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セレニアの国の物語  作者: さなか
オルミスの三人(ルワレー)
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17 カラット・ロット

 グィオ機関長の言う通りに、それぞれが仕事に戻って行った。

 いつも通りの後ろ姿を見て、さっきは皆きっとどうかしていたのだ、とドラギエルはホッとした。

 アキリは嫌な人間だとドラギエルは思った。ナバルがアキリと二人で仕事をして大丈夫だろうかとふと心配になる。


「さっきはああ言ったが、」


 ドラギエルが機関室に行こうとすると、グィオ機関長が言った。


「本当に魔法の中にいるのだったらいくら回転翼を回しても意味がないな。ドラギエル、君がタタディアの話をオーネット船長にしてくるといい。」


「船長に...。」


 信じてもらえるだろうか、もし嘘つきだと罵倒されれば海に落とされはしないだろうか、とドラギエルは不安になった。


「生贄の話はともかく、この船が遭難している理由を誰よりも欲しがっているのは船長だよ。可能性としては受け入れるだろう。」


 ドラギエルは甲板に行く前に、迷った末に食糧倉庫に寄った。

 二人が話しているのが聞こえる。


「あんた、船長夫人とどういう関係なんだ?」


「船長夫人?何も?」


 アキリはわざとらしいくらいトボけた返事をする。


「へっ。人の事嘘つきとは言えないな。」


「勘弁してくれよ姉御...ァ?なんだ、大きな置物君。立聞きとは趣味が悪いなァ。」


 と、ドラギエルに気づいたアキリは言った。


「あ...いや...。」


「どうしたドラギエル。今日も調理場ってわけじゃないだろ。」


 ナバルは思った以上に威勢がよかったので、要らない心配をしてしまった事をドラギエルは恥じた。


「こいつを黙らせたきゃ'エスラ夫人'って魔法を使いな。都合の悪い事があるらしいからな。」


「耳年増だなァ、姉御。」


「なんなら夫人に直接聞いてきてやろうか?」


 二人は本当は仲が良いのだろうか、そう思ってドラギエルは嫌な気持ちがした。嫌な奴と分かり合っているナバルも向こう側の人間なのだろうかと思った。


「ジャマモノ君は何を考えてんだかさっぱりわかんねえなァ、喋らないから。でも一つだけはわかるぜ。俺の事が嫌いなんだァ。」


「え、いや...そんな。」


「顔にかいてあるからなァ。」


「嫌われても自業自得だな。」


 ナバルとアキリがやり取りを始めたので、ドラギエルは黙ってその場を立ち去った。










「カラット。」


 声をかけられたがカラットは無視した。


「寝たふりもそろそろ辛いだろ。」


「...。」


 ヘイスの言う通り体は限界だった。目の奥がガンガンと痛み、足は重く背中が痛い。


「遭難の原因がわかった。精霊に惑わされていたんだ。」


 ヘイスは近くのベッドに腰を下ろした。


「生贄を出さなきゃ魔法は解けないらしい。お前がその候補になってる。」


「...。」


「立てよ。日差しに当たらなきゃ人間もダメになる。野菜と一緒だろ、ロット。」


「お前さあ...。」


 カラットは呆れたように返事をしたものの、ヘイスの事をどう言い表したら良いのかわからなかった。港から共にしているヘイスの行動の意味がわからないからだ。

 でも気はいい奴だった。


 体を起こすと、急に血の巡りが変わり目眩がした。腹は減っているし良いことが何も無かった。


「酷い顔だな。」


 目は晴れ上がり、大きな青い隈が出来ていた。

 階段を上がっているうちに、やはり体を動かすのは大事だとカラットは思った。


 強い日差しに目が眩むかと思ったが、外は日が沈もうとするところだった。曇った空の切れ間からオレンジ色の光が、暖炉で燻る炭火のように熱を発している。

 風が落ち込んでいた気持ちを吹き飛ばしたのか、カラットは久しぶりに心が晴れた気がした。


「知ってるか?この空も魔法かもしれないんだぜ。」


 同じように見上げながら、ヘイスが言った。


「...何が魔法なんだ?ずっと遠くの空にまで続いているじゃないか。」


「ずっと同じ景色が続く魔法なんだとさ。」


 カラットはしばらく延々と水平線しかない海と、空を見つめていた。こんな景色は農場にいては一生見られない。これが魔法であったとしても。


「きっと魔法が解けたら、はじめに流された辺りにいるんだと思う。1日もあればルワリ島に戻るだろうな。」


「ヘイスは船が好きなんだなぁ。」


 カラットは初めの日、船内をうろついていたヘイスの事を思い出していた。


「そうだな。俺が今まで教わった事で船に乗る事だけは楽しかった。」


(港出身じゃないよな。一体、どこで?)


 その疑問を口に出す前に、ヘイスが言った。


「お前が生贄にされる時は、俺もなるから安心しな。」


「...その話、本気なのか。俺はどうしようもない人間だけど、さすがに死ぬのは嫌だよ。」


 とカラットは笑ったが、ヘイスは真面目な顔をしていた。


「生き延びる方法がある。」


 と、小声で言った。


「と、思う。小舟さえあれば。どうせ落とされるんだったら自分から降りた方がいいんだ。」


「どんな方法が...。」


「よう、ドラギエル。」


 カラットの後ろに向かって、ヘイスは何も話していなかったかのように声をかけた。

 でかい男が立っているのを見てカラットは、何て間の悪い奴だろうと思った。


「...カラット。」


 良かったとでも言いたげな顔に何故いらつくのか、自分にもわからなかった。


「すごいな。あのナバルに気に入られて。」


 と嫌味っぽく言った。

 自分がうまくやれなかった場所にドラギエルが収まったのが腑に落ちなかった。

 そう思ったカラットはふと、自分が何て醜い人間であるかを自覚したのだった。


(俺は自分が、ドラギエルよりは上だと思っていたんだな。)


 だからドラギエルを誘って港町に来て、だからうまくいかない面倒を見てやった。

 なのにこの船に乗ってからドラギエルの方が上手くやっている。


(...だから俺はこんなにムカついていたんだ。)


「三人集まるのも久しぶりだな。」


 罪悪感にかられて、不機嫌を直してカラットは言った。


「あ...うん。」


 空はもうすぐ赤みが消え、闇に覆われようとしている。


「どこへ行ってもろくな事がないな、俺は。」


 カラットは大きく体を伸ばしながら言った。


(もう自分にうんざりだ。こんな奴死んだほうがいいのかもしれないな。)


「案外、世の中そんなものなんだよ。」


 ヘイスはいつもの目つきの悪い顔で、ふんと鼻を鳴らした。


「いやいや、こいつにとっては違うだろ?」


「...え?」


 突然カラットに背中を叩かれたので、ドラギエルは困った。


「上手くやれよ。お前はな。」


 と、言ったヘイスにカラットも頷いた。

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