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第九話

「ハァハァ、ハァハァ」

「なんとか撒くことに成功したようだな」

「うひぃ~疲れた~。こんだけ全力で走ったのなんて何年ぶりだって話だよ」

「いや……ゼイゼイ、だから……ハアハア、知るわけないだろうが……ゼイハア、ゼイハア」

「体力ねぇなぁ、カイトは」

「こちとらアラフォーなんだよ! もはや若くもないし、普段は走る機会すらないっつーの!」

「あらふぉー? あらふぉーとは何なのだ肉屋殿。あなたの世界特有の病気が何かの名前なのか?」

「いや、そこに喰い付かんでくださいよ、バル。ようするに若くはないってことを言いたかっただけなんです」

「ふむ、異文化交流とは難しいものだな」



 俺たちは兵士の追跡を振り切り、城下町の端にあるスラム街に辿り着いていた。

 薄汚れたバラックが軒を連ね、未整備の道にはいたる所に濁った水たまりが散らばる不衛生な地区だ。


 目に入るスラムの住人は、総じて薄汚れた格好をしている。

 少し歩いただけではあるが、この場所の治安の悪さは手に取るように分かった。


 逃亡中でなければ迷わず回れ右をして脇目もふらずに脱出しているような危険地帯である。

 これほどあからさまに危機感を煽ってくる場所を訪れたのは、俺の人生で初めての経験だった。


 しかしそんな危険極まりない場所だからこそ、俺たちのような逃亡者にとっては、うってつけの隠れ場所となる。

 なにしろ俺たちがスラム街へと足を踏み入れるや、追跡してきた兵士たちがたたらを踏んで追跡を打ち切ったくらいなのだ。


 公権力の及ばない地域なのだろう。

 本来ならば味方であるはずの公権力に追われている俺たちにとって、スラム街とは危険と隣り合わせの安全地帯でもあったのだ。



 俺たちは追っ手から少しでも距離を取るために、スラム街の奥深くへと歩を進めていた。

 来た道を戻ればすぐさま追っ手に見つかってしまうだろう。

 たとえ治安が悪くても、先へ進む以外に選択肢はなかったのだ。


 長時間に渡る逃亡劇のおかげで喉がカラカラである。

 水を飲みたいところだが、いたる所に水道が整備されていた日本ではあるまいし、こんなスラム街で綺麗な水が手に入るとは思えない。


 濁った水たまりならそこら中にあるが、こんな不衛生な水を飲んだら腹を下すだろうし、下手をすればそのまま死んでしまうだろう。

 こんな所で死ぬのはゴメンだ。俺は喉の渇きを我慢することを決めた。

 つまりは乾いた喉をこれ以上酷使しないために黙り込んだのである。

 結果的に俺は、同行者二人の会話に耳を澄ますこととなった。



「それでこれからどうするんだい、王子様。グズグズしていたら応援を呼ばれて、兵士が大挙して押し寄せてくるぜ~?」

「そんなことは先刻承知の上だ。まずはとりあえず拠点を構築しよう。そして町の外に出払っている私の軍と連絡をつけて合流し、汚名返上の機会を待つのだ」

「ほ~流石は王子様ってところだな。昨日この街を占領したばかりだっていうのに、もうスラムに拠点を作る算段が出来ているのかい」

「え?」

「え?」


 バルガス王子は驚愕を顔に貼り付けてフロンの顔を見つめていた。

 いや、フロンは顔も体も黒い布でぐるぐる巻きの状態だから、隙間から覗く目を見つめているだけなのではあるが。


 彼は何故そんな顔をしているのだろう?

