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セレニアの国の物語  作者: さなか
精霊使いミスサリア
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第1章 忘れられた存在 おわり

白い山に荒れ狂っているいつもの吹雪がぴたりと止んでいたので、近くに住む人々は何か悪い予兆では無いかと不安を口にしていた。


そんな所に、

「寒い、寒い。」

と言いながら、ある集落におかしな男はやって来た。上等な濃い緑色に金の縁の上着、下はシャツに黒いチョッキ、分厚く織られたズボンに革靴を履いている。

その格好を見るに、北オルミスの王族か、サルト=カティスからの旅行者か。しかし男は品の良さそうなのは見てくれだけで、振る舞いはまったく悠然としていなかった。

「あんた、白い山にでも行ったのか。そんなに寒がるだなんて。」

集落の勇敢な若者が怪しんで声をかけた。

「そうとも。」

彼は寒がって前屈みに腕を抱いているのだと思ったが、近づいて見ると彼の腕には人の顔程の大きさの黒い球体が抱えられていた。

若者が不思議そうに彼の持ち物を見ていることに気づくと、男は悪戯をした悪い子どものようにニヤリと笑った。

「見たいか?」

男は黒い球体を取り出した。真っ暗な夜のように黒い球を、透明な膜が覆っているように見えた。黒には覗き込む若者の姿を映している。

「綺麗だな。これは何なんだ。」

「瞳だ。」

男は自分の右目を指さして言った。

「世界の全てを見渡している目の片方だ。何か見たいものはあるかな?」

男の答えに、若者は馬鹿にするように小さく笑った。

「目だ?じゃあ芸術の都と呼ばれるファムリアの、エッカーニアを見てみたい。」

そう言うと、球体の中の黒い部分がぐるんと動いたように見えた。若者は怯んだが、すぐに不思議な光景が球体の中に映し出されたので、男から球体を奪い取るようにしてそれを見つめた。

「おお、これはまさしくエッカーニア!美しい城に鮮やかな模様の描かれた広場。すべての人に開かれし壁の無い城下町!」

「満足か?」

男は怒った風でもなく、ただ手を差し出した。若者は大喜びで、男に黒い瞳を返した。

「凄いな、どういう仕掛けになっているんだ。こんな機械(もの)は聞いたこともない。」

「母の形見なんだ。」

男は愛おしそうに黒い球体を再び腕に抱き込んだ。

「私の姿は父にそっくりなんだ。でも、母の想いも私はちゃんと受け継いでいる。父も母も居ないけれど、この身体を遺してくれた。」

「...随分不幸な生い立ちを話しているように聞こえるが、あんた何でここに来たんだ?こんな集落に...。」

「私は産まれたばかりで、物知らずなんだ。自分が何をする為に産まれたのか知る為にどこかへ行こうとしているんだ。」

「産まれたばかりって...良い大人が何を言ってるんだ。警備兵の所まで送ってやろうか?名は何というんだ。」

「名?」

男はしばしの間考え込んで、突然とても嬉しそうに顔を綻ばせて言った。

「そうだ、そうだ!ストラヴィルと言うのが私の名だ!私はすべて覚えている!」

言葉を覚えたての子どものように飛び跳ねながら自分の名を連呼する男を見て、若者は呆れ、厄介なものに関わってしまった事を後悔した。



それは、警備兵の所へ北の集落に住む人間たちが押し寄せて来る数日前の出来事だった。


彼らはもう争い合う関係ではなかった。警備兵は融通を利かせて物々交換をしたり、往来が許される日に結婚相手を連れ帰った若者たちを祝福したりもした。北の集落は長い歴史のある立場上隔離され続けているだけで、実質北オルミス王家との和解は済んでいた。オルミスとは違う彼ら独自の文化を好んで訪れる者も少なくない。


そんな集落の者たちが、皆して這々の体で要塞にまでやって来た。因縁ある海賊にでも襲われたかとたった二人の警備兵が迎え入れて話を聞くと、若く勇敢な息子を喪った母親が縋り付いて来て言った。

「アレはアルソリオの玉座に座ると言っている!私たちは今や決してアルソリオの復活を願ってなどいないのに!」

警備兵が落ち着かせようとしても、彼らは口々に叫ぶ。

「そんな意味じゃなかった!」

「違う、本心なんかじゃない!」

「北オルミスも危ない...!」

二人の警備兵は何が何やらさっぱりで、お互いの顔を見合わせた。

彼らは御構い無しに訳のわからない事を言い、そして皆最後には、

「願ったのは私じゃない!」

と、同じ事を訴えるのだった。








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