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セレニアの国の物語  作者: さなか
アルソリオのトゥヴァリ
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15 ふたつめの記憶

 私が産まれたのは雪の降る街だった。何故知っているかというと、9つまでそこに住んでいたからだ。歌が好きな優しい父と眼鏡をかけた厳しい母が、私を育ててくれた。



  朝起きて身支度をして、学校に通う。学校では先生に勉強を教わる。私は勉強が好きだったよ。勉強が出来るようになれば、厳しい母が笑ってくれたから。

  友だちは、何人かいたと思う。1番の仲良しは女の子だった。名前は、忘れてしまったな。茶色い髪を2つの三つ編みにして、歯並びが悪い。確か、友だちの中では1番のデカだった。私たちは絵を描くのが好きだったよ。



  犬を飼っていた。名前はシュロだ。大きくて毛がフサフサで、とても利口だった。私が学校帰りに怪我をした時、シュロは迎えに来てくれたんだ。何も言っていないのに。


  学校から帰ると、宿題をした。それから何か必ず本を読んでーこれは、母の言いつけだったからでーそれから、食事の支度を手伝う。私はシュロのご飯を作る係だった。父が帰ってくるのは遅い時もあったけど、早い日には皆んなで一緒に食べた。たまに、お店に食べにも行ったよ。

  寝る時にはシュロがベッドの下に寝そべり、母が私の部屋の電気を消しに来る。おやすみなさい、また明日。

  私には夢がなかったけれど、絵を描くのが好きだったから、そういう仕事が出来たらいいと思ってた。





  それは、はじめ起こってるって事が誰もわからなかった。

  今思い起こせば、そう。私と友だちが部屋で遊んでいる時、父がリビングでテレビを見てた。

『...事件から一週間。57人の死亡が確認されました。その一帯で唯一の生存者であったリズリンさんは、"光がちらつくような幻覚が見えた"と証言しており、有害物質の噴出などを調査...リズリンさんのお腹にいた三人の赤ちゃんは亡くなっており、リズリンさんの容態も...』

「こんなとんでもニュースより、市長の汚職を追求しろ!」

  父は怒りながらニュースを見ていた。友だちの名前は忘れてしまったのに、リズリンさんって名前はいつでも思い出せるの。おかしいでしょ?


  それから、ニュースで有名な人たちの訃報が増えたんだけど、そんなのって前からだったからおかしいなんて思わなかった。若い人も老いた人も、健康な人も病気だった人も、みんなある日パタッと死んでしまった。死因は不明。


  私と友だちは、その頃お話を作るのに夢中だったから、そんなのどうでも良かった。音楽が好きな他の友だちは、尊敬するミュージシャンが死んじゃったって大泣きしていた。


  でも、学校の知らない子や、親戚と、私の周りにも、だんだん死は近づいてきた。

  この頃の事を思い出すと、両親はいつも真っ黒な服を着ていた。


  先生が死んで学校は休校になり、優しい父の表情は険しく、厳しい母の表情は奇妙に優しかった。両親は怪我をして帰ってくることもあった。食べ物は缶詰ばかりになった。


  母が出かけたきり帰ってこなかった。

  電気会社の人が死んじゃったから電気が消えて、水道水も出なくなって、トイレは溢れて、家や街は缶詰めのゴミだらけになった。

  病気になってももう病院が無かった。風邪を引いただけで死にかけた。


「ずっと遠くの町にはまだお医者さんがいるらしい。」と父が言っていたけれど、私はなんとか、薬局から持ってきた薬を飲んで治った。


  もうお金は意味がなくて、力尽くで権力を握ろうとする人もいた。でもその人達だって死んじゃうの。たぶん全部死なないと終わらないんだって思ってた。


  謎の死じゃなくても、諍いで死んだり病気で死んだり。悲観的になって自分で死んじゃったり。


  どんどん減るから、食べ物の心配は当分はなかった。少なくとも、缶詰の消費期限まではね。


  死んじゃった人たちのお葬式もできなくなってきて、私も埋めるのを手伝った時もあるのだけど、あれ、友だちはいつ頃死んじゃったのかな?とにかく街はひどい臭いになって、シュロはいつも元気がなかった。



  父が死んだ。私はシュロと2人で家を出た。


  人を呼んでも誰もいなかった。人っ子一人いなかった、ならまだマシだった。人がいた分の死体があった。いっぱいあった。


  地獄というには静か過ぎた。でも、ここが終わりなんだって、私は思っていた。もう生活は多分もっと辛く壮絶だったと思うけれど、今となっては詳しく思い出せない部分だ。


  駅にいても電車は来なかったし、車も動かせないので歩いて行くほかなかった。

  世界中こんな有様なんだろうか?電気はつかない、電波は届かない。もしかしたら戦争もなくなったかな?

  隣町も、知らない町も、誰も彼も同じようだった。


  シュロとあてもなく歩いた。怖いとか、思わなかったように思う。私も死んじゃった方がいいな、と思ってもいたし、シュロがいたから生きていても平気だった。


  どこまで歩いたかな。光の球が飛んできた。チカチカ点滅しながら、私に近づいてきた。




  私は歩いていた街から、一瞬で景色が変わり、全然知らないところにいた。

  何が起きたのかさっぱりわからなかった。


  私は何ヶ月かぶりに生きている人に会った!

  みんなボロボロで、ひどく飢えている人もいた。色んな国の色んな人がいて、言葉は通じなかったけれど、人間に会えて喜んでいるのは同じようだった。私も女の人に話しかけられて、抱きしめられた。

  ガヤガヤ色んな言葉が飛び交ううちに、喧嘩を始めた人たちもいた。


  何も無い荒野だった。


  私は安心したはずなのに、何だか怖くなってきて、シュロをぎゅっと抱きしめていた。見上げると、よく晴れた空だった。

  気がつくと光の球がふわふわ、私たちの頭上を飛んでいた。


  突然、その球がぐわっと牙を剥いて、私に飛びかかってきた。そういう風に感じた。

  周りにいた人たちは悲鳴をあげて私を避けた。シュロは吠えていた。


  何かは私に触れていて、中に入り込んでくる。私の体はバキバキと音を立て骨が砕けている。皮膚を割いて牙がめり込んでくる。


  それらが全て感覚の勘違いで、痛みも無いのだけれど、様々な形の侵食を私は感じていた。


  私の意識は朦朧としていた。そこに何かが、じわじわと、チカチカと、入り込んでくる。私が私でなくなっていく、盗られてしまう。雑多なノイズがかかったようになった。



  そうして私は、

  私は、

  今までとは違う存在になった。


  生きてはいない半物質の体。今までの両方の記憶を持つ精神。

  そうなった私がどちらの私なのか、わからない。今までの記憶はあるものの、すべてが曖昧になってしまった。


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