 今の会話にどこか驚く箇所でもあったのだろうか。


「おいおい、いやまさか……。まさかだよな、王子様。あんた何かしらの根拠があってこんな所まで逃げてきたんだよな?」

「あ……いや、それは……」

「一体どうやって拠点を構築するつもりだったんだ? 町の外にいるっていうあんたの部下とはどうやって連絡をとる? そういや情報を収集するとか言っていたよな。スラムに身を潜めながら城の中の情報をどうやって手に入れるつもりだったんだ? なぁ、黙っていないで答えてくれよ、王子様!」



 バルガス王子は冷や汗をかきながら明後日の方向を向いて呆然としていた。

 これは……いや、確かにその可能性もあったんだよな。というか、あって当然と言うべきなのだろう。


 これまでずっと第一王位継承者として王道を歩んできたバルガス王子が、スラムに拠点を構築する手段を知らないだなんて、ある意味当然の話ではないか。


 しかもここはつい昨日まで敵国だった城下町にあるスラムなのだ。

 城ですら占拠したばかりでまともに全体像を把握していなかったために、こうして巧妙に隠された抜け道を使い城から抜け出すことが出来たのである。

 そんな状態の皇国軍が街の様子を把握しているわけがない。

 いわんやスラム街をやだ。


 実際に城下町やスラム街に足を踏み入れるのは、皇国軍の中でも下っ端の兵士たちなのだろう。

 上の人間は、彼らからの報告を通して街の様子を知ることとなるのだ。

 つまり王子がスラムの情報に詳しいわけがなかったのである。


 スラムに拠点を構築して外部と連絡を取り、城の情報を集めてから汚名返上の機会を待つ、なんて最初からただの夢物語だったのだ。


 恐らくバルガス王子の頭には、本を読んだり歌を耳にしたなどで学んだ対処方法があっただけなのだろう。

 無実の罪で城を追われることになった王族が、城の外に拠点を構えて、信頼できる仲間と共に巨悪に立ち向かう、なんて良くある設定ではないか。俺たちの現状も似たようなものだし。


 しかしそういった物語は大抵の場合、拠点の築き方とか、情報を仕入れる方法、仲間の集め方といった重要なシーンはご都合主義だったり、具体的な描写を割愛されているものなのだ。


