0.君と…
醜い醜い世界。
人…いや、生き物の気配などここにはない。
ただ、つい先程まで街であったであろう場所に、枯れ果てた木々の間に、風が吹き抜けていくだけ。
暗い暗い世界。
空には、まわりにぼんやりと淡い光を残しながら、月に喰われゆく太陽。
……『日食』だ。
わずかに残っている淡い光が、見るも無残に壊れた建造物たちに光を落とす。
きっとこの光もすぐに月に、闇に、呑まれてしまうけれど。
中身が消えて、からっぽになった世界。
だけど……こんな……壊れた世界の中で誰かが静かにそこにいる。
愛おしい女性、愛おしくてたまらない女性。
彼女の、長い、絹糸のような銀の髪が、俺の銀の髪と溶け合うように流れ、淡い光に照らされてきらりきらりと輝いていた。
“すまない”と、虚ろな目で何度も口にする彼女はあまりにも美しくて。
気高い彼女は泣いてはくれないのか、と悲しく思う。
目がかすむ。あぁ、俺は死ぬのか。
胸に開いた傷から血が、溢れでている。
赤黒く染まっていく。
もっとずっと彼女を見ていたかったのに、
彼女と………生きていたかったのに。
もう、目の前の彼女の顔すら、ぼやけて
そして、
真っ暗になる_________________________