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セレニアの国の物語  作者: さなか
アルソリオのトゥヴァリ
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16 母となった女

 金に煌めく廊下は、いつものように彼女の姿を映し出した。

 ずっとこの廊下を歩くのが嫌いだった、いつも早足で通り過ぎていた。自分が大嫌いな女の姿を映し出すからだ。


 今、金色の鏡面は、映っている女に価値を上乗せしているように見えて、好きだった。


 人を救いたいという夢を叶えた女。大変な努力が報われた人生。

 高い価値を持ちながら、いつでも彼女の技能が生かせるように、動きやすい服でいる。

 決して美人では無いが、顔は生き生きとして魅力がある。


 鏡に重なる自分の姿に、ふと亡くした娘の顔が浮かぶ。

 夫の姿も。


「やあ。その姿はどうも見慣れないね。」


 ルヨがハーヴァに声をかけた。小脇に額を抱えている。


「今日で終わったわ。やっとよ。」


 ハーヴァは髪を解いた。

 ボタンを外し、胸元を大きく開ける。

 髪をかきあげ、笑った。


「ああ、肩が凝った。いつまでも滅びた世界にしがみついていて、馬鹿な男よね。」


「....君は、アイピレイスに好意があるのかと思ってたけど?」


 ルヨが聞くと、ハーヴァは「アッハハ!」と吹き出して、手を口元に当てる。


「やめてよ、好みじゃないもの。あの喋り方とヒゲ。あとあの服何なの?全身真っ赤なんて有り得ない。」


「ふうん。じゃあ、彼に会う時に服を変えたがるのは何故?」


「欲情されたら困るじゃない?」


「...なるほどね。君たちのことはいつまで経っても理解出来ないな。」


 ルヨは深い溜息をついた。


「それよりねぇ、結局何だったと思う?精霊が人の生気を吸っても死なないことがわかったんですって!」


「ふうん?」


「私の息子が死ぬ思いをして、ようやくわかった事なのよ。あー、おっかしい!そんなのとっくにわかってるのに!私、笑わないようにするのが大変だったんだから。」


 と言って、溜め込んだ分だと言うように、金に輝く天井を見上げけたたましく笑った。


「あーあ。退屈な人生だもの。たまには誰かをからかったって良いじゃない?」


「君がそんな風になったのは、いつからだったかな?人間には長生きは向かないね。」


 ルヨはそう言って、金の廊下を入り口の方へ歩いていく。


「あら、それ、あなたの事じゃなくて?」


 ハーヴァが言って振り向いた時、既に彼の姿は無かった。




 *****************



 トゥヴァリは町を歩いていた。嬉しくて嬉しくて、誰も彼もに「もう死ななくて良いんですよ!」と言って回りたい気分だった。


 トゥヴァリの後には精霊がくっついて飛んで来ていた。あの実験をして以来、ずっとトゥヴァリの側にいる。不思議と他の精霊よりも、伝えようとしていることがわかるように思えた。


 トゥヴァリは、初めて見た母の顔を思い出して頬に手を当てた。目と唇が似ている、とアイピレイスが言っていた。元老院のハーヴァが母親だった事は、ペルシュの死に繋がった事もあり大変なショックだったが、自分が親無しでは無かったという事実にトゥヴァリの気持ちは楽になっていた。


(俺もみんなと同じように母さんから生まれたんだ。俺の事を心配していてくれた...。)


 何故自分を一人にしたのか、という思いはあるものの、それは疑問であって憤りでは無かった。


(ハーヴァの息子のトゥヴァリ。)


「...。」


 嬉しいような、むず痒いような、気恥ずかしい気持ちに精霊も反応する。


 ハーヴァの事をアイピレイスに聞くと、「うーん、彼女は賢くて、勇敢だ。」と言った

「この国で一番初めに子を成した。自己犠牲の精神と、受け継ぐべき人類の叡智とを持つ女性だった。この国が生まれた時、生きていた者の中で、セレニアに助言する価値があったのはオーウェンとハーヴァの二人きりだったよ。」

「オーウェンという人はミスラの家の物語にも出て来ましたね。農夫と書いてありました。農は、野菜を育てたりする事でしたね。」

「その通りだ。オーウェンは、セレニアに生物の育み方を教えた。」

「オーウェン様は元老院の一人ですね。お会いしてみたいな!」

「いや、彼は宮殿を出て行った。」アイピレイスは言った。「彼は私たちと五十年といなかった。今どこにいるかもわからない。彼はハーヴァの夫となったが、ハーヴァと息子を置いて去った。」




(俺の父親は誰なんだろう?)


 考えてしまう事ではあったが、それはどうでも良かった。トゥヴァリはアイピレイスを慕っていたからだ。自分を心配してくれて、ものを教えてくれて、そして他人の信頼を受けられる、自分の背中にいる存在。

 トゥヴァリの家に三人でいた時間、あれが家族だったのだと思った。


 精霊がトゥヴァリの顔の側に来た。


「なんだ、機嫌が良いな?」


 トゥヴァリが泣いていた日は元気がなく地面の近くを飛んでいた。トゥヴァリが嬉しい時は、こうして寄ってくる。

 トゥヴァリは、精霊はトゥヴァリと心を共有しているのでは無いかと考えている。


 精霊が、チカチカ、と目の前を塞ぐようにした。


「...よお。」


 西南地区に入っている事に気がつかなかった。


「おはようレニス。」


 トゥヴァリも気まずく挨拶をした。

 トゥヴァリが謝りに行った後、ハーヴァから聞いた話をレニスに説明したものの、「もう謝らなくて良い。」と言ったきりレニスは帰ってしまった。


 二人はそれ以上、何も言わずにすれ違って別れた。




「昨日、エサムが死んでしまってね。」


 南の広場を通る時、トゥヴァリは誰かが言っているのを耳にした。


(そうだ!急がなければ七日ごとに誰かが死んでしまう。)



 アイピレイスは自分がなんとかすると言ったが、悠長に待っている暇は無いとトゥヴァリは思った。


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