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セレニアの国の物語  作者: さなか
オーネットのエディメル
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2 彼女は未だ彼を愛さず

 愛しているって、どういう事かしら。


 エディメルからよく聞こえてくる言葉だけれど意味が理解できないでいる。

 エディメルが私の髪に触れたいのは、私を愛しているから。

 私とレイドンが話していると怒る時があるのは、私を愛しているから。

 時々とても悲しい気持ちになって一人書斎に篭ってしまうのも、私を愛しているから。

 理由はいつも一つで同じ、なのにエディメルがその時々で違う感情を持って行動をする。


「"オーネット殿...。オーネット殿!どうしてここに?グィオはどこへ?"

 目を覚ましたエッカーナ王女は大変興奮していて、オーネット船長に掴みかかりました。

 "落ち着いて。すべて、終わりましたよ。グィオは斃されました、もうすぐオルミスの港が見えます。"」


 この数日は、レイドンがくれた小説をエディメルが読んでくれている。レイドンは私が気にいると言ったけれど、何故かしら。内容はファムリアの建国の歴史だと思うのだけれど。


「エッカーナ王女はほっとして、全身の力が抜けてしまったのかまたベッドに倒れてしまいました。

 "何があって...ワイロフ、無事で良かった。アキリは?"

 私は首を横に振りました。エッカーナ王女はハッと目を開けて、顔を両手で覆いました。あの哀れな、オルミスの忠臣の死を国に帰って話さなければならないと思うと、私の気分は重く海へ沈みそうでした。

 "ヘイス・カフェトーは敵だった。わたくしのせいだ、すまないアキリ...。"

 再び顔を上げたエッカーナ王女はとても憎しみのこもった顔をしていましたので、オーネット船長はヘイスが本当にエッカーナ王女の味方だった事を話して聞かせました。ナバルの話を聞いてオーネット船長はすぐに、ヘイスがグィオを斃す為にグィオの仲間の振りをしたのだという事がわかったのです。グィオの方が一枚上手で失敗に終わりましたけれども、彼はエッカーナ王女を助ける為に戦ったのでした。

 話を聞いたエッカーナ王女は、ボロボロと大粒の涙をこぼしました。


 ヘイスは左腕が動かなくなりました。彼は一命を取り留めましたが、友人の死を深く悲しんでいました。

 エッカーナ王女は眠っているヘイスの元を訪れお礼を言いました。傷にうなされている彼の汗を拭き、オルミスの歌を歌いました。城で評判のとても美しい歌声でした。」


『エッカーナ王女はヘイスに関わる時だけ普段と行動が違うのね。気丈夫なエッカーナ王女が何故涙を流したのかしら。』


 私はエディメルに確認する。この小説を書いた人間の間違いだと思っていたけれど、エディメルは私に教えた。


「それは王女がヘイスを愛しているからだ。」


『愛している?』


「そう。彼が自分を裏切っていないとわかって、自分が彼に好意を持ったままで良いと思ったので、彼女は自分に嘘をつく必要がなくなったんだ。」


『でも彼女はオーネット・サキタリの婚約者でしょう?』


「それを決めたのはメルキド王だった。オーネットとエッカーナ王女は、同じ夢を持つ同志...オーネットは地位を上げ、城内に出入りしアイピレイスの書を読んで船を造っただろう?エッカーナ王女はその船に乗って新大陸を冒険したかった。

