演奏と自信 1
部活が終わって鍵を返しに行き、駐輪場に向かう。
「遅くまでお疲れさんだね」
そこには奈々子の姿があった。
「奈々子どしたの?」
「いやー、奏とちょっと話たくってねー」
「そんな待ってるなら言ってくれたらよかったのにー」
「奏1人で残って練習してるのに邪魔しちゃ悪いなーって思ったからさ、それにあたしもそんなに待ってないし」
「そうなの?じゃあよかったけど」
「玲奈は今日一緒じゃ無いんだね」
「あーなんか今日家族で外食らしくて先帰っちゃった」
「そっか、あたしらも帰ろっか」
奈々子とこうして二人きりで帰るのは考えると知り合ってから初めてだ。
「空のこと、ありがとね」
「それ智香先輩にも言われたけどホントにあたしなーんもしてないよ」
「いやいや、奏と玲奈のおかげで上手くいったんだよ」
奈々子はどこか寂しそうな後悔しているような表情で続けた。
「それに、あたしは何にもできなかったから」
「奈々子……」
「空に相談された時、もしダメだったらあの子が傷ついちゃうかもって思ったら何にも言ってあげられなかったんだよね」
その時の奈々子に対して自分は落ち込むなよとしか言葉をあげられなかった。
奈々子と別れて一人で自転車に跨っていつもの自主練の場所に向かう。
あたりは夕日も既に沈んでしまい真っ暗だ。
前にクマ先生に言われた言葉を毎日考え練習しているが正直掴めない。
「みんなの為の演奏……」
みんなを引っ張る演奏とはなんだろう、みんなにあわせるではなく、かと言って自分だけ走るような演奏ではいけない、クマ先生は具体的にどんな演奏を自分の課題として与えたのか。
「もーわっかんないよー!」
「何がわかんないんだ?」
自分の独り言に突然質問が飛んできたのでかなり驚いた。
声のする方を見るとそこには葉加瀬がいた。
「葉加瀬くん、なんでこんなとこにいんの?ってか独り言聞かれた……」
「たまたまコンビニ行ってた帰りでトランペット聞こえて誰かなーって思ったからさ」
コンビニまでは少し距離があるのでそこまで聞こえてるのかと思うと迷惑になっていないか少し心配になった。
「お前って独り言とか言うのな」
「ちょっと!恥ずかしいからやめてよ!」
「悪い悪い、にしても自主練毎日やってるとは聞いてたけどすげえな、そりゃ上手いわけだわ」
「褒めてもなんもあげないよーだ」
「いらねーよ、ってか逆にこれやるよ、差し入れってことで」
葉加瀬はそう言うとコンビニのふくろからチョコミントアイスを取り出して差し出してきた。
「え?いいの?しかもチョコミントじゃん、あたし大好物なんだよねー」
「そうなのか?よかった」
ベンチに座ってアイスを食べる、なんとなく夏が近づいてきていると実感する。
「あのさ……」
「んー?」
「お前は誰かと花火大会行かないのか?」
「玲奈が行きたいって言ってたかな、あ、けど安心して!葉加瀬くんと空のこと見つけても流石に声かけたりしないからさ!」
「いや、別にいいぞ気なんか使わなくても」
「空に気を使ってんの、あの子……本気だからさ」
「本気って?」
「葉加瀬くん流石にそこまで鈍感じゃ無いでしょ、わかりきってることいちいち聞かないでよ」
「そうだよな、突然誘われたからびっくりしたけど流石にそういうことだよなー」
「そーいうこと、だから空のことしっかり見てあげて欲しい」
葉加瀬は何か言いたげな顔をしていたが、ただわかったと言うだけだった。
少しだけ罪悪感があるのは葉加瀬のことを全く考えず断りづらい状況を作ってしまったことだ。
葉加瀬ももしかしたら気になっている人を誘って行きたかったかもしれないと思うと申し訳ない気持ちに
なる。
「オレそろそろ帰るわ」
「うん、アイスありがとね、あたしはもうちょと練習してから帰る」
そうか、とだけ言った葉加瀬の後ろ姿は少し寂しそうな感じがした。
コンクールを前日に迫った日、部内の雰囲気は緊迫した状態だった。
今日は明日に備えて練習を早めに切り上げて帰るようにクマ先生からも指示がでた。
「花咲、最上、あんたらも今日は自主練禁止、明日に備えてしっかり寝ること!いい!?」
夢先輩から自主練禁止をくらってしまった。
