終幕
「...何この部屋...。」
「偶然見つけたんだ。きっとお爺様のコレクションだな。」
「ちょっと埃っぽくない?」
「ちょっとどころじゃあないさ。五年くらい誰も入っていないんだから。」
「五年!?」
「お爺様が死んで誰もこの部屋を知らない。...邪魔は入らないよ。」
「テオ...?」
「諦められなかった...君が幸せになると思ってた。あんな奴だと知っていたら身を引いたりしなかったのに。」
「テオ、テオ...だめ、私...。」
女の背が冷たい金属の箱に触れた。表面はごつごつとした装飾があるが滑らかで、直接肌に触れても不快感は無かった。
埃が汗につく事を女は心配したが、部屋の中でその銀色の箱だけは、最近運び込まれたか、毎日磨かれているのか、と思う程に綺麗な状態だった。
(もし...そうなら...誰か、来るんじゃ...っ...)
男が箱に手をつくと、その蓋ががたん、ととても軽く動き、隙間を開いた。
『おはようエディ...昨日はどうだった?』
...エディ?
あなたたちは...誰?
ここは、どこ?
何かの間違いが...起きたのかしら。あの知らない人間たちがうっかり...つまり箱に触れて...開いた...。
『レイドン?』
小さな気配...なんだ、人間じゃない...虫ね。
『イグニーズ?』
少し遠くまで気配を探っても、心当たりのある人間がいない。
『...?』
いくら考えても、何も答えが導き出されない。
『ここはどこ?』
私はあの箱の蓋を開けたであろう二人に、聞いた。
彼らは私を見て驚いて...驚きの中に少しの怯えが聞き取れる。罪への呵責。そんな感情で、特に答えを持ってはいない。
『エディメル・オーネットはどこ?』
「オーネット...?」
「あ、わかった。国境オーネット領の事じゃない?ここからは遠いけど...。」
『遠い?』
「ここはマリーゼ。咎捨谷に続く山間にある市場町。北へ街道を行けばウィストリアに着く。ウィストリアから馬車で...二日くらいかな。」
女は答えた。
彼女の頭の中に浮かんだイメージで、ここが南オルミスの南の山の中だという事はわかった。
馬車で二日の場所にいるわけがないわ。箱に入るのは一日の約束だったわよね?
私は外に出て、彼女の言った事がどうやら本当だと理解した。
一体、何が起きたというの?
エディ、エディメル、この町には彼はおろか知っている気配が全くない。
私はすぐオーネット領に向かった。馬車で二日と言ったって、精霊にとってはたったの数時。
懐かしいミシュワの気配がした。私の生気が僅かばかりに残っている。
私はエディメルの生気を見つけた。何かおかしい...随分と薄まり混ざってしまった感じがするけれど、海にいる彼のところへ私は飛んで行った。
「...まさか、ケンシー?」
彼は私を見て、驚きと好奇心を溢れさせた...。
『あなた...は...誰?』
エディメルよりも若く、活力のある生気。
「僕はソラミル・オーネットです。あなたの事はレイドンの"精霊学"で読みましたよ!」
『レイドン...。』
「ええ。曽祖父のエディメルの時代に、あなたはここにいたんですよね!向こうに墓がありますよ。妻のライシャはご存知でしたか?」
『...なん、ですって...?』
「ライシャ・イシュハームですよ。」
ソラミル...オーネット...
彼は...エディメル、の、骨が...眠る地、へと、私、をーーー案内し...
た...寄り添う...よう、に、ナラぶ...2ツ
のーー墓標ーーーー...。
白い...私の存在をとても保てないような感情の嵐...。
目の前のものを見て、私は理解する。
呼ばれたのね...私、ねえ、あなたの気持ちがよく解るわ。
『アンズィル...。』




