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セレニアの国の物語  作者: さなか
オルミスの三人(ルワレー)
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6 セアラ・エッカーナ

 ヘイスは小さな袋を肩に背負い、カラットとドラギエルは手ぶらだった。

 三人が【セアラ・エッカーナ号】の仕事を受けると伝えると、ラナリアは言った。


「元々、船乗りには前から求人が出ていたのよ。でも受ける人がほとんどいなかったの。生きて帰れないかもしれないわよ。」


「ふうん。ご心配どうも。」


 ヘイスが珍しく口角を上げて言ったので、ラナリアはびっくりした。


「史上最悪の三人の末路が、海に沈みました。じゃあ、寂しすぎるでしょ。後味が悪いって言ってるだけよ。」


「いっそその方が良いかもな。」


 ふん、と鼻を鳴らしてヘイスは斡旋所を出て行った。ドラギエルはいつものようにどもり、カラットは「知ってるかい?海の先には男の浪漫があるんだ!」と言って立ち去った。

 ラナリアは心配を通り越して呆れてしまった。





【セアラ・エッカーナ号】の前にはたくさんの荷の木箱が山となっており、肌が黒く焼けた体格の良い男たちがその荷の積み込み作業を行っていた。


 三人がその荷の間をうろうろと歩いていると、


「おーい。こっちだこっちだ!」


 という大声が聞こえた。手を振っているのは三人の方向では無く、見るとバンダナをして男のような格好をした一人の少女を呼んでいる。彼女は声の方に走って行った。手を振った人物は、黒い帽子に、赤い布に金縁のついた立派な上着を羽織っていた。


「あの子、赤い紙を持っていたよ。」


 カラットが言ったので、三人もそちらへ急いだ。




「いかにも、わたくしがオーネット・サキタリだ。お前たちは乗組員志望だな?」


 大きなツバの黒い帽子の下は端正な顔立ちをした女性であったので、カラットとドラギエルは驚いた。声は太くしっかりしているが、やはり女性らしく高い。長い赤毛は後ろに一つに編まれており、肌は白かった。眼差しは強く前を見据え、引き締まった口元に自信が溢れている。

 ドラギエルよりは小さいが背も高い。帽子を除いてもドラギエルの肩のちょっと下くらいに頭のてっぺんがあり、カラットはその少し下で、ヘイスはオーネットの肩にてっぺんがあるくらいだ。


(オーネット・サキタリが女?)


 ヘイスはオーネットの名前を知っていたが見たことも会ったこともない。だが女という噂を聞いたことも、無かった。


「あと人手が必要な仕事は...。」


 巻紙を広げて、それを読みながら一人でぶつぶつ呟く。


「うん。そこのでかいのは早速荷入れを手伝ってくれ。」


「えっ...荷入れ...。」


 荷運びに悪い思い出のあるドラギエルがいうと、彼女は厳しい顔をして鞭を取り出し地面にピシャリと打ち付けた。


「返事は"はい、船長!"。お前はそれだけ言っていれば良い。言ってみろ。」


「は、はい、あの...せん...。」


「"はい、船長!"」


「はい!船長!」


 ドラギエルは鞭のしなる音が怖くて、必死に声を張り上げた。ちらちらと視線が助けを求めるように二人に向く。


「さっさと行け!」


 びゅん、と鞭がいう。


「はい、船長!」


 ドラギエルは逃げるように駆け出して荷物のところに行った。


「へえ。」


「おっかないな...。」


 ヘイスとカラットは初めて聞くドラギエルの大声に、オーネット船長の手腕を見直した。まさしくサキタリ商会の長、オーネットその人に違いない。

 カラットは鞭が自分に近かったので、逃げ腰であった。


「お前は何だ?名前は?」


「カラット・ロ...ーレウスです!」


「うん。男のくせに細い体だなあ...。皿洗いでもやっておけ。」


「はい、船長!」


「いいぞ。そこから上がって階段の...右の船室が食料庫だ。料理長は食料庫にいるからそこに行け。」


「はい!船長!」


 カラットは階段を駆け上がっていった。


「残るお前は?」


「ヘイス・カフェトーです船長。」


「.........カフェトー?」


 彼女は眉間に深くしわを寄せる。


「...!こちらへ来なさい!!」


 甲板の方から、男の大声がした。


「げ!もう?」


 彼女は口を思いっきり「い」の形にした後、


「あー、お前は便所掃除だ。さっさと乗ってしまえ。」


 と言って荷入れの足場板にひょいと飛び乗り、甲板に上がった。





 甲板には二人の男がいた。

 一人は細目で四角い顔の本物のオーネット・サキタリ。もう一人はエッカーナと同じくらいの身長で赤い目をした黒い肌の男。


「殴られ縛られ小舟に捕らえられ、まったく出港前からこんな目に会うとは思いませんでしたよ。私の上着を返しなさい。」


 オーネットが手を差し出すと、エッカーナは「ちぇ。」とそっぽを向く。


「料理長に見つかったと言ってきます。彼は食料庫の樽の中を探していましたからね。これでようやく出航の準備が出来ますよ...。」


 グィオは優しく笑って、船室への階段の方へ歩いて行った。


「グィオ、この件は内密に。」


「はい、船長。」


 オーネットの言葉にグィオは振り返り、しっかりと頷いた。


「エッカーナ王女、この航海は危険です。乗組員だって集まらないほどですよ。長年島を行き来してきたベテランの船乗りにも、外海は嫌だと言って断られたのです。」


「乗組員なら増やしておいたぞ。人手になれば何だっていいじゃないか。」


「生きて帰れる確率は低い。私の夢に彼らの人生を犠牲にすることは出来ません。勿論、王女の人生も...。」


「わたくしの夢だ。」


 エッカーナは息のかかるところまで迫り、メルキド王に似た威厳をもって言った。

 長い睫毛の大きな切れ長の目で、少し背の高いオーネットを睨みつける。

 と、ふと視線を逸らし、エッカーナはメインマストにある【セアラ・エッカーナ号】の刻印を眩しそうに見た。


「そうだろう?それに、オーネット殿が帰ってこない時はわたくしの人生は終わったも同然だ。そう説得したらな、父上の許可が得られた。」


「まさか。」


 エッカーナは赤い上着の懐から巻紙を取り出し渡した。


「オーネット殿宛の書状だ。読むがいい。」


 巻紙は封蝋で留められ、オルミスの四角の中に星の印が押し付けられている。

 広げて読むオーネットの目付きが変わり、真剣な表情で最後のメルキド王のサインまで確認した。


(サインは確かに王のもの。偽装にしてもこの内容を思いつくほどエッカーナ王女は狡猾ではない。)


「ご無礼をお許しください、セアラ・エッカーナ。この船はあなたを乗せて新大陸に向かうようにとの勅命です。」


 紙を巻き直し大切に懐に入れようとしたが、上着が無かったのでその手は彷徨い、仕方なく握り直す。


「わかれば宜しい。」


 その様子を見てエッカーナは、腰に手を当て得意げに胸を張った。


「でも私を気絶させて軟禁する必要は無かったですね?」


「頼めばわたくしに船長をやらせてくれるか?」


 エッカーナは言いながら後ずさって行く。


「あなたは一乗組員として...。」


(...と言いたいところだが、危険すぎるな。)


 オーネットは手にある書状をもう一睨みすると、全てを諦め深くため息をついた。



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