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セレニアの国の物語  作者: さなか
アルソリオのトゥヴァリ
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3 宮殿迷宮

 もしかして、扉から入っても気づかれないんじゃないかしら。と、ペルシュは提案した。

 アイピレイスの言い様では、元老院の殆どがこの広い部屋のどこかの部屋にこもって出てきていないようだった。


「魔法がかかっていたらどうする?」


「その時はその時で...。」


 トゥヴァリはペルシュに疑いの目を向ける。


「アイピレイス様が優しいからって、元老院の人がみんな優しいとは限らないんだぜ?」


「わかっているよ。」


 返事をしながらペルシュは、大きな扉に触れた。

 トゥヴァリとペルシュの身長の10倍はあろうかという扉だ。

 夜空の星が煌めくような、金の粒が混じっている艶やかな藍色で、金色の取っ手が付いている。


(こんな近くで見たのは初めてだ。なんて綺麗なんだろう。)


 ペルシュが腕に少しの力を入れてそっと取っ手を引くと、扉は簡単に開いた。

 二人は慌てて、押し合うように隙間から中に滑り込む。中には低い階段があったので、二人は転がり落ちた。

 扉は音も立てずに元に戻った。


「魔法...か?」


 あんなに大きな扉がペルシュの力で開いた事が、トゥヴァリには信じられなかった。

 ペルシュは扉に背を預けて、へたり込んだ。


「は...入れちゃったね〜...。」


「とにかく、用心して隠れながら進んでみよう。」


 窓から覗いた景色と同じ、赤い絨毯の上だった。鳥の像や馬の像、人の像などが両端の柱の上に並んでいる。

 窓の位置は頭よりずっと上だった。


 トゥヴァリが先導して、扉を背にして東の方向へ行った。しばらく行くと、左に通路があったのでそちらへ曲がる。

 廊下は途中から天井も、壁も、柱もすべてが眩い金色になった。両側の壁はトゥヴァリとペルシュの姿を映し、姿を連ねた。


 ペルシュは両側の大勢の自分を見ようとして、首をきょろきょろ振った。


「ここじゃ、隠れられないな。」


 左側に金色の、藍色の扉よりはだいぶ小さい扉があった。

 ペルシュがそっと体重を乗せてみたが、今度はピクリとも動かなかった。


「早く違うところへ行くぞ。」


 手のひらを離すと、白い手の跡が残ってしまったので、ペルシュは大慌てで服で磨いた。


 さらに奥へ進んでいく。金の廊下は突き当たって終わり、また赤い絨毯の廊下に出た。右の突き当たりに、木製の少し大きな両扉があった。

 扉はかちゃりと普通に開き、二人を部屋の中に誘った。

 あまりにも普通に開いたのでペルシュも焦ったが、幸いな事に部屋の中には誰もいない。


 そこは、緑の絨毯が敷かれていた。

 四方の壁いっぱいに本棚が並んでいる。天井は高く二階、3階もあった。そして小さな机が一つあり、羽根飾りのあるペンが置かれていた。


「きっと、アイピレイス様の部屋だ。」


 トゥヴァリは言った。

 ここにある本を手に取ったら、きっと面白いだろう。町の誰も知らない話が出来るようになるかもしれない。ペルシュの両親のそのまた両親のこともわかるかもしれない。


 ペルシュは本棚に近寄りたくてうずうずした。1冊、目を通してしまえばきっと止められなくなり、アイピレイスが帰ってきても気がつかないほど読みふけってしまうだろう事は想像に易かった。


(アイピレイス様になら見つかっても...。)


 伸ばしかけた手を、トゥヴァリに掴まれる。


「先へ進もう。」


 キイ、と蝶番の鳴る木の扉を恐る恐る開け、廊下が静まり返っていることを確認してから、二人は外に出た。


 ペルシュはちらちらとアイピレイスの部屋を名残惜しく振り返る。


(次に来る機会があったら絶対にあの部屋に行こう。一人でも来よう。今度は、そのために来よう。)


 二人は来た道を戻り、金の廊下から見て左側に向かった。


「死者が運ばれる部屋は、あるのかな。」


 ペルシュが言うと、


「何だ、そんな事で宮殿に連れてきたのか?この広い宮殿で見つけようってのは、無理かもな。」


「トゥヴァリは先を急いでるけど、何か見つけたいものがある?」


「...。」


 トゥヴァリは答えなかった。ペルシュを完全に信用していないので、教えたいと思わなかった。


 次にあったのは、家と同じような木の扉だった。鍵がかかっていて開かない。扉に耳を当てると、地の底から鳴り響く獣の唸り声のようなものが聞こえた。

 トゥヴァリとペルシュは目を合わせて、恐怖を伝え合った。


 ペルシュは歩きながら、ずっと並んでいる柱の上の石像を見ていた。鳥、馬、人。それらはみんな美しく、今にも動き出しそうな活力の溢れた表情をしていた。狼、蛇、猿。それらはみんなおぞましく、今にも動き出しそうな殺意のこもった表情をしていた。


 トゥヴァリの腹が鳴った。日の位置が見えないと時間がわからないが、昼食時を過ぎているのだろう。

 そのせいか、イライラして焦っていた。行けども曲がれども、同じ景色の廊下でしかなくなったからだった。部屋の扉も無ければ、金の廊下のように変わった場所にも出ない。


(もう見飽きたな...赤い絨毯に石像の柱、そして窓。もう宮殿のどの辺りまで来たのか...。)


 トゥヴァリは思って、気がついた。ゾワっと身の毛がよだつ。


(曲がっても曲がっても窓があるのはおかしい...!)


「もうお昼だよね、精霊が心配しているかな。」


 ペルシュも元気を無くして、腹をさすっていた。

 それどころじゃない、とトゥヴァリは言おうとした。


「そうとも、君たちがいないから。うるさくて耐えられやしないよ。」


 背後の声に、トゥヴァリとペルシュは、振り返る。

 目に飛び込んできたのは一枚の絵だった。宮殿の外の、精霊王の像の広場が描かれた、本物のように鮮やかな大きな絵ーーー。


 二人は、その場所に立っていた。

 絵と全く同じ景色が見える場所、階段を上りきったばかりの石柱の先に。


 風が吹いて、鳥が鳴くのが聞こえる。


「おや、おや。君たちはまだここで遊んでいたんだね?」


 と声をかけたのは、アイピレイスだった。


「精霊たちが、大騒ぎしていたよ。うーん、でもここにいたなら、すぐ見つけられるはずだがね?」


 と、とぼけた調子で髭をなぞる。


「さあ、しっかり食べておいで。君たちは栄養をつけるのが仕事なのだから。」


 そう言って、すれ違いざまに二人の肩を叩いた。

 トゥヴァリとペルシュは目をパチクリさせて、顔を見合わせた。

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