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1話 私と先輩の馴れ初め

私には好きな人がいる。


その人は私と同じ美術部に所属していて、二つ上の先輩だ。


顧問が全く来ず雑談部と化した中でも、1人静かに絵を描いていた。


その姿は本当に美しく、まるで天使のようだった。


その先輩は女である。いや、正しくは女であると"思っていた"。


恋愛対象が女である私はいわゆるレズであって、百合を感じたくてしょうがない女の子だ。


が、全てが変わり始めたのはあの日からだった。


そう、先輩を押し倒してしまったあの日までは。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今、私は美術部が使っている絵画室にきている。


「こんにちは」


ドアを開けながら言ったが返事は返って来なかった。


だれもいないのか。


辺りは静まり返っているが、外から聞こえる鳥の鳴き声や用水路に流れる水の音は鳴り響いていた。


作りかけの作品を持ってこようと隣の準備室に向かう途中に一つのバッグをみつけた。

そのバッグにはかわいいくまのぬいぐるみが付けられていた。


先に来ていた人がいたんだ。


誰のバッグなんだろうと思うなか、準備室の扉を開けた。


ゲホッゲホッ。


「ほこりっぽいし暗いなぁ」


口に手をもってきて、咳き込みながら作品のある棚へと向かった。


この準備室は狭い。カーテンは締まりきっていて物でごった返している。ほとんど光がはいっていないのだから、電灯のスイッチすら見当たらない。


「どこにあったかな…。これか!」


棚をごそごそと探り、作品をみつけた矢先にガタッと奥の方で物音がした。


私は飛び跳ねるように驚いた。教室ならまだしもこんなところなのだからやはりいるのでは?と頭の中で負の連鎖が続きまくっていた。


「うそっほんとに幽霊…」


青ざめた顔を隠すように手で覆い、目を瞑りひたすらにこわいこわいこわいと心の中で復唱し始めた。


ぎし、ぎし、と床が軋む音がだんだんと迫ってくる。恐怖心が絶頂をこえそうになった時、聞き覚えのある声がした。


「あれ?1年生の子かな?ずいぶん早くきたんだね!」


恐る恐る目を開けてみるとそこには天使がたっていた。

美しくそして超絶可愛い。まるで天使のような人が。


「はひ!!」


はい、と言うつもりが声を裏返させてしまいながら、背筋をぴんと伸ばした。


「あはは。驚かせちゃったかな…ごめんね!」


彼女は目を閉じながら顔の前でぴったりと手を合わせた。

少しショタ声が混ざってるというか、可愛い声なのだが声変わり前のように聞こえた。


「えっと、あなたは…」


私は喉を鳴らした。


「あなたはって…。そっか、君は部員紹介の時休んでたもんね。」


そういえばそうだったなと今更ながらなぜ休んだのか後悔した。


「僕はかなで。そして、この美術部の部長だよ!」


そうなのか。そんなことよりなぜここにって、え。私はあぜんとした。僕っ娘なんだと一瞬思ったが、それよりももっと思う節があった。


「ぶ、部長だったんですか!?」


声を荒らげてそう言った。


部長は両手の人差し指でもじもじさせながら上目遣いで


「そうだよ。まぁ、かなで先輩って呼んでくれたら嬉しいな…なんて」


と赤面させながら言った。


この時点で私はすでに胸うたれていた。自分の物を全て無償で差し出したくなるような、もうかなで先輩に一生ついていきたいと思うほどになっていた。


「わかりました。これからよろしくお願いします、かなで先輩!」


これからこんなにも天使な先輩と一緒に部活ができるのか。と静かにかつ小さくガッツポーズをとった。


「うん、よろしくね!」


最高の天使スマイルでこの薄暗い部屋を照らし出してしまうほど輝いた先輩に、私はときめいてしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「その手に持ってるの、君の作品かな?」


