14 謝罪
トゥヴァリは夢を見ていた。
親なしでは無い自分の夢だった。
「行ってきます!」
と、父と母に元気に挨拶をして、出かけていった。
すぐ近くに住んでいるペルシュが、西の林で待っている。
「おはよう、トゥヴァリ。」
と悪戯仲間のレニスが言った。
「ペルシュは先に行ってるぜ!」
西の林に行くと、ペルシュはいつもの丸太の上で待っていた。
「今日は林の奥まで行こう。」
ペルシュは言う。
「だめだよ、母さんが心配する。」
とトゥヴァリは言った。
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ぼんやりと膜がかった目を擦り、トゥヴァリは起き上がった。手が間違いなく思い通りになるのを確認すると、自分が成功した事を確信した。
「やった!」
トゥヴァリはベッドの上で飛び跳ねた。
精霊がチカチカ、トゥヴァリの側に寄ってきた。
「おい、やったな!お前!...おっと、食うなよ?もっと加減を調節しなきゃならない。それまで俺を食うのはだめだ。」
ベッドから飛び降りるたトゥヴァリは、隣の部屋のテーブルに突っ伏して寝ている人を