 事態に対処するための流れだけは頭に入っていた。

 しかし具体的な手段を知らないままでは、それは単なる絵に描いた餅に過ぎない。


 こんな顔見知りの一人もいない治安の悪いスラムの中で、拠点を作って追っ手に対抗しろとか、流石の王子様といっても難易度が高すぎたのだ。


 そもそも安全な場所がどこかも分からないのである。

 昨日街を占領したばかりの王子様が知っているわけがない。

 気付かなかった時点で、俺たちも彼と同じでまぬけだったのだ。言い訳もできないほどの失策である。


 とはいえ、俺やフロンではどうにも出来ないのもまた事実なのだ。

 フロンが城の外に出たのは随分と久し振りのことだったというし、俺に至っては地球からこちらの世界に緊急避難してきた異世界人である。


 そんな俺たちに一体何を期待しろというのか。

 結局俺たちの中で最も世情に秀でているのはバルガス王子なのである。

 例えたった今、ポンコツ王子であることが証明されたばかりなのだとしても、この状況を打破するためには、箱入り息子の彼に頑張ってもらうしかない。


 現状を理解した俺たちは、見知らぬスラムの道端で途方に暮れることとなった。

 しかしそんな状況を放っておいてくれるほど、この街は甘くなかったのだ。

 突然俺の脳裏に聞き慣れた声が響き渡った。


〈三択です!〉


 時間の流れが停止した瞬間、俺は素早く首を振り、周囲の景色に目を凝らした。

 兵士に追われて城下町を逃げ回っている間に幾度となくこの三択は発動し、俺を助けてくれたのだ。

 だから俺は、三択が発動してすぐに周囲の状況を把握する癖が付いていたのである。


 俺たちは人気のないスラムの路地で立ち止まっていたはずだった。

 しかし俺たちはいつの間にか無数の人影に取り囲まれていたのである。



〈スラムの住人が息を合わせて襲いかかろうとしています! どうする?〉


 ①所詮はスラムに住む落語者共よ! 戦って道を切り開く。

 ②まずは話し合いから入ろうじゃないか。声をかけて交渉を試みる。

⇒③ロース



 気配も音も感じなかった。

 三択がなければ気付きもしなかっただろう。


 前を向けば、横道から顔を出してこちらを見つめている人物がいた。

 後ろを振り向けば、幾人ものスラムの住人が、ギラギラと目を光らせて、今にも俺たちに襲いかかろうとしている。


 顔を上へ向ければ、建物の屋根から俺たちを見下ろしている人の姿が目に入った。

 いつの間に接近していたのだろう。両隣の建物の窓の向こうにも俺たちを監視している人影があるではないか。


 彼らの眼光は総じて鋭い。そして、その手には剣や弓やナイフといったあからさまな武器が握られているのだ。


 どうやら相手は殺る気満々のようである。

 対して俺の仲間たちはそもそも状況に気付いてすらいない。


 ここは唯一事態に気付いた俺が対処すべきだろう。

 ありがたいことに、進むべき道は三択が示してくれている。

 慌てる必要はどこにもない。なんだかんだでここまで逃げることが出来たのはこの奇跡のおかげなのだから。


 この状況でロースは論外だ。

 牢屋の中で暗殺者の目を眩ましたように、一時的に相手の視界を奪うことは出来るかもしれない。

 だが、俺たちは現在、周囲を取り囲まれてしまっているのだ。

 この状況でロースを選んでも、包囲網を突破出来るとは思えない。

 あっという間に追いつかれてしまい、情け容赦無く襲われてしまうだろう。



 それでは①はどうだろうか?