私はパァっと笑顔になり「はい!」と答え見せようとした。

かなで先輩に見てもらえるなんて本当に幸せだ。


「まだ完成途中なんですけど…って。あ。」


私は腰にまできていた作品をもった手を勢いよく振り下ろした。


「どうしたの?」


先輩は首をかしげる。


何がみてもらえるなんて本当に幸せだ。だ。私がもっているのはきわどい百合イラストという名のダイナマイトを持っているのに。


「あの…えっと…その…」


そもそもなんでこれを作品として描いたんだ、ここはイラスト同好会じゃないんだぞ、バカなのか。と自分を責めながらうつむいてしまう。


「ねぇ。まりちゃん」


私は思わず顔をあげた。

知りもしないはずの私の名前を言ったからだ。


「どうして私の名前を…」


私は不思議でしょうがなかった。


「どうしてって、君の制服の名札をみればわかるよ。」


そういうことか。先輩はジャージだったものだから、私が制服でいることを忘れていた。


「ところでさ、その作品。見せて?」


「これは…」


さっと作品を後ろに隠す。


「自分の絵。見られるのが怖いの?」


んぐ。


図星すぎて、喉が鳴ってしまった。


「はい…」


静かに答えた。


「わかるよ。僕だって最初は自分の絵を見せるのが怖かった。誰も理解してくれないんじゃないかって。でも、人の目は気にしなくていいんだよ。好き嫌いなんて誰もがもってる。けど、人が命をかけて描いた絵を否定するやつなんか、少なくともこの美術部にはいないから。だからさ、安心して」


その瞬間。すべてが洗い流されるように、何かの重荷がとれていったような感覚に襲われた。


先輩の言葉を昔の自分に重ねてしまった。私は普通とは違う。同性が好きだ。そのせいで周りから非難の目で見られてきた。

誰も理解してくれない。私の趣味を、そして私を。


1粒の涙が頬を伝った。


「どんな絵でも、どんな私でも。理解してくれますか」


ぐずんだ声で、歯を食いしばって、スカートを握りしめて。

助けを求めるようにかなで先輩に問いた。


「自分で描いた絵だって、それは自分にとって最高でかけがえのないもの。それと同じように、どんな君でも君は君で。自分らしくない君なんて"まり"ちゃんじゃない!」


風が私を勢いよく吹いたようだった。それと同時に、重荷がとれていったような感覚が、確信へと変わった。


「かなで先輩っー!」


衝動的に温もりを感じたいと思ったのか抱きつこうとした。その時、足に配線コードがひっかかり前のめりになった。

突然の出来事に目を瞑ってしまった私は、先輩をかばうように倒れていった。


「大丈夫ですか。かなでせんぱーーーー」


目を見開いたその先には、少し火照った顔をした先輩がいた。

そう、私は先輩を押し倒してしまったのだ。

先輩の股の間に私の片足が絡まり、顔もとても近かった。


私は息を荒らげると同時にまた、先輩も息を荒らげているのがわかった。


心臓の鼓動が早くなってきているのがわかる。


それにつれて音が大きくなってきているのもわかる。


「んっ…」


床に着いていた手が痺れてきて腕をかくんと曲げてしまった。


そのせいでまた先輩の顔が近づく。


もう、唇がふれてしまうほどに。


いっそのこと。


このまま。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

ーーーーーーーーーーーーー。

ーーーーーーーー。

ーーーー。


静かに目を閉じようとした。


すぅーっと息を吸う音が聞こえた。


もう一度目を開き、瞬きをしたようにみせた。


先輩が口をぱくぱくと動かそうとしているが、喉元に言葉がひっかかっているのか声になっていなかった。


そして先輩はやっとのこと震えた声で囁いた。


「ぼく、おとーーーーーーーーーー」




ーーーーガチャ。蝶番の軋む音と共に絵画室からの眩しい光がはいってきた。


そして、人影が映る。





「ーーーーーーーーーー2人とも、なにしてんだっ!?」












続く

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