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「やっぱり学年なんか気にせずにさ、上手い人が吹くべきだよ」
「そうそう、全国目指してるんだしさ、誰もそんなこと気にしないよ」
花咲奏は同じ吹奏楽部の同級生の言葉に葛藤していた。
当時、中学一年の奏は父がプロのトランペット奏者ということもあり、物心ついた時からトランペットに携わっており、その実力はプロ顔負けのレベルで、【トランペットの神童】という二つ名までつくほどだった。
「でもさ、三年の先輩達中学で最後のコンクールじゃん、あたしがソロ吹くのってどうなんだろ」
奏が所属していた中学は全国常連の強豪だったが、その中にいても尚、奏の実力は圧倒的だった。
そのため、次に行われる全日本吹奏楽コンクールでは1年生で唯一のコンクールメンバーになり、さらにはソローパートの演奏にも選ばれたのだった。
「あたしは、奏のソロが良いなー、っていうかソロ譲るつもりなの?」
同じトランペットの1年で奏と特に仲が良かった安斎伊織が問いかけてきた。
「うーん、譲るっていう言い方はアレだけどさ、部活的なこと考えるとどうなのかなーって思って」
正直、ソロに選ばれたこと自体は嬉しいが、実際1年がソロを吹くことに納得していない上級生たちもいて複雑な気持ちだった。
「何?そんなこと心配してたの?大丈夫でしょ流石に」
「いやでもさ、先生がソロはあたしだーって言った時の教室の空気ヤバかったでしょ、先輩達の視線、正直ちょっと怖かったし」
「まあ確かにちょっと重かったけどさ、でも実力主義の部活な訳じゃん?全国目指してるんだし学年どうのこうので妥協したりすること無いでしょ」
伊織の言っていることは正論だ。
ソロは上手い人が吹くべきだ、全国を目指しているのなら尚のこと、学年も努力も関係ない、実力が全てだ。
奏は渋々ではあるものの、同級生達の応援でソロを吹くことを決めた。
そこから数日経って奏が部室に入ろうとした時、中から話し声が聞こえた。
「あんたらさ、ちゃんとあの子に言ったの?」
「い、言いましたよ!でも奏ちゃん、ソロは上手い人が吹くべきだって聞いてくれなくて、だよね?」
「そ、そうそう!あの子先輩達より上手いからって言って聞いてくれなくて……」
どうやら三年の先輩と同級生達のようだ。
先輩の威圧的な言葉に同級生達はおどおどしながら全員で話を合わせて答えている。
奏は部室のドアの前で大きくため息をついて座り込んだ。
「そっか……、こう、なるんだ……」
なんとなく予想していたことがドア一枚を挟んだ先で起こっていた。