友情と恋愛 6
花火大会の日程は7月の終わり頃、県大会の日の後に行われるようだ。
「えーっと、それで奈々子にはそのこと言ってるの?」
「言ったんだけどなんか微妙な反応しかしてくれなくてさー」
おそらくだが、奈々子は今の空の状況を察してどう返すべきかを迷ってしまったのだろう。
仮に誘ったはいいものの断られでもしたらそれこそコンクールどころではなくなってしまいそうだ。
逆に吹っ切れる可能性もあるがリスクはかなり高い。
「多分気付いてると思うんだけど、あたし最近全然ダメなんだよね……」
「そうだね、調子悪そう、空がクマ先生に名指しで怒られてるの初めてみたもん」
「それだけじゃないよー、パート練でも智香先輩にバチクソに怒られて恋愛なんかで悩んでるならいつもみたいにがむしゃらにやってさっさと吹っ切れてこいって言われて……」
「それで花火大会に誘おうと思ったわけねー」
「そうなんだけど、男子とか誘ったことないからどうやって誘ったらいいかわかんなくてさー」
「なるほどねー、普通に誘ってみたら?」
「でも葉加瀬くん気になってる人いるんでしょ?もしその人と行きたいって思ってたらあたし邪魔者じゃん……」
「そんなの気にしないで言っちゃえばイインダヨ!」
突然口を出してきた玲奈だったが多分なんの根拠もないのか若干カタコトになってしまっている。
でも自分も同じ考えだ、待っていてもチャンスがこないなら責めるべきだと思うし、そうすればもし葉加瀬の意中の相手が空じゃなくても振り向いてくれる可能性がある。
「まあ、あたしも玲奈と同意見、やらなくて後悔するよりやって後悔するほうが絶対いいよ」
どことなく自分のコンクールオーディションに似てるなと思った。
「それに、今のままじゃ空自身も何にも変わんないよ?」
「だよね!あたし頑張る!」
「そうだよ!さっさとオッケーもらってコンクールに集中だよ!あ、でも空ちゃんのことだからおっけもらったら浮かれちゃって余計練習にならなくなったりしてねー」
「玲奈ー、怒るよー」
冗談だよと笑って逃げる玲奈を空が追いかけて捕まえた。
「空ちゃん!そうと決まれば、早速今日誘ってみよ!」
「え?今日?」
「今日!善は急げだよ!奏ちゃん、葉加瀬くんに電話!」
「え?あ、あたし?」
「だってこの中で一番仲良いから来てくれる可能性高そうだし」
オーディションの後のこともあって正直話しづらい。
だが、目の前の友人二人の目はキラキラしておりかなり期待している様子だったので断りにくい雰囲気だ。
「……しょうがない……」
「さっすが奏ちゃん!場所はいつも自主練してるとこでいっかー」
そう言われてとりあえず電話をかけてみる。
3コールぐらいして通はがつながった。
「あ、もしもし、ゴメンねいきなり電話して」
『おう、どうした?』
「あ、えっとね、今からちょっと来て欲しいところがあって……」
場所を伝えると葉加瀬はなにも聞かずすぐに行くとだけ言ってくれた。
そして自分たちも約束の場所に向かう。
数分して葉加瀬がやってきた。
「ゴメンね、いきなり呼び出しちゃって」
「お、おう……、で。どうした?」
葉加瀬はどこか緊張してるような様子だった、それを感じてか自分も少し緊張する。
玲奈と空は少し離れた茂みに隠れてもらってる。
「あ、用ってのはあたしじゃないんだけど……」
空を呼ぶ前に一応前のことを謝っておこうと思った。
「その前に、葉加瀬くん、前は理由もなにも言わずにあんんな態度になっちゃってゴメン」
「え?ああ、あの時のことか、ビックリしたけどあれは空気読めなかったオレが悪い、オレも謝りたかったんだよな、ホントゴメンな」
「いや、そんな……」
「そういうことでいいんだよ、それで、用事は?」
「う、うんちょっと待ってて」