 相手がスラムの住人だというのならば、戦って勝つことも不可能ではないように思える。


 いや、駄目だな。

 そもそも俺はバルガス王子とフロンがどの程度戦えるのか全く把握していない。

 牢屋での戦いは一瞬だったし、ここに辿り着くまでは逃げの一手だったので、二人のきちんとした戦闘力を俺は全く知らないのである。


 もちろん俺は論外だ。

 平和な日本で暮らしていた一般人のアラフォーが戦力になるわけがないではないか。


 良くある異世界物のように異世界転移時に神様からチート能力を貰っていたのならば話は別だったのだろうが、俺の持つ奇跡は三択ロースだけなのである。

 この奇跡に戦闘能力はない。つまり奇跡頼みのゴリ押し戦法は使うことが出来ないのである。


 もちろん三十半ばの一般人が、この状況下で戦力になるわけがない。

 年を取れば取るだけ自分を過大評価できなくなるのは、果たして良いことなのか悪いことなのか。


 仮に二人がある程度戦えたとしても、たった二人では体力が続かないだろう。

 俺が戦力として数えられない以上、こちらの戦力は僅かに二人きり。

 よって選択肢の①もまた選べないということになる。


 ということは残る選択肢は②だけだ。

 相手に声を掛けて説得を試みろということか。


 確かにこれは良い判断かもしれない。

 襲撃者たちは俺たちに襲いかかろうとしている。

 襲撃されるとあらかじめ奇跡が教えてくれているから気付いたようなもので、彼らの気配の殺し方は大したものなのは間違いない。


 俺は当然として、バルガス王子もフロンも無反応なのだ。

 つまり襲撃者たちは、俺にバレているだなんて想像もしていないはずなのである。

 どう見たって俺はこの三人の中で一番弱く役に立たなそうなのだ。言ってて悲しくなるが事実なのだから致し方ない。


 そんな俺から突然声をかけられたら、彼らはどう考えるだろうか。

 戦力として数えていなかった相手からの突然の行動把握宣言。

 これは彼らにとっては予想もしていなかった方向から奇襲攻撃を受けるに等しいのではないだろうか。


 やってみる価値はあるだろう。

 仮に失敗したとしても、無駄な行動にはならないはずだ。

 少なくとも俺が彼らに話しかけることで、バルガス王子とフロンに襲撃者たちの存在を知らせることができる。


 そもそも俺たちはこれからどうするべきかもまったく分かっていないのだ。

 そんな時に不穏な目的とはいえ、スラムの住人たちの方から俺たちに接触してきてくれた。


 これはチャンスだ。ピンチはチャンスなのだ。上手く交渉がまとまれば、彼らの協力を得ることだって出来るかもしれない。

 バルガス王子の考えではないが、上手く行けば拠点を構築し、外部と連絡を取り、城の情報を手に入れられる可能性だってあるだろう。


 もちろんそんな交渉が俺にできるわけがない。

 こちとら昨日この世界に来たばかりで、基本的な知識すら全く持っていない異世界人なのである。


 しかしこちらには王族のバルガス王子がいるのだ。

 彼は皇国の第一王位継承者なのだから、当然帝王学を学んでいるはずである。

 そしてその中には交渉のやり方もあると考えるのが自然だ。

 だからこの場はバルガス王子に任せるべきであろう。


 完全に他人任せの作戦ではあるが、他に取れる選択肢がないことも事実だ。

 俺は残り少なくなった時間が切れる前に、選択肢の②を選択した。

 そして時間の流れが戻ってすぐ、包囲している襲撃者たちに大声で呼びかけたのである。


「待て! こちらに戦闘の意志はない! スラムの住人たちよ、俺たちの話を聞いてくれ!」

「肉屋殿?」

「どうしたんだよ、カイト。一体誰に呼びかけて……って、なんだこいつら! 一体いつの間に、こんな近くに!?」


 バルガス王子とフロンはやはり襲撃者たちの存在には気付いていなかった。

 危ないところだった。選択肢の①を選んでいたら、二人は動揺したまま戦闘することになっていただろう。


 その点②の方は、俺たちがイニシアティブを取ることができるのだ。

 実際俺たちを包囲していた連中は、突然の呼びかけに動揺したのか、完全に動きを止めている。

 これはチャンスだ。ピンチの後にはやはりチャンスがやって来た。

 そう考えた俺は、ようやく剣を構えて状況に対処しようとし始めていたバルガス王子に声をかけ、彼らとの交渉をお願いしたのである。


「さぁ、話し合いの場は設けましたよ、バル。後はよろしくお願いします」

「はぁ!? いや、お願いしますって、一体私に何をしろと言うのだ?」

「ですから拠点の構築と、外部との連絡。それに城の内部情報を得るのでしょう? バルに出来ないのでしたら、出来る人に協力してもらうしかないではありませんか。せっかくこうしてスラムの住人が集まってくれたのです。彼らに協力を要請してみてはいかがでしょう?」

「今にも襲いかかろうとしている連中に頼れというのか!? それは幾ら何でも無茶と言うものだろう!」

「あれぇ?」


 う~む……どうやら俺が思い描いていた通りには事態は進行しないようである。

 考えてみれば当たり前か。突然襲撃者を説得して協力を取り付けろと言われても、言われた方は困ってしまうだろう。

 

 しかし、だったらどうしたら良いというのか。

 戦ってもロースでも、この状況を打破できるとは思えない。

 どう考えても、最善策は②の交渉以外にはなかったのだ。これは間違いのない事実なのである。


「おい、お前ら一体何者だ? 少し前から街のほうが騒がしいが、これはお前たちに何か関係があるのか?」


 俺が自らの選択について反省していると、突然俺たちを包囲している連中から声がかけられた。

 質問してきたのは若い男である。

 俺たちの進行方向、その少し離れた路地から顔を覗かせていた人物だ。


 鋭い目付きをした背の高い青年である。

 彼は手に持ったナイフを懐に戻して敵意がないことをアピールすると、ゆっくりと路地から姿を現した。


 周囲の連中と比べると割と上等な衣服を着ている。

 しかし目の下には隈があり、その顔からは隠しようのない疲労が見て取れた。


 それなのに彼の口の端は釣り上がっているのである。

 どうやら笑顔を作ることを抑えられないらしい。


 はっきり言って不気味な姿だ。

 包囲しているという優越感が彼に笑顔をもたらすのだろうか?



「グレン! 不用意に姿を現すな! こいつら城から来たのかもしれないんだぞ!」

「だったら好都合じゃないか。こいつらは皇国からの使者ということになる。あの城は昨日、皇国軍が落としてくれているんだ。奴らが俺たちに刺客を差し向けられるわけがないだろう」

「俺たちはお前を失うわけにはいかないんだぞ! 万が一の可能性を否定するな! 皇国軍内部で揉め事でも起きていたらどうするつもりなんだ!」

「ハハッ、流石にそれは考えすぎだろう。皇国上層部は一枚岩だって評判は随分前から伝わってきているし、そもそもこんな本国から離れた場所で揉め事を起こすほど馬鹿ではないはずだ」

「あの城にはあの身の毛のよだつシステムが未だに生きているんだぞ! 用心をしてしすぎるということはない!」


 俺たちの背後から迫っていた男の一人が、目の前に現れたグレンという青年の短慮を叱り飛ばしている。

 それにしても皇国軍内部で揉め事って……今まさに俺たちは皇帝暗殺の嫌疑をかけられて城から逃げている最中なのだが。


 どうやらこのグレンという人物は、襲撃者たちのリーダーのような立場であるらしい。

 そして彼は皇国の上層部を信用しており、俺たちを城からの使いか何かだと考えているようだ。


 俺たちの事情を説明したら、彼は一体どういった反応をするのだろうか。

 正直に話すのはリスクが大きすぎる。

 包囲されているという状況下では、選んで良い選択肢とは思えない。


 それにこういった交渉後に俺が口を出すべきではないだろう。

 せっかく同行者に皇国上層部の人間がいるのだ。

 完全に丸投げだということは分かってはいるのだが、彼に任せるべきだと俺は考えていた。


「私の名前はバルガス=ウェールリア! 偉大なるウェールリア皇国の第一王位継承者である!」


 そんなことを考えていたら、バルガス王子が突然大声で名乗りを上げてしまった。

 その声を聞いた襲撃者たちは、呆然とした顔で王子の顔を凝視している。


 いや、まぁそうだよな。

 襲いかかろうとしていた男が、話題に登っていた皇国上層部の人間だと宣言したら誰だってそんな顔をするだろうよ。


「故あって私は城から抜け出し、こうして恥を忍んでスラムを訪れている。貴兄が述べていた通り城の中で揉め事が起こったためだ。現在私たちは一時的に身を落ち着かせることのできる拠点を探している。よけれがどこか心当たりを紹介してもらえないだろうか」

「すまない、俺が馬鹿だった。合図をしたら一斉にかかれ。遠慮なんかしたら許さんぞ」

「リーダー、俺、腹が減ったよ~」

「肉! 肉が食いたい!」

「肉は高くて買えないけれど、身ぐるみを剥げばパンくらいは買えるだろう。よりにもよって俺たちの希望をぶち壊すようなことを言いやがって! 覚悟は出来ているだろうな! このクソ共がぁぁ!」


 グレンと呼ばれていた男が右手を上げると、俺たちを取り囲んでいた襲撃者たちが一斉に戦闘態勢をとってしまった。

 バルガス王子の直球すぎる交渉は失敗に終わったようだ。むしろどうしてあれで上手くいくと思ったのか、小一時間くらい問い詰めたい気分である。


 交渉の失敗を受け、バルガス王子は剣を構え、フロンは必死に周囲に目を凝らしていた。

 恐らく逃亡ルートを探しているのだろう。

 どうやらフロンは戦力としては当てに出来ないようだ。


 その時である。またもや俺の脳裏に例の言葉が響き渡った。


〈三択です!〉


 周りを囲まれているのは先程までと一緒だ。しかし今回は相手の本気度が違っている。


 屋根の上から覗いていた連中は、全員弓で狙いをつけていた。

 周囲の建物の中にいた者たちは窓を開け放ち襲撃準備を既に終えている。


 良く見れば襲撃者の中には何人か子供も混じっていた。

 その手には小石や矢筒などが握られている。

 子供たちは子供たちなりに襲撃する大人をサポートしようと懸命なのだろう。

 襲撃される方からすれば、対応する相手が増えることになるので、たまったものではないのだが。


〈スラムの住人を本気で怒らせてしまいました! どうする?〉


 ①本気になったからどうだっていうんだ! ぶち殺して道を切り開く。

 ②この数は流石に多勢に無勢。応戦しながら後退するしかない。

⇒③ロース

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