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花火と合宿 1


「奏、おめでとう」


 コンクールが終わり、伊織にまた声をかけられた。


「伊織は、……残念だったね」


 伊織の学校は金賞こそ取れたものの、いわゆるダメ金という関西大会へ進めない金賞だった。


「しょうがないよー、うちの学校そこまで上手く無いからさ、でも奏の学校はやっぱり別格だった」


 伊織は少し悔しそうにしていた。


「それに奏はさすがだよ、2年ぐらいやってなかったはずなのにそんな学校でもちゃんとコンクールメンバーになってて」


「あたしも入ったときは正直コンクールメンバーにはなれないと思ってたんだけどさ、幼馴染にただ楽しんだらいいんだよって言われて」


 多分それが、自分の始まりだった。

 あの言葉があったから、自分は今こうして強豪校のコンクールメンバーとして演奏できる。


「それで毎日楽しくてさ、でも周りは凄い上手い人ばっかりだから負けたくなくて、誰よりも努力して、じそしたら自信もついててさ、……ってあたし何話してんだろ」


 照れ臭そうにしながら伊織の方を見ると、優しく微笑んでくれていた。


「いいじゃん、やっと奏の場所が見つかったんだね」


「そうだね、そうだよ、やっと見つかったの、頑張ろうって思える、頑張っても許される場所が」


「でも、来年は負けないから、あたしだって絶対上手くなって奏に追いついてみせるんだから」


「楽しみにしてる、じゃあ……またね」


「うん……また……」




 伊織と別れてみんなのところに戻ると玲奈が心配そうに駆け寄ってくる。


「奏ちゃん、探してたんだよー、どこ行ってたのさー」


「ちょっとね、中学の時の友達に会ってた」


「中学の時のって……」


 玲奈は自分の空気を察してかそれ以上は言及してこなかった。


「っと早く戻んないとだね」


「そうだね!……あのさ奏ちゃん」


「ん?どした?」


「初めてのコンクールはどうだった?」


 玲奈は少しだけ心配そうな表情をしていた。


「そうだねぇ、吹奏楽やってて本当によかったって思ったよ」


 玲奈の顔がパアッと明るくなった。


「ならよかった!いこっ奏ちゃん!」


 玲奈は自分の腕を掴んで走り出した。




 帰りのバスは息と行きとは違って全員の緊張が解けたからか賑やかな雰囲気だった。

 玲奈と空いてる席に腰掛ける。


「さて、25日、何時に集合しよっか?」


「ん?なんの話?」


「奏ちゃん、花火だよ!来週だよ!」


 すっかり忘れていた、空は大丈夫だろうか。


「そっか、そうじゃん!8時ぐらいでいいんじゃ無い?花火上がるのって確か9時からでしょ?」


「りょーかーい、じゃあそれぐらいに奈々子ちゃんと一緒に迎えに行くねー」


「空の邪魔しないようにだね」


「いや、ここは後ろからついて行っちゃおうよ」


「えー、辞めようよー、可哀想だし邪魔しちゃ悪いってー」


 それに負け組みたいでなんか癪に障る、まあ彼氏がいないという点においては負け組なのだが。


「えー面白いと思うんだけどなー」


 どこまで本気なんだコイツは。

 でもほんの少しだけ自分も気になるのは確かだった。


「上手く行くといいねー」


「奏ちゃん、本気で思ってる?」


「そりゃあ、ねえ」


 友達が幸せになるのならいいに越したことは無いだろう。


「なるほどねー、ならいいんだけどさー」


 玲奈は何か意味ありげな様子だった。

 なんとなく思ってることがわかるので一応釘を刺しておくことにした。


「ちなみに玲奈が思ってるようなことあたしは思ってないからね?どーせ葉加瀬くんのことあたしが気になってるんじゃ無いかーとか思ってるんでしょ?」


「ご名答!よく分かったねー!」


「なーにがご名答!だよ、無いから、絶対!」


 それを聞いて玲奈はあからさまにつまらなさそうな表情をしたので、頭をこついておいた。

 無い、絶対に、自分が誰かを好きになるなんてことは今は考えられない。

 今はトランペットが楽しくて、部活が楽しくて、友達といるのが楽しくて、それ以上は何もいらない。


「あ、でもねあっちは案外あるかもだよ?」


「玲奈、また叩かれたいの?」


「きゃー奏ちゃん怖ーい」


 そうして玲奈とワイワイやりながら学校へと戻った。




 一学期が終わり、夏休みに入った。

 クマ先生から配られた練習の日程表はほとんどが真っ白で書かなくても練習するのが当然だと言っているようなものだった。