 利の一致。恋愛は無いが結婚しても差し支えなかったのだろう、エッカーナ王女がヘイス・カフェトーに出会うまではね。

 オルミスはその国柄、自由に生きようとする誠実な人間を好んだというから、エッカーナはきっと彼を知ってすぐに好きになった...この小説の中では。」


 なんだ、愛しているって好きという意味の言葉だったのね。

 エディメルは好きなものがたくさんあるわね。レイドン、ミシュワの花畑、レラの入れたお茶、魚のマワリ煮、本を読む事、それから私。


『私もあなたが好きよ、エディメル。』


 私が言うと、エディメルは驚いた顔をして明るく暖かい気持ちになった。私に手を伸ばして、通り抜け掴めない髪を何度か求めた。

 そして悲しい...寂しい?気持ちに変わっていった。


「レイドンが、この小説を気にいると言った意味がわかったよ。」


 エディメルは栞を挟むと、手の甲で軽く本の表紙を叩いた。


「ヘイス・カフェトーとエッカーナ・オルミス。本来は敵同士、愛し合ったところで結ばれるはずのない二人だ。...けれど彼らは結ばれる。」


『ファムリアの初代王と王妃でしょう。』


「そうだ。学校では、メルキド王がアルソリオ派を懐柔する為の政略結婚だったと習ったけれどね。」


『どうしてレイドンは私が気にいると?』


「いや...彼は私に言ったんだよ。」


 エディメルの声はだんだん聞こえなくなっていく。彼が思い悩んでしまうと、あらゆる感情が混ざり合って言葉がいなくなる。

 ただとても寂しい気持ちが私に伝わってくる。


 エディメルの私に触れたいという願いは強いけれど、私は実体化する方法を知らないから叶えてあげることが出来ない。

 何かを喰って大精霊になれれば良いのだけれど、エディメルの願いは私が私のままでいる事だから。

 大精霊たちの魔法なら出来るのかしら。でもセレニアはずっと眠ったままね、まだ目覚める気はないみたい。

 ファムレ...そうだわ。ファムレの知識を探ってみましょう、あれは人も喰っているから。

 ルワレーリオ諸島にいる海の大精霊の気配を手繰り、私の求めに応じてファムレの返答があった。


 "一個体を気に入ったところで、人間はすぐに死ぬ。だがお前が寄り添って生き、共に死ぬ事を選ぶなら方法はーー。"


 わかったわ!

 私はエディメルが喜ぶと思ってすぐに伝えようとしたけれど、思い直して私の中に留めた。


 死ぬ...私が死ぬ...それはどうなる事?

 精霊の死は、私が知っているのは生物との融合に失敗した半精霊が大精霊に壊された、力による死。

 他生物が生まれ育ち枯れて土に還る自然の死。

 エディメルも今は青葉を広げているけれど、そうね、彼の親のように枯れてゆき、その親のように命を失って消えゆくーー。

 エディメルが私に触れるためには、私もそれにならなければならない?


 エディメルが屋敷に帰ってしまったら、ミシュワの畑の中で眠る。より多くの生気を吸うためには、ミシュワをより強く育てなければいけないから。私はミシュワから生気を吸い上げ、私の生気をミシュワの畑に流し込む。


『あなたたちの生命がエディメルを活かしているのよ。』


「おやすみ、ケンシー。」


 エディメルが私に呼びかけた。


『おやすみなさいエディメル。』








『エディメルが生まれた時、なんて弱々しい生命が誕生したのかしらと思ったの。

 あんなに小さな、死んで消えゆく時のような。それなのに生きたい、生きたいと強く願っていたわ。』


「その願いを叶えたいと思ったのかい?」


 レイドンはミシュワの花畑にやってきて、私の事を色々と調べている。太陽を反射するのか透過するのか。ミシュワの生気を吸い上げる瞬間、ミシュワに何が起こるか。レイドンがいる時はこういう実験が度々行われる。


『そうね。純粋で明確な、他の声よりもより大きく言葉が聞こえたら、それが気になって仕方なくなるの。

 願いじゃなくても、自分の行動を強く決定する意思もそう。

 セレニアが大精霊になってから私たちにとって一番重要なのは人間だから、人間に私たちは動かされるの。私たちには、生気を吸う以外にしたい事なんて無いから。』


「すると、君の行動は全てエディメルの意思に沿って行われるという事かい?」


『レイドンや他の人の声を利用する事もあるわ。』


「うーん...レラはどうだい?レラの願いを君が叶える事も?」


『無いわ。彼女のこと、嫌いだもの。』


 私はぷいとそっぽを向いて答える。


「...僕の仮説を聞いてもらっても良いかな?ケンシー。」


『良いわ。』


 レイドンの頭の中は難しくて、会話という形式を取らないと彼の言葉を理解する事が出来ない。彼の気分や感情ならすぐにわかるのだけれど。


「君たち精霊が得た人格と言うのは、人が投影した...。」


「レイドン様。」


 レラがレイドンに呼びかけ、彼が言いかけた言葉を遮る。

 彼女がミシュワの花畑に近づくのは、とっても嫌な事。


「お客様です。イグニーズ様が。」


「イグニーズ・ルペッサン?すぐ行くよ!ケンシー、すまないがまた今度。」


『ええ、構わないわ。』


 レラが振り向く前にちらりと私を見た。私は相手にしないでエディメルの部屋に向かう。

 レラはオーネット家に引き取られたルディ。孤児院(ルディセレニア)育ちの、この屋敷の使用人。私の事を良くないものだと思っているから、私は彼女の事が、嫌い。

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