2話 私と先輩の馴れ初め2
こんにちは。今回は少しだけ表現方法を変えました。あまり目立った変化はないので、気にせずお読みください。
「―――――――――ということがありました」
かなで先輩が渋々話す。
何が起きているのかというと、目の前に仁王立ちをしている知らない3年生の先輩に向かって私と先輩は正座をしているのだ。
先程あった出来事をこの知らない先輩に見られ、事情聴取を受けていた。
ここが準備室だったらまだよかったのだが、部員の集まった絵画室に移動させられたため公開処刑状態となっていた。
「へー、そうなんだ。さぞお楽しみでしたでしょうねー」
知らない先輩は目が笑っていない笑顔で答えた。
思わず「先輩、顔が引きつってます」と返したくなるところだったが、とてつもない威圧を感じ断念した。
「なんでそんなに怒ってるの?あれは事故なんだって!」
かなで先輩が正座をしながらも少し腰を浮かせ必死に弁解する。
「こんなこと前にもなかったっけ?君にトラブル体質なんてあったかな?」
何か思い出すような仕草をとった。
意地悪をしているのだろうか?
前にもってことは、かなで先輩がおっちょこちょいってこと?ということはそれを理由にあんなことやこんなことが必然的にできる。そんなの…へへ。
「急ににやけ出したと思ったら鼻血も出してどうした後輩…」
かなり引き気味に知らない先輩は言った。
夢から覚めたように、顔を震わせ我に返る。
そんなにわかりやすく顔に出てたのか。
照れる間もなく私は聞く。
「前にもあったって、どんなことですか!!」
尻尾を振る子犬のように興奮していた。
二人の先輩は一瞬目を丸くしたように見えた。
そして知らない先輩は口元をにやつかせた。
「あぁ、聞きたい?そうだなぁ、前に―――――」
「やめて、れな!」
それは緊迫していた。
私はかなで先輩の大声に身体が反応し、正座で痺れつつあった足が勢いよく崩れた。
おおらかで物静かなイメージがあったのに、息を荒らげるかなで先輩を見て地雷を踏んでしまったのかと心配になった。
「ごめん、れな。僕が不注意だった。僕が悪かったから」
明らかにかなで先輩は動揺をしている。それを隠そうとしているのか、さっと手を後ろにもってきた。
「私の名前を呼ぶなんて久しぶりだね。そんなに嫌だった?」
知らない先輩、改めれな先輩は相変わらずかなで先輩を面白がっている。
私はこの会話に入れず、横目でかなで先輩をみると、見事に目が合った。が、かなで先輩は視線を下に移した。
未だに唇を噛み締めてうつむいている。
れな先輩が見兼ねたのか、声をかけようとする。
「嘘だよかなで。言いすぎた。ごめ――――」
「今日はっ!もう、帰るね」
れな先輩の言葉をかき消すように、かなで先輩は一言放った。
「…そう」
差し伸べていた手を降ろす。
れな先輩は何か言いたげそうだった。
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「まりって言うの?」
「はい」
あれから数分が経った。
私とれな先輩は廊下に出ていた。
「あぁ、そういえば君か。部員紹介の時に休んだ子は」
「そ、そうですね」
今日で2回目の質問に、休んだことを再び後悔する。
「かなでとは、今日が初めて?」
開いてる窓におっかかり、遠い空を見上げた。
「はい。というか、美術部の部員みなさんにも初めましてですね」
れな先輩の隣に行く。私のところは窓が開いてないものだから、空だけを見上げた。
「あの、れな先輩はかなで先輩と仲が悪いのですか?」
とても言いづらかったが、申し訳なさがつたわるように、ゆっくりと、ところどころ詰まるように聞く。
「そう見える?まぁ、そうか。あれは言いすぎたちゃったかな。いつもはこんなんじゃないんだけど」
「とういうことは、いつもは普通に話してるのですか」
「うーん。そうだったよ。まだ出会ったばかりの頃はね。ある時からあまり干渉しないようになったかな。接しなくなった訳じゃないけどさ」
それほど後ろめたかったのであろう。先輩は終始はにかんでいた。
