友情と恋愛 4
葉加瀬の気になったいる人は誰かまでは不明だが、とりあえずの現状を空に伝えてしまうことにした。
「葉加瀬くん気になってる人はいるらしいよ?」
「……あーマジかー、終わった……」
「なんで?まだ誰かわかないじゃん」
「普通に考えてあんまり喋ったことない人気になったりしないって……」
「そうとは限らなくない?空はあんま喋ったことない葉加瀬くんのこと好きじゃん」
「……そうだけど……」
「しかも吹部の誰からしいんだよねー、空ワンチャンあるかもよ?」
「……そうかなー……でもなー……」
空は少し自信なさそうだった、これは言葉を選んで伝えないといけないということがなんとなくだがわかる。
「ど、どうだろうねー、それ以上は何にも教えてくれなかったし、逆に聞かれたりもしなかったよ?」
一応なんとなく自分のことを聞かれたことは伏せておこうと思った。
「とりあえず、さ、まだ誰かわかんない状態だし!ここは攻めるべきなんじゃ無いかな?」
「攻める?」
「そう!もし葉加瀬くんの気になってる人が空だったら大チャンスな訳だし!仮に、仮にだよ!?葉加瀬くんの気になってる人が空じゃなかったとしてもこっちを振り向かせるにはいいタイミングなんじゃないかな!?」
「……そっか!そうだよね!奏ありがと!あたし、頑張る!」
空はようやく自信を持ってくれたようだ、自分も何か手伝ってあげようかと思うのだが、これ以上は邪魔になる可能性もあるので、本人から協力を依頼されたら少し助力することにした。
学校の帰りに珍しく奈々子と時間が被り玲奈と3人で帰ることになった。
奈々子の話によると最近空は珍しく練習に集中できていないみたいで今もまだ学校で智香先輩にガチガチに扱かれてるらしい。
「空、大丈夫かな?」
「奈々子ちゃん心配?」
「心配だよ、あの子いろんなこと両立できないタイプだから多分恋愛の方に頭行っちゃってて練習うまく行ってないんじゃないかな」
そう聞くと自分が余計なことを悪いタイミングでしてしまったのではないかと思ってしまう。
「あたしが余計なこと教えちゃったからかな……」
「奏のせいじゃないって、奏から葉加瀬のこと聞く前から調子悪いみたいだったし」
「ならいいんだけど……」
「ちょっとー、奏ちゃんまで考え込んで演奏に影響出さないでよー?ただでさえメンタル弱いんだからー」
玲奈の言葉に対して大丈夫だと言い切りたいのだが、やはりどうしても気になってしまう。
自分の大切な友人が困っているのに直接的ではないにしろ関わっているのだから何かしてあげられないかと考える。
「奏、あんたはこれ以上首を突っ込まないってさっき言ってたじゃん、だからほっといたらいいんだよ」
「……そうだけど……」
「それにこれは空自身が乗り越えなきゃいけない問題だから、そんなことで練習にもコンクールにも影響出るならあたしはコンクールメンバーからも外れた方がいいと思う」
「奈々子ちゃんはホント空ちゃんのこと想ってるよねー」
「ばっか、腐れ縁なだけだよ」
「ふふ、ま、けどあたしも奈々子ちゃんの意見には賛成かなー」
「二人とも友達に対して厳しいねー」
「違うよ奏ちゃん、友達だからこそだよ、一緒にコンクール出て全国目指すんだからダメなものはダメ、はっきりしてあげないとだよ」
「そういうものなのかなー」
けどそれは優先順位の問題で、恋愛よりも部活が優先されるのが当たり前になってるからじゃないのか、自分はどっちも高校生、青春として同じぐらい大切なものなんじゃないかと考える。
部活的には玲奈や奈々子のいう通りなのかもしれないが、何にせよ今は空に謝りたい気持ちでいっぱいだった。
そんなことを考えながらソロパートのオーディションの日になった。
玲奈と毎日練習を重ねたおかげで多少は自信があるものの、やはり3年の先輩達の事が気掛かりだった。
「今からトランペットのソロパートオーディションを始めます、今回は選出したメンバーに意義があった方が二人いますので、その二人も後ほど演奏して頂きます」
ソロパートを決めるのは部内全員で投票にて決めることになったらしい、そして3年の先輩二人も特別にオーディションに参加するようだ。
「それでは、1年生から順番に行きましょうか、最上さんお願いします」
玲奈は大きな声で返事をすると前に出てほんの少しの時間目を閉じた。
