった、流石に誰がどこのパートかぐらいはわかるのだが。


「はーい、そろそろ出発しまーす、みんな忘れ物ないー?」


 優香部長の一声で全員の意識が集中する。

 いつ聴いても本当に透き通った綺麗な声をしている、それに後ろの席までよく響く。

 そしてバスは出発した。

 こういった発表のようなことは小学生以来、久しぶりだったので少し緊張している。


 会場に着くとそこそこ多くの観客があった、さすが全国の強豪校が集まるだけのことはあるなと思う。


「すっごい人ー、あたし緊張してきたー」


「えー、玲奈はこういうの慣れてるでしょ?」


「そーだけど高校入って初めてのおっきい舞台で演奏だからあたしだって緊張ぐらいするよー」


 そう言ってる玲奈からは正直あまり緊張は伝わってこない。

 むしろワクワクしすぎて早く吹きたい、早く演奏したいっていう感じがビシビシと伝わってくる。


「いたー、おーいかっすみー!」


 二人から少し離れたところで空の声が聞こえる。


「わぁ、空と奈々子じゃん!久しぶりー!2ヶ月ぶりぐらい?」


「そうだね、卒業してからだから2ヶ月ぶりぐらいだねー」


「香澄元気してたー?」


 どうやら二人と会話してるのが中島香澄という人物のようだ。

 隣にいた玲奈がいきなり腕を引っ張ってきた。


「奏ちゃん!あれが噂の中島さんだよ!早くあっちいこーよ!」


「ちょっ、玲奈っ、痛いって、引っ張んないでよー」


 いつも通り強引に香澄のところまで引っ張られてしまった。


「おお、奏と玲奈いいところにきたー、紹介するね、この子が前に言ってた中学の頃の……」


「中島香澄さんですよね!会って話してみたかったんですよー!」


 空の紹介を聞くより前に玲奈が飛び出した。

 中島香澄、髪は長く黒髪でストレート、綺麗な瞳をしていてなんだかお人形さんみたいな印象を受ける。

 しかしいざ対面した瞬間に圧倒された。

 そこには圧倒的な強者のオーラがあった。


「えーと、空と奈々子のお友達?」


「はい!最上玲奈です!こっちは花咲奏ちゃん」


「あ、どうも、奈々子はしっかりしてるからあれだけど、空がお世話になってます」


「香澄ー!」


「あはは、冗談冗談、で、二人はなんの楽器をしてるの?」


「二人ともトランペットです!」


 玲奈は物怖じせず堂々と会話を続けている、玲奈のこういうところは正直尊敬する。


「そうなんだ、私と一緒だね!演奏楽しみにしてるね!」


「うんっ!あたしも中島さんの演奏楽しみにしてる!!」


「……じゃあ、あたしはそろそろ戻るわ」


 そう言って香澄は他校の生徒の所へ戻って行った。


「あたしらも戻ろっか。玲奈?どした?」


 玲奈の様子が少しおかしい。

 若干だが震えてるようにも見える。


「すっごいオーラだったね!中学の時は正直あんまり気づかなかったけど実際対面したらヤバかったー!あの綺麗な目に飲み込まれそうだったよー!」


「そ、そっか、それにしてはしっかり喋れてたけどね、あたしなんて圧倒されちゃって何にも話せなかったし」


「やっぱ初対面だとそう思うかー、私も空も最初はビビってあんまり話せなかったこと思い出すよー」


「だよねー、香澄って普段はなんてことない普通の子なんだけど演奏会とかコンクールの時会うと凄まじいオーラ出てるよねー」


「……ホントあーゆーのは奏ちゃんだけで十分だっての……」


「ん、なっか言った?」


「なーんにもないよ!戻ろっ!」


 玲奈はそそくさと自分たちの部活のところに戻って行った。

 それにしても香澄は凄まじかった。

 自分たちの演奏よりも、早く香澄の演奏が聞きたいと思ってしまう程に。



 今日のコンサートは吹奏楽だけで5校演奏があるようで、自分たちの学校は4番目、香澄のいる県高はどうやらトリの5番目のようだ


「私たちの順番は4番目です時間厳守です!間違えないようにしてねー!特に花咲っ!」


「はっ、はいっ!」


 副部長の純奈先輩からの唐突な指名に香澄のことで頭がいっぱいだったためかなり驚いた。

 部長は他の高校との全体の打ち合わせに行ってるらしく代わりに純奈先輩が全体の指揮をとっていた。

 周りの同級生たちからクスクス笑い声が上がる


「はっ、はいっ!じゃねーよ、ちゃんと聴いてたかー?」


「……すいません」


「ったく、本番前なのに気抜けすぎじゃ無い?」


「大丈夫です!」


「なら良かった、頼むよホントにー」


 そして始まった本番、最初から全国まで出たことのある強豪の高校が出てきて観客もざわついていた。

 部内のみんなも会話はほとんどなく、他校の演奏を集中して聴いているようだった。

 そんな中、美咲先輩は躊躇なく絡んでくる。


「そんな硬くなんなくてもいいのにねー、奏姫」


「誰が姫ですか、先輩も集中してください」


「奏ちゃんはノリが悪いなー」


「先輩が空気読めないんですー」


「そいえばさ、香澄に会ったの?」


 美咲先輩から思いもよらない名前が飛び出してくる。


「香澄って……、え?先輩中島さんのことですか?」


「そうそう、中島香澄」


「お知り合いなんですか?」


「お姉さんはなーんでも知ってるからねー、それで、どうだった?」


「またそれですか、どうって言われても何がですかー?」


「香澄ちゃんに会ってみてよー」


「……別に……」


「なーんだ、てっきり気圧されちゃったのかと思ったのにー、つまんなーい」


「まあ、多少は気圧されましたけど、最初だけです」


「そっか、じゃああの子には勝てる?」


「いや、勝ち負けとかじゃ無いでしょ、別に競ってるわけでも無いですし」


 そうだねと返して美咲先輩はそれ以上何も言わなかった。

 その時は勝てるかどうかと言う質問を深く考えたりはしなかった。

 そして、ついに4番目の自分たちの出番がきた。

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