言われなくても今日は流石に帰るつもりだったが。
「で、お二人は今日暇だったりするよね?暇じゃなくても付き合ってもらうんだけど」
夢先輩は前に誘われてから自分に対してだけか分からないが強引になってる気がする。
多分横でニコニコしてるこの野郎のせいだ。
「いいですよー、奏ちゃんもいいよねー」
玲奈は嬉しそうに応える。
「大丈夫ですよ、どこいくんですか?」
「ん?近くのデパートあるじゃん?あそこついてきて欲しいんだよねー」
「なんか買い物ですか?」
「まあちょっとねー」
ということで夢先輩と玲奈と3人でデパートにいくことになった。
放課後、練習が終わり夢先輩と玲奈と近くなので歩いて向かうことにした。
「買いたかったものってこれですか」
「そう!パワーストーン!」
「夢先輩ってこういうの好きなんですね」
「まあねー、趣味みたいなもんだよー」
あまり気にしたことがなかったが夢先輩の腕にはよく見ると蒼いブレスをしている。
「というわけで二人には先に買ってたやつ渡しとくね」
「え?なんですか?」
「プレゼントだよ、明日渡そうかと思ったんだけどついてきてくれてるから先に渡しとくね」
「ありがとうございます」
「可愛いー、夢先輩ありがとうございまーす」
玲奈はふくろを開けて早速つけていた。
そのブレスにはオレンジの太陽のような石が輝いていた。
「それはサンストーンっていう石だよ、勝ちたいっていう気持ちをその石に込めて頑張って」
「はいっ!奏ちゃんのも見せてよー」
そう言われて開けてみると純白に近い輝きの美しい石が現れた。
「……綺麗な色……」
「花咲はちょっと悩んだんだけど昔のことはもう大丈夫そうだったからこれからのことを考えて選んでみたんだ」
豊かさと成功へと導く祈りの石、エンジェライト。
「インスピレーションを高める石って言われてるんだけど、私的に花咲に似合いそうな色だなーって思ったんだけどよく似合ってるよ」
今の自分にぴったりなのかもしれない、全員を引っ張れるような演奏が降ってきてくれると信じてつけて練習しよう。
「さて、今日は先輩達の選ぶの手伝ってよね、そのために連れてきたんだからさ」
そうしてトランペット3年の先輩達の石を選んだ。
「っていうか夢先輩、お金いいんですか?」
「いいのいいの、わざわざついてきて貰ってる後輩に出させるみたいなことはしないよ」
「なんかすみません」
「それに先輩達このコンクールが最後じゃん、最後に支えてくれたお礼がしたくてさ」
「夢先輩、最後じゃ無いですよ!」
夢先輩の言葉に玲奈が反応する。
「あたし達は全国まで行くんです!まだこの吹部はここからです!」
夢先輩は玲奈の言葉に目を丸くしていたが、少し微笑みながらそうだねと応えた。
その日、玲奈と話し合ってそのまま夢先輩を連れて晩ご飯を御馳走することにした。
夢先輩は気を使わなくていいと言っていたが、流石に入部からしてもらってばかりだったので、こういう時にお返しをしておきたかった。
店は個人的にはパスタが食べたかったのだが、明日に備えてなのかなんなのか玲奈がこういう時はカツを食べるべきだと言って聞かなかったので串カツ屋にした。
「いやー、ありがとね二人とも」
「いえいえ、さっきのブレスのお礼です」
「次は関西進出したら吹部全員できたいね!」
「そうですね、全国に向けてまたカツを食べにきましょう!」
「玲奈、カツにこだわりすぎだよ」
玲奈はいつも通り嬉しそうに笑っていた。
明日はついにコンクール、自分の演奏はまだみんなを引っ張っていけるような納得できる演奏には届いていないが、それでも費やした時間は自信につながっている。
朝、いつも通りの時間に玲奈と合流する。
「おはよ、行こっか」
「奏ちゃん、勝とうね」
玲奈の言葉に一気に気合が入った。
祝、5万文字達成!
読んでくださっている方々のおかげでモチベも落とさず続けられています、感謝です!
目標の10万文字まで折り返し、止まらないっすよー!
次はいよいよ県大会編です、一応題名てきにはこの話からスタートですが、近いうちに全話の題名考え直すかもです、とりあえず仮ということで……