「さっきも前に、とか、今もある時って言ってましたよね?それってどういう意味なんですか」
慎重に、かつ蛇足を加えないように私は神経質になっていた。
先輩はうつむいたり空を見上げたり、腰に手を当て何秒か考えていた。
そして口に出す。
「…ごめん。それはまだ、言えない」
小鳥の囀り、吹部の演奏音。全ての環境音が途絶え、沈黙がさらに深くなる。
「そうですよね、変なこと聞いてすみません」
全くといっていいほど二人の関係性が見えてこない。何があったのか。考えるれば考えるほど疑問が増えるばかりであった。
「君はかなでをどう思う?」
くるっと回り私の方へ体を向けた。
それを見て窓側に傾いた体を先輩の方へ向ける。
「とても可愛らしく、美しい先輩だと思います。それにさっきの出来事の時、私の悩みを聴いてくれました。こんな言い方をするのはなんですけど、゛素敵な女の子゛って感じです」
ありのまま。思ったことを伝える。
先輩のはにかみ気味だった口元が少し開いたあと、誤魔化すように鼻で笑った。
「゛素敵な女の子゛ね」
嘲笑したというより、不敵笑いであった。
「そっか、それが君にとっての印象か。随分と懐いてるね。もしかしてだけど、いや、もう確信に近いんだけどさ。かなでのこと好きでしょ。性的に」
思考回路が真っ白になる。
聞こえてきた言葉を理解するのに数秒。
「…っ」
心臓を握られたようだった。私とれな先輩に確かにあった間。一瞬にして懐に踏み入れられたようだった。あまりの突然に、喉を鳴らしてしまう。
「どうして、そう思うのですか」
弱々しく、今更覆らないであろうが悟られないように言い放つ。
「かなでをどう思うか聞いた時、すごく活き活きしていた。たくさん語ろうと思っていたんだろうけど、それを抑えようとして自分を落ち着かせているのがわかったよ。平常心を保とうとしたんだね。でも、それがかえって怪しかった」
「そんなに態度にでてましたか…」
全く気づかなかった。かなで先輩のことになるとこんなにも熱くなれる。このモヤモヤとした気持ちは間違えじゃなかったのか。そう思えてきた。
「まぁ、それは憶測だけどね。だからこれで確信したわけじゃない」
「それってどういう」
何を材料に確信したのか。聞くやいなや。
それは刹那。
「―――まりちゃんって、百合好きなんだね!!」
先輩がかつてないほどの笑顔を魅せる。
私は雷でも打たれたかのように電撃が走る。そして、絶望に浸る。
「準備室に入った時、君たちを追い出したでしょ。その後一枚の絵が落ちててさ、それが目に入ったときの衝撃ったら、ね」
にやにやと憎たらしい笑顔を振りまく。
見られた。その四文字が頭の中でいっぱいになる。
「あれをよく持ってこられたね。生々しいほどのガチ百合の絵。際どすぎてさすがの私でも目をそらしちゃったよ」
死体蹴りのように既に灰となった私の羞恥心を煽りまくる。
「―――――――っ!!」
えぐるように思考はぐちゃぐちゃになる。ほぼ奇声同様の叫びを、うずくまり、発した。
「そんなに地雷だった?なんか…ごめんね」
先輩はやっちまったな…。と言わんばかりの遠い目をしている。
謝りたいのはこっちだ。そう思いながらも羞恥心に抗う。
「とりあえず、顔上げなよ」
しゃがみこみ、私を覗いて話す。
「君の絵は素晴らしいよ。恥ずかしがる必要も無い」
先輩の優しさにさらに自分を責め立てる。
「一つだけ言わせて欲しい」
今までへらへらとしていたのとは裏腹に緊迫感を感じさせる。
「君が思っているほど、かなではかなでじゃない。いつか、素のあの子を見ることになる」
動揺が一瞬にして止まった。
…何を言っているのだ。
聞き取れなかっとか、理解出来なかったとかじゃない。
純粋に何を伝えたかったのか。
ただ口を開け、瞳孔が開く。
意味を求めようと顔で訴えた、が。
「結構時間経っちゃったね。部室に戻ろうか」
そう言い残し、小走りでその場を去った。
一人残された私は、過ぎ去るように流れた多忙な1日を、再び振り返ろうとしていた。
―――――――これが、私とかなで先輩の初めての出会いであった。