「みなさん、明日から夏休みです、夏休み期間の練習は早くきて始めるのは自由ですが必ず10時までには全員集合するようにしてください」


「先生、この黒くなってる部分はなんですかー?」


 部員の一人から声が上がる、確かに8月の真ん中あたりが3日程黒くなっている。


「そこは全員必ず開けておくようにしてください、今年も昨年同様に近くの宿舎を借りて合宿を行う予定ですので、予め親御さんに伝えておくようにしてください」


 合宿、これも初めての経験だ、泊まり込みということで楽しみではあるのだが、正直なところ3日程度で何が変わるのだろうか、正直合宿というものに疑問を感じた。


「なにー、奏ちゃん合宿楽しみじゃ無いの?」


 美咲先輩が絡んできた。


「家、嫌いもなにも行ったことが無いのでなんとも」


「あ、そうなの?ちなみに覚悟しといた方が良いよー、うちの合宿えげつないぐらいキツイから」


「そうなんですか?」


「そうそう、夢ちゃんなんか去年……」


「美咲先輩!後輩になに言うつもりですかー!」


 美咲先輩の声が聞こえてか夢先輩が慌てて話を遮った。

 夢先輩の慌てようを見るとなにがあったのか少し気になる。


「花咲も気にしない良いから!」


「はっ、はいいー」


 どうやら合宿は本当にキツイようだ。

 玲奈はそこまでキツイ練習なら尚更楽しみだと言っていたが、先輩達の雰囲気と話を聞いてゴクリと音を鳴らしながら唾を飲み込んでいた。

 ちなみに後々聞くと夢先輩は去年、練習がキツすぎて鼻血が出ているのに気づかずそのまま貧血で倒れたらしい。




 そして花火大会当日、いつも通りの慣れたキツイ練習が終わり、奈々子と玲奈が家に来た。


「奏ちゃん浴衣似合うー、なんか隣歩きたくなくなる……」


「うわ、奏ホントに可愛い、流石は吹部の美少女代表……」


「ばか、なに言ってんの二人とも、それに美少女代表って何」


 勝手に変な代表にしないで欲しい、それに自分からすれば玲奈も奈々子も浴衣がしっかり似合っていると思うのだが。


「つまんないこと言ってないで早く行こ」


 花火大会は既にかなりの人だかりだった。

 

「何たべよっか?」


 二人に投げかけてみる。


「んー、とりあえず甘いものが良いなー、奈々子ちゃんは?」


「あたしも甘いもの食べたいかも、綿飴とか良いんじゃ無い?」


 玲奈は綿飴に賛成なようで屋台を探すことになった。


「あ、あれ智香先輩じゃない?」


 玲奈が指刺したかなり先の方に智香先輩らしき人物が見えた。

 というかよく気づいたものだ、言われなければ認識するのは難しい距離だ、奈々子もよく見えるねと感心していた。


「隣は彼氏さんかなー?ちょっかい出しに行く?」


「あたしパス!流石に怒られるよー」


「えー、奏ちゃんノリ悪いー、奈々子ちゃんは?」


「面白そうじゃん、行こうよ!奏は行かない?」


「行かないよー、智香先輩怒ると怖いし、あたしは綿飴買いに行ってくるから橋のとこで待ってるねー」


 了解と言って二人は智香先輩のところに行ってしまった。

 綿飴の屋台はすぐ近くにあったので3人分注文する。


「花咲?」


 突然名前を呼ばれ、振り返ると空と葉加瀬だった。


「なんで一人でいるんだ?」


「玲奈と奈々子ときてるんだけど、二人智香先輩のとこ行っちゃってこうして残ったあたしがパシられてるって訳」


「ちょっ!智香先輩のとこはやめといた方が良いって!あの人彼氏の話になるといつも以上に怖いんだよー」


 空は何かを思い出したこのようにかなりビクビクしていた。


「いやーあたしもやめとこって言ったんだけどねー、っていうかあたし達のことは良いから二人は楽しんできなよー」


「ちょ、花咲押すなってー」


「そうだよ奏ー」


「空、頑張りなよ」


 空にだけ聞こえるように耳元で囁くと、空は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。

 そうして二人は人混みに消えていった。

 その後ろ姿を見ていると何故だか少しだけ心がモヤモヤした、気がする。

いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!

コンクール編もうちょっとボリューミーにしたかったのですが、とりあえず先に進めます。

また改稿してもう1話ぐらい追記するかもですが、その時はまた読んでやってくださいなー

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