いつも隣で聞いてる音、練習の通りにしっかりと演奏できていて自分のことのように嬉しかった。
玲奈が自分のトランペットを好きなように、自分も玲奈のトランペットは大好きなのだ、恥ずかしいから本人には言わないが。
「ありがとうございました!」
吹き終えて緊張がほぐれたせいか玲奈は少し顔を赤らめていた。
部員達からパラパラと拍手が起こる。
「最上さん、お疲れ様でした、それでは続いて花咲さんどうぞ」
自分の番が来た、玲奈とすれ違い際にアイコンタクトを交わして全員の前に出る。
不思議と緊張は無かった、玲奈の演奏のおかげだろうか、内心かなり安心している。
演奏に入る前に玲奈と同じように少し目を閉じて集中する。
ほんの数秒の演奏だがここまで全力を出すのは初めてだ、玲奈が前に言ってたことを成し遂げたかった。
自分たちが選ばれたことに不満や文句がある部員達にここまで吹けるから選ばれたという事実を演奏で押し付けてやりたい、その一心で演奏を終えた。
ミスもなく自分の演奏は終わった、上手く吹けたのには自信があった、心なしか多分顔が少しドヤ顔気味になってしまっている。
続いて夢先輩、美咲先輩の順番で演奏が終わった。
二人の先輩はやはり安定して上手かった、悔しいが今の実力ではまだ敵わないと感じてしまう。
横にいる玲奈も悔しそうに拳を強く握り締めていた。
そして意義を申し出た3年の先輩二人の番になった。
しかし二人とも前に出ようとしない。
内、片方の先輩が涙まじりの声で話し始めた。
「先生、すいません、吹けないです、最上も花咲もあたし達二人より恐らくとても努力をしていたのだと思います、それが今の演奏になっているのだと思います、悔しいですがとても素晴らしかったです、あたし達は前に立って演奏した2人と比べる資格がありません」
認めさせられた。
自分と玲奈の演奏が、先輩達の心に響いた。
クマ先生は先輩の言葉を聞いていつもの笑い方で優しくただ、そうですかとだけ伝えそれ以上二人に対して何も言わなかった。
「さて、今回演奏していただいた4名なのですが、みなさんは聞いてみてどうでしょうか、なかなか決めるのが難しいと思います、みなさんどれも素晴らしい演奏でした」
クマ先生の話の途中で自分でも無意識に右手が挙がった。
しかも驚くことに横にいた玲奈も同時に手を挙げていた。
「お二人、どうしましたか?」
恐らく同じ考えだと聞かなくてもわかったので、玲奈に自分が話すことを伝えた。
「先生、あたしと玲奈……最上さんは先輩達に負けないぐらい努力をしました、朝は誰よりも早く来て、帰りはギリギリまで練習して、終わってからも毎日夜遅くまで二人で近くの川辺で練習しました」
話していて悔しさで泣きそうになるのを堪えて言葉を考えて紡ぐ。
「それでも倉島先輩と山崎先輩、二人の演奏を聞いて優っていると思うことができませんでした」
クマ先生は真剣な表情で聞いてくれていた。
「私たちは全国の金賞を目指しています、そのためには一切の妥協は不要です、悔しいですが……ソロパートは先輩達のどちらかで決めてください」
「……最上さんも同じ意見ですか?」
クマ先生は恐らく察してはいるものの玲奈に問いかけた。
玲奈は言葉を出さなかったがただ小さく頷いた。
「そうですか、それでは今回のソロパートは山崎さん、倉島さんの2名から選びます、お二人はどうでしょうか?」
夢先輩は自分たち二人をチラッとみて少し微笑んだ。
「山崎先輩が吹くべきだと思います」
夢先輩は何一つ迷うことなくはっきりと申し出た。
「倉島さんはなぜそう考えますか?」
「一年生二人に教えてもらうことになるとは思いませんでしたが、負けを認めることでもっといい演奏になると考えるからです」
「そうですか、それでは山崎さんはどうですか?」
「先生意地悪ですねー、そこであたしにふりますかー」
クマ先生はいつもの笑い方ではっはっはと笑っていたが、美咲先輩の返答を待っている。
「あたしが責任を持ってソロを担当します、必ず全国のどの高校よりも優れた演奏でやり切ります」
美咲先輩は覚悟に満ちた表情で言い放った。
そしてソロは美咲先輩に決定した。
玲奈はその日、その後の練習には参加せず先に帰ってしまった。
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