帰ってきたその時に
今日も王城内はバタバタと忙しい
忙しく動くお偉いさんを後目に僕達魔術師団は戦闘訓練に勤しんでいた
今は1対1の対戦形式を取っていた、僕の相手は幼なじみであり副団長のエイネだ
普通の団員である僕に副団長をつける団長はどうかしている、団長が相手をすればいいだろう
心の中で悪態をつくがその思いは伝わらない、いや少し睨まれていた
だがそんなことが起こっているのにも気づかず副団長ことエイネが魔法で仕掛けてくる
それを僕が防ぐのを繰り返し防戦一方の戦いが数分で終わる
「ありがとうございました」
防戦一方の試合でも礼儀を欠かす訳には行かない、手を差し出す
「手を抜いていたのに挨拶だけはちゃんとしようって頭おかしいんじゃないの?」
差し出した手は弾かれてしまった
言うことがなくなったのかそのまま団長の元へ向かい試合を申し込んだ
団長は少し残念そうな顔をこちらに向けてきた、どうしろというのだ
試合は受けた様だ
その後、僕は友人や先輩と試合をしたり騎士の方に頼み剣だけの訓練をして過ごした
そして夜、夕飯を食べると僕はとある場所の木に登って待った
カチャと鍵が空くような音が聞こえそちらを見る
そこには両目を閉じたままだがとても綺麗な姫がたっていた
恐る恐るという様子でベランダのふちまで着いた
「こんばんは第2王女様」
そこに声をかける
「はいこんばんはユウリさん、そして私のことはレイと呼んでいいですよ」
見えていないはずだが声が掛けられたことには驚きもしない様子だ
しかも呼び方の要求までしてくる、少しは警戒して頂きたい
「レインドール様で勘弁してください」
呼び方に関してはお断りさせていただきます
そんな挨拶を交し今日あったことを話す
例えば朝起こしに来る友人にあと5分と言い続けて布団を取られたことや
昼を外で食べていると白黒の猫に昼食を取られ数分間の追いかけっこをしたこと
それから訓練をしたこと
「それで幼馴染に負けてしまいまして」
「そうなのですか?その幼馴染の方は強いのですね」
「はい、昔からとても芯が強くて優しくて……ってあはは」
思い出しながら話してしまい少し恥ずかしくなる
「……ユウリさんは幼馴染の方をとても想っていらっしゃるのですね」
少し残念にいうレインドール様
「はい、そうなんだと思います……でも……」
「でも?」
「隠し事があったんです、それこそ私の歳が1桁の時から今までずっと」
僕の悩みを打ち明けてしまった、言わないつもりでいたのに答えてしまった
その僕の言葉に長考を挟みレインドール様が答える
「……私はこの盲目の呪いのせいであなたの顔は見えません…ですがもしユウリさんが今、辛いのなら
話してもいいんじゃないでしょうか、どんな結果になろうと私はあなたの味方です」
真剣な声でそう言ってくれる
「そこは良い結果になるとかではないんですね」
「人の考えは違っているものでしょう?」
その顔は無邪気な子供のような笑をしていた
本当にこの方には救われる、とても安心出来るそんな声をこの方は持っている
だからこそここまで後押しされる激励は他にないだろう
「……明日…話そうと思います、明後日からは王命により1ヶ月ほどここを開けるので」
明日想いを伝えよう、エイネに
次の日、魔術師団でまた同じ訓練をした
僕は今日伝える内容があのことなのもあって今日は実力を見せるつもりだ
あの団長のことだ懲りずに僕にエイネを当ててくるだろう
実際その通りになり結果は僕の勝ちに終わった
その結果に不満そうなエイネに僕は話すことがあると人気の少ない場所に呼び出した
「エイネ」
「なによ」
「僕さ昔から隠し事があったんだ」
思いのほかスラスラと言葉を並べられた
「知ってるわよ」
「まぁ僕、隠し事は苦手だしね」
笑いながらいう
「いいから早く言いなさいよ」
そんな僕とは対照的に不機嫌になっていくエイネ
「僕さこの世界とは違う世界の記憶があるんだ」
「……は?」
「魔法もなしに人が作ったもので空をとべたり四角い鉄の箱に車輪がついていて
馬とかを使わずに馬車より早く走れたりするんだ」
「……」
「他にもスポーツと言って球体を使って制限をかけて得点を取り合い競う球技とか
機会を使って魔法なしで遠い場所の人と通話できたり」
「……」
「他にも……」
「ねぇ」
しんそこ気味の悪そうな声が聞こえ僕の前世語りが終わる
「手を抜くのを辞めたと思ったら今度は頭がおかしくなったわけ?」
「え?」
「あなたが話してるので信じられるのなんてせいぜいすぽーつとかいうものだけじゃない」
「……でも本当に」
「証明できるの?その前世って言うやつはさ、あなたが勝手な妄想で作ったかもしれないものを
なぜ私が信じなきゃいけないの?というか信じると思っていたのが不思議なくらいだわ」
「……」
「まさか幼なじみだからとか言い出さないわよね?」
本当に言い出すかもと思っている聞き方だ
実際僕は少し言おうと思っていたけど、昔からの付き合いで僕はあまり嘘を使ったことがない
そしてそれなりに信頼はされていると思っていたのだ
だがそれはただの傲慢だったらしい
下を向く僕を見てまたエイネは喋り出す
「……もういいわ、試合は次やったら絶対に私が勝つそしてそれが終わったらもう二度と話しかけないで」
そしてもう1回試合を申し込まれた
正直もうどうでも良かった、勝っても負けても二度と話すことは無い、エイネは昔からそういう奴だ
だから思いっきり手を抜く、エイネが一番嫌がる方法で僕は負ける……性格が悪いかもしれない
だけど実際はもう魔力を練る気力すらないのだ
試合が開始された直後にエイネは巨大な魔力を練り始めた
受けたら死ぬかもなと他人事のように太陽のように大きい炎の塊を見つめていた
なにか声が聞こえるが聞き取ることは出来ない
僕は炎に飲み込まれた
意識が戻るとたまに来ていた医務室のベットの上だった
「起きたか馬鹿者」
「……団長」
「なぜ、防御をしなかった得意だろう」
「……なんででしょうね」
この団長には知られたくなかった、知れば笑うようなことでもこの団長は団員のために
とても親身になってしまう迷惑はかけたくなかった
「隠し事があるならそれでいいだが辛い時はいつでも話に来い」
「……はい」
レインドール様とはまた違う安心感を与えてくれる
この団に入ってよかった、そう思わせてくれる
1人になった僕は視界を滲ませて天井を眺めていた
いつの間にか意識がなくなっていたのか気づくと夕方頃になっていた
医務室を出ると友人がいて僕は明日の昼に出発だと聞かされた
それは王命の勇者探しのことだった
僕はいつもの時間にいつもの木に近づく
上を見上げるとレインドール様が居た、遅れてしまったと急いで木に登る
「遅れているわけではありませんよ、ユウリさんただ少し私が早く出てきただけですから」
安心してくださいと微笑む
「そうでしたか」
今度は少し暗い顔になって
「どう……でしたか?」
それは隠し事を話してどうだったかということだろう
「ダメでした」
「ッ!……それは残念です…ね」
「いやいや大丈夫ですよそんな悲しそうにしないでください」
そんなくらい声を出されるとこっちまで気分が重くなってしまう
「…悲しいですよあなたが強がるほどに悲しい体験をしたのですから」
「ッ!?……いやいやそんな強がってませんよそんなことより今日は勝ったんですよあの幼馴染に凄くないですか?」
「話をそらさないで下さい」
「……」
「私はあなたの味方です、2人っきりの時ぐらい安心していて欲しいのです」
「あなたに何がわかるってんだ」
黒い感情が浮かぶダメだとわかっていてもぶつけてしまう
「小さい頃から何も見えないあなたに何が見えるっていうんだよ!」
「……」
ひどいことを言った、生まれつきはどうしようもないのに
「僕とエイネがどれだけ長い時間を過ごしたのかどれだけ一緒に頑張ったか
どれだけ…僕が想い続けていたのか……」
頬を流れる感覚を久しぶりに体験した
「確かに私はこの目の向こうの景色を言葉でしか分からない
確かになにも見えませんでも大切な人が傷ついてるのが分からないほど見えなくなったつもりはないですよ」
悲しみを含んだ声にこもったのはとても深い愛情だった
「最初の出会いは本当に偶然なものでしたよね」
「……はい」
「そこから私が無理やりここに来るように約束しました」
「……はい」
「あなたは嫌がりつつも私に楽しい話をいっぱい聞かせてくれました」
そんなことは無いとても楽しみにしていた
「私はあなたの話に出てくる人達が羨ましくなったりしました」
僕はあなたと過ごす時間の方が楽しかった
「次第に私はあなたの話が毎日の楽しみになりあなたがいない生活は想像しただけで耐えられませんでした」
僕もあなたに逢いに行くのが楽しみだった
「そして私はあなたの話に出てくる幼馴染さんや団長さん、女の人には嫉妬してしまうほどに心の狭い女になっていました」
「……」
「気持ちに気づいたのはいつの頃だったか、でもあなたは幼馴染さんに好意を寄せていた
叶わぬ恋だと思い胸の内にずっとしまい続けていました
ですが今日あなたがダメだったと行った時に残念だと思う反面喜びと怒りが湧きました
喜びは私の恋が叶うかもしれないと
怒りはあなたを選ばなかった幼馴染さんと私自身に」
「……」
沈黙が場を支配する、そして決意を秘めた顔をこちらに向けて
「あなたが幼馴染さんを想っているように私もあなたをとても大切に想っていました」
僕も……大切にしたい人だと思っている
「こんな私では、あなたを癒し寄り添うことは出来ませんか」
そんなことは無い
「私はあなたが弱っている今を狙うような悪い女です」
「そんなことは無い!……」
「そう思って頂けるなら嬉しいです、ではもう一度聞きます
私を貴方の物にする気はありませんか」
「……ないです」
その返答に悲しそうに笑顔を見せる
不思議とさっきまでの黒い感情もなく幼馴染との縁が消えた悲しさもなかった
「そうですよね私みたいな……」
「僕はあなたをレインドール様を僕の”物”のする気はありません
こんな危ない世界ではあなたとの時間も楽しめない」
「そんなことは!!あなたとここを飛び出せばそんな時間いくらでも!!」
「それこそダメです」
「なぜ!!」
「僕はあなたを正々堂々真正面からさらっていきますよ」
「どうやって」
翡翠の石をポケットから出し魔力を込める
「……この石に私の思いを込めました魔力を流せば伝わるはずです、また今度あった時は平和ですよ」
「あなたも随分意地悪な方ですね」
「こんな意地悪な男は嫌いですか?」
盲目の姫は返答するまもなく寝てしまう
「待っていてください」
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姫は朝に起きるとベットの上に寝ていた、侍女にユウリさんはどうしてるんだと聞くと
「またですか?」
と聞かれた、それどころではない
「なんでも王命により勇者探しの旅に魔術師団全員で行くらしいですよ、1ヶ月ほどで帰ってくるそうですが」
良かったと安心した
だが1ヶ月たってもユウリさんは帰っては来なかった
勇者が見つからなかったことに焦った王国が魔術師団を使い
異界の勇者を召喚することにしたそうだ
召喚された異界の勇者はレイジというそうだ
あの幼馴染さんが賢者の素質があって勇者について行くとか
第1王女のフレディアが勇者の婚約者になっただとか
そんな情報ばかりが入ってくる、レインドールにとってそれはどうでも良いものばかりだった
ユウリとレインドールが合わなくなりもうすぐ1年になりそうな時だった
異界の勇者が1度ここに帰ってくるようだった
謁見の場には3人の美女と1人の青年がいた
美女は賢者、聖女、弓聖と呼ばれ青年は勇者と呼ばれるものたちだった
途中経過の報告だそうだ
途中経過は3ヶ月ごとに来ていた、これで4回目であり、そこに集まるものたちはとても嬉しそうに
勇者の武勇伝を聞いていた、その内容は強い魔族を倒したとか迷宮を攻略したとかだった
そして報酬を出してもらうそんな感じでだんだんと勇者は大袈裟に事を伝えるようになった
当然その話が嘘だと気づく者もいた1部の貴族も面白くないと思い始めていた
そんな微妙な空気の中、バタン!!と音がしたのは扉の方だった
「おい、とまれ!!」
そう言うのは兵士だったそれでも止まらないフードの青年は勇者たちよりも少し離れた位置で
膝をつき頭を垂れた
その侵入者にしては棒立ちの勇者よりも礼儀がなっているフードの男により沈黙が場を包んだ
「……魔王を倒してまいりました」
その言葉により沈黙はあっけなく終わりを迎える
「静まれ」
王の声に貴族や王族は声を止める
「その言葉に嘘はないな」
「はい、勇者の紋はここに」
勇者の紋とは勇者の使命を受けたものが持つものだ、だが素質があることを示すだけで力を与えることは無い
だが勇者としての覚醒したものはその言葉に真実と嘘が現れる、つまり嘘が壊滅的に下手なのだ
男が胸元を開き心臓近くにある勇者の紋を見せる、この行為は自分が嘘をつけないことを証明させた
「そうか魔王が死んだか、あの四天王が次々に死んでいくというのはそなたの功績か」
「……はい」
返答までの間はあの勇者が自分が四天王を倒したと言っていないかを心配してのことだった
そしてその考えはあっていたのか場に集まっていたものたちが大きくどよめく
「おい待てよ嘘つき野郎」
前にいた勇者がフードの男を見下ろす
「異界の勇者様私は嘘をついていません」
「その態度がムカつくんだよォ!!」
なにを血迷ったのか異界の勇者は聖剣で人を切ろうとした
「あなたは馬鹿ですかなぜ聖剣で人を切ろうと考える
ひとたび人を切れば聖剣は聖剣としての効力を失うのに」
「うるせえんだよ!!その足どけろ!」
聖剣はフードの男を切らないまま床に刺さり、それを足で押さえつけていた
「いいですよ」
足をどけると聖剣は綺麗に抜けたが抜く力が強くて飛んでいった先の天井に刺さった
「少し静かにしていてくださいね」
手をかざすと勇者は眠ってしまう
「聖女さんこの人をお願いします」
「は、はい!」
異界の勇者を聖女に預けるとフードの男は頭を下げた
「この場で争いをしてしまったことを心より深く謝罪します」
「良い、おもてをあげよ」
顔をあげると団長の顔があった
「うわぁ」
「女性の顔を見て悲鳴とは男としてどうなんだ?ユウリ」
「はい!!すいません団長」
「ふっやはり貴様か」
そのやり取りにまたざわめく
勇者探しの旅で行方不明となっていた団員がまさか勇者だとは思わなかったのだろう
「もう良いだろう下がれ」
「はっ失礼しました」
「ユウリ殿に嘘がないことはわかった、魔王を倒したことも……なにを願う」
「……王女を私に」
場がざわめく、王女と聞いて初めに浮かぶのはフレディア第1王女なのだから
そして第1王女は婚約していた、だが王は至って冷静に聞いた
「どっちだ」
「第2王女のレインドール様をここに連れてきてもらいたい」
「……その願いを叶えよう」
王が連れてこいというと少ししてレインドール第2王女が連れてこられた
「お父様私はなぜ連れてこられたのですか」
「お前の勇者様の帰還だ」
「お久しぶりですレイ様」
その言葉を境に王女の瞳は世界を映し始めた
「あ、あぁ」
目の前にいる優しい顔をした黒髪の青年を確かめるように顔を何度も何度も触っていた
「夢……ではないのですね?」
「はい、答えを聞きに来ました」
「……
大好きですよ」
周りに人がいることも気にせず目に涙を浮かべて抱きついた
石にはただ一言
帰ってきたその時に
と込められていた