この人は本当に顔も心もイケメンだと感じた。
何にせよ自分のことは済ませたので茂みに空を呼びにいく。
「空、ガンバレっ!」
なかなか前に出ない空の背中を押し出す。
玲奈はずっとニヤニヤしている、というか少しは手伝え。
「最上と大橋?」
「ゴメンねー葉加瀬くん、成り行きであたしもいちゃうんだけど用事があるのは空ちゃんなの」
「そか、それで何?」
「……えっと……その……」
空はずっと下を向いていたが覚悟を決めて顔をあげた。
「葉加瀬くんよかったら、その……花火大会の日って暇してたりしないかな!?」
「花火大会?」
「そう!花火大会!7月の終わりにあるんだけど……」
「県大会の後のやつか、特に予定はないかな」
「それ、あたしと一緒に行って欲しい!」
「え?オレと?」
「……ダメ……かな……?」
葉加瀬は一瞬こっちを見る。
何か言おうとしたが少し考えてすぐに空の方に目線を戻して応えた。
「いいよ、オレなんかでよかったら」
空の顔がパアッと明るくなる。
自分のことのように嬉しくて玲奈と勢いでハイタッチを交わした。
「やったね空ちゃん!」
勢いよく玲奈が空に抱きついた。
「玲奈、痛いってー」
葉加瀬も少し照れ臭そうにしていた。
次の日からの練習で空はいつもの集中を取り戻していた。
「いやーさすが花咲、私が見込んだだけのことはあるよー」
合奏練習が終わり休憩時間に智香先輩が話しかけてきた。
「なんのことですか?」
「わかるでしょー、大橋のこと」
「あたしは何にもしてませんよ、空が自分で頑張っただけです」
「それでも手伝ってくれたんでしょ?大橋が嬉しそうにわざわざ報告しにきたよ」
「いやホントに友達として話聞いただけでそれ以外ほぼ何にもしてないです」
「そうなの?まあ何にせよ助かったよ、ありがとね」
お礼を言われるようなことは本当にしていないのだが、とりあえず空の調子が元に戻ってよかった。
「にしても、大橋はホントに私にそっくりだね、この後も同じじゃなかったらいいんだけど……」
「そっくりって?……あ、前に行ってた誰かさんって智香先輩のことだったんですね!?」
「え?あ、まあねー」
「似てるって何がですか?見た感じそんなことなさそうですけど……」
「見た目じゃなくってね、1年の頃の私に似てるの、恋愛に集中持ってかれるあたりがねー」
「先輩も同じような経験されたんですね、それで先輩は上手くいったんですか?って言うか彼氏いますもんね、上手くいってますよね」
前に空から聞いたのだが、智香先輩はトロンボーンの先輩が彼氏にいるようなのだ。
「ん?ああ花咲も知ってたのか、そうだね、今は上手くやってるよー」
今は、という言い回しに少し違和感を感じた。
それに自分と同じじゃない方がいいとはどういう意味なのだろうか。
「先輩、その今はって?それに同じじゃなかったらってどういう……」
「ま、いろいろあったのさ、自分で話すのは正直ちょっと恥ずいかなー」
智香先輩は聞かれたくなさそうな雰囲気だったので、それ以上その話を深堀するのはやめた。
「そんなことより花咲も恋愛しなよー?好きな人とかいないの?」
「いませんよ、今はあたし的に吹奏楽の方が大事です、それに恋愛と両立できるほど器用じゃないので」
「そうなんだ、なんか勿体無いなー」
「勿体無いって……」
「高校生は部活と恋愛が青春だよ?片方しなくて楽しいスクールライフを送れないと思うなー」
「そういうものですか……」
恋愛、誰かを想うとはどんな気持ちなのか、自分は誰かに特別な感情を抱いたことが無い、自分が好きになる人はどんな人なんだろう。
誰かを好きになると自分も空のように悩んだり落ち込んだりするのかと思うと自分的には今考えることじゃ無いなと思った。




