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3話 私と先輩と夕暮

お久しぶりです。長らく放置していたことをお詫び申し上げます。と言ってもモチベが上がっただけなのでまた失速するとは思いますが温かい目で見守っていただければ幸いです。では。

今日も1日授業が終わり部室へ向かうところだ。

一人で行くのは久しぶりだからか妙に新鮮な気分になる。


歩いているとどこからか聞き覚えのある話し声がする。

隣の棟からだろうか、すぐ脇にあった窓を覗く。

そこにはかなで先輩とれな先輩が共に歩いていた。

窓際を歩いていたかなで先輩は頭をひょこひょこ出すようにして見えた。背が低かった覚えはあるがここまでとは思いもしなかった。しかし可愛いことにはかわりない。

そんなことよりも気になる点があった。

先輩が可愛いことがそんなことという訳でもないけど。

れな先輩とは和解したのだろうか?窓越しから見てるので詳しい表情などはわからないが少なくとも笑いあってるようには見えない。真剣な顔であった。


私は足早に部室へと向う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その目に写るのはいつもの光景だった。

ゆいがいないことを除けばの話だけれど。

各々が談笑していたり読書をしていたり、絵を描いたり…。

この文末の言葉が最後に来るのも美術部であるにも関わらずおかしな話ではある。

本来の活動をしている部員は数名の1.2年生とかなで先輩だけだ。

呆れをため息で誤魔化し普段通り作業を始める。

作りかけの作品を持ってこようと準備室へと足を運んだのだがどうもこの前の出来事がフラッシュバックする。

そして私は懲りずに百合絵を広げ、鉛筆を持つ。




―――――チャイムが鳴り響く。

下校を促す放送と共にこの学校の生徒たちは支度を始める。

窓からは夕日が差し掛かり空は茜色に満ちていた。

今日の部室の戸締まりは私が担当なので、部員全員がここを出るのをひたすら待つ。


そろそろだろうか、ついにはこの部室に残っているのは私とかなで先輩だけになった。

…気まずい。実はというものあの出来事から一度も話していないのだ。ましてや目すら合わせていない。そんなこんなで話しかけずらくいる。

机に伏せる。新生活の疲れのせいで毎日がだるい。

少しだけ目を瞑ってよう。寝はしないから…




「―――――――まりちゃん!」

ガタッ。体が声に反応する。

顔をあげるとそこにはかなで先輩が立っていた。

「あれ、もしかして寝てた…」

「うん、すっごい寝てた」

「おふ…」

フラグ回収が早すぎた。寝るつもりはなかったのだがやはり寝てしまっていた。本当は分かっていたけれど。

「ごめんね、気が利かなくて。コンクールが近くて部活を延長してもらってたの」

「コンクールなんてあるんですか!?」

「3年生しか参加しないやつだから、知らなくても無理ないよ…」

本当に3年生しか知らないのか、私が聞いていなかっただけなのか。

こういうことはよくある。


「あの、今何時ですか?」

「6時半…終了は7時だからあと30分だね」

「結構寝たぁ…」

通常の終了時間は6時。少なくとも20分くらいは寝ていたことになる。

仮眠にしては、ましてや学校でそれをやってしまうのはやってしまった感が強い。


「まりちゃんに気づかなくて本当にごめんね!罪滅ぼしにもならないだろうけど良かったら私が描いてた絵、見る?」

「ぜひ!」

食い気味に、かつ目を輝かせる。

思えば先輩の絵を見るのは初めてだ。どんな絵を描くんだろう。好奇心を抱きキャンパスに近づく。

「すごい…」

感嘆した。感動を極めるほど語彙が貧困になるから薄い感想にはなる。それくらい先輩の絵は美しかった。


キャンパスには雨に打たれる少女と紫陽花が描かれていた。


「水彩を使ってるんですね…」

「うん。特別珍しいってわけじゃないだろうけど、うちの部員はみんな油絵だもんね」

「言われてみれば確かにそうかも…」

「僕は"淡い"が大好きなんだ。みずみずしくて、透き通るような、そんな藍が」

そう言って先輩は椅子に座ってパレットと筆を持ち作業を再開した。

その筆は藍をつけられキャンパスへと運ばれていく。

筆の毛が接合される金属部に滴る露が窓から入る茜色の残光を乱反射させる。

同様に先輩の生糸のように白く煌びやかな髪の毛も茜色の夕陽によってブロンドの如く輝いた。

この姿。

窓日に打たれる先輩は美しさを通り越してしまった。

愛くるしいなんてものじゃない。

そう、言うなれば神秘性。

神秘性だ。

私はずっと見ていられる。

この視界のままでいいという気持ちが漸増した。


「そろそろ帰ろうか」

先輩は片付けを始める。

幸福感で飽和された空間に浸っていた私にはひびが入り始める。

「手伝います」

本当は片付け終わりたくないけど。

「ありがとうまりちゃん。こんな遅くまで付き合わせちゃってごめんね。」

「気にしないでください、なんならまたこうしていたいです。…なんて」

何を言っているんだ私は。

頭が真っ白になる。

そして先輩はその言葉を聞いた瞬間動きを止めた。

「ねぇ、まりちゃん」

先輩は私に強く歩みよってきた。

私は後ずさりするも背後の机にせき止められてしまう。

先輩はバンッと音を立て机に手をつく。

近い。身体も。顔も。

私はのけ反る。すると先輩はもっと迫った。

「くっ…」

のけ反りにも限界が来たせいか声が出る。

「まりちゃん」

先輩は私の胸に手を置いた。

その細く艶やかでやわらかな手をだ。

「…先輩?」

「速い…すっごく速いよ。君の鼓動」

「…っ」

言われて気づいた。とてつもなく力強い鼓動が鳴っていた。

当然息を荒らげる。

先輩は今まで見たことがない表情をしていた。

冷徹で、目を鋭くさせていた。

背的に上目遣いをされているが長いまつ毛によりいっそう鋭さを感じられた。

はたしてこれがかなで先輩?

「ねぇ、あの時と逆だね」

先輩は不敵な笑みを浮かべた。

そのあの時を思い出してしまった私は赤面した。

「あの時、ドキドキしたね。転ぶ時さ、僕を庇ってくれたんでしょ?だから押し倒したんでしょ?」

私に言い寄る。もう目と鼻の先だ。

「実は言いかけた言葉があったんだ」

耳に囁かれた。

私は目を見開いた。

もう鼓動も、興奮も絶頂を迎えそうだった。

「なんですか…」

ほぼ過呼吸になりかけていた。

息を吸う。吐く。吸う。吐く。吸う。呑む------。





「んっ------」






触れ合った。


唇が触れ合った。


私と。


かなで先輩の。


唇が触れ合った。


1秒…2秒…それは永遠だと錯覚した。





「っ…はぁ、はぁ」





息を漏らした。


信じられなかった。


だってなぜ彼女をそうさせたのかが。


わからない。


どうして。


どうして。


「言いかけてたこと、まだ秘密にしとくね」


彼女は私から離れた。


私は唇に指を持ってくる。


「先輩…」


まだ鼓動は激しいまま。


興奮もしている。


深呼吸と共に脱力する。









「------あっけない」


私は静かに、ただ先輩を見つめるのだった。


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