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先輩と後輩 2

 

 いつも1年4人でよく行ってるカフェについた。


「花咲なんにする?」


「え?」


「誘ったんだし、奢るよ?なんでも好きなの選んでいーよ」


「ありがとうございます、じゃあイチゴパフェで」


「はいよ、私も同じのでお願いしまーす」


 なんとなく気まずい、いつもはそんなことはないのだが先輩と二人きりというのは初めてなので緊張でもしているのだろうか。


「にしても来てくれて良かったよー、さすが最上だね」


「最上?玲奈がどうかしたんですか?」


「いやね、最上に花咲を誘いたいんだけどどうしたら来てくれるか聞いたらさ、ドヤ顔でパワープレイですって言ってたからその通りしてみたら来てくれたから」


 なるほど、違和感というか玲奈感の正体はこれか、っていうか薄々感じていたが自分ってやっぱり押しに弱いのか。


「あ、ゴメンね、誘った理由も何にも言わずに来てもらっちゃって」


「全然良いですよー誘ってくれて嬉しいです、それに多分夢先輩のことなんで理由なしに誘うことないのはわかってますから、それで、なんですか?」


「うん、えっとね、花咲が最近調子悪いのってもしかして私達の事気にしてるんじゃないかなーって思ってね」


「……」


 率直かつ的確な質問に言葉が詰まる。


「やっぱり気にしてたかー」


「……」


「ゴメンね、気になったから最上に花咲の中学の時の事聞いちゃったんだ、それで多分私達にコンクールの枠譲ろうとか思ってるでしょ?」


「いや、そうではなくですね……」


「わかるよ、だって去年の私と全く同じ事しようとしてるし」


 そう言った夢先輩は少し悲しそうな表情で去年のコンクールについて話してくれた。


「去年の3年生って私達2年と同じで経験者少なかったんだ、それでいつも通りオーデションがあって私は3年の先輩たちに出て欲しかった」


「どうしてですか?」


「そりゃやっぱり先輩が出るべきだと思わない?それに私は1年で自分が出て先輩が出ない状況って周りはどう思う?」


「あたしは、それで中学の時トラブルになりました」


「そうだよね、そういう所も部活によってはあるよね、だから嫌だった、自分を守りたかったんだよ」


「夢先輩はそういうのない人だと思ってました。実力もあって先輩たちや同級生や後輩のあたし達からも信頼されてて」


「そりゃあるよ、けどね、実際に去年私はコンクールに出た、1年で出たのは数人でそのうちの1人になった」


「揉め事とか、疎まれたりとか無かったんですか?」


「無かったよ、全く」


「でもそれは去年の話で」


「そう、だから今年も同じって言うことを言いたいんじゃ無いの」


「じゃあなんなんですか?」


「私はただ花咲に出て欲しいんだ」


「あたしなんかが出てどうするんですか?実力だってままならない、ちょっと昔にあった事を思い出すだけで上手く吹けなくなる、こんな欠陥品みたいなのが出ていい合奏になるわけないじゃないですか」


「実力はみんな認めてる、ブランクなんかとっくに埋まってる、その可能性の芽を私達2年が潰してしまってるならそんな事はあってはいけない」


「そうやって言えるのは夢先輩が上手いからですよ、夢先輩はコンクールにもほぼ確実に出られるぐらい実力がある、けど他の先輩たちはどうですか?2年の先輩は夢先輩しか出られないかもしれないんですよ?今年に限った話じゃないかも知れません、来年だって出られるかわかんないんですよ?あたしが1枠空ければそれだけで出れる先輩が増える、あたしは誰にも疎まれない、もう中学の時みたいな思いはしたくないんです、懲り懲りなんです!」


 最低だ、先輩に対しての発言では無い、それでも止まらなかった、止められなかった。


「あのね、花咲」


「……なんですか?」


「花咲にコンクールに出て欲しいのは実は私だけのお願いじゃないんだ」


「どういう事ですか?」


「気づいてるかわかんないけど最近2年のみんな来るの早いの知ってる?」


 普段は自分と玲奈がいつも1番早く来ているのだが最近はたまに自分たちより先輩の誰かが先に来てる日がある。


「あれね、花咲を見習ってるんだってさ、入部したての時は全然だった後輩がたったひと月で自分たちより上手くなった、才能や経験なんかが凄いんじゃない、アンタの凄まじい努力がみんなをもっとやる気にさせたんだ」


「それがなんだって言うんですか?」


「朝は1番早く来て帰りは部長や副部長より遅くまで残って練習、帰りの途中の川沿いで続きの練習してる、それをほぼ毎日欠かさずやってる花咲が自分達のせいで落ち込んでるのは見てられないんだよ」


「……ホントは先輩たちだって出たいクセに……」


 夢先輩の言葉に涙が溢れそうになる、自分の努力を誰かが知ってくれていたこと、自分のトランペットが先輩達に認められていたこと、自分の演奏が誰かをやる気にさせていたこと、嬉しくて目の前が滲む。


「そうだね、出たいだろうね、出たいと思う、もちろん出れないって決まってはいないけど、それでも花咲に手を抜いて欲しくないんだよ、自分達に努力が報われるってことを教えてくれたアンタにね」


「先輩たちはホントにいい先輩達です……」


「泣くなよー、可愛い後輩だなーホントもー」


「そだ、先輩はなんであたしが帰り練習してるの知ってるんですか?」


「実は最上にどうやったら上手くなるか聞いてみたんだよね、そしたら自分より花咲を見習った方がいい、彼女は大体毎日帰ってからも練習してるって言ってたんだ、それ聞いてアンタが自主練してるとこ見に行ってみたんだよね」


「え?来てたんですか?だったら声かけてくださいよ」


「流石に邪魔したら悪い雰囲気さったしさ、それに……」


「それに?」


「なんか花咲のトランペットに聴き入っちゃってねー……なんて……」


「それは嬉しいですけど正直恥ずかしいです……」


「ばっか、私の方が恥ずかしいって」


 その後カフェを出て夢先輩といつも自主練をしてる川沿いに行くことになった。夢先輩が自分のトランペットを聴きたいと言い出したのだ。


「その、なんか緊張します……」


「まあまあ、その銀色の子の本気の音を聞かせてよ」


「じゃあとりあえずできる曲吹きますね」


「よろしくー!」


 何を吹こうかと考えたが、なんとなく夢先輩に聞いて欲しい曲、小学生の時に玲奈と必死で練習した曲を思い出しながら指を当てる。

 確か玲奈が昔好きな人にこの曲聞かせるんだって言ってたのを思い出す。

 いつか自分も好きな人ができた時、この曲を聞かせたいと思うのだろうか。

 ただ今は、感謝を込めて夢先輩に敬愛という意味でこの曲を演奏するように意識した。


「いやーさすが!やっといつもの花咲に戻ってくれた!」


 拍手をしながら夢先輩が目をキラキラと輝かせてくれている。

 辺りはもう暗くなっていたが夢先輩の瞳がまるで宝石のように綺麗に輝いていた。


「先輩達のおかげです、ご迷惑をお掛けしました」


「あのさ、花咲」


「なんですか?」


「コンクール、頑張ろうね!」


「はいっ!」


そしていよいよ県大会を出場をかけたオーデションが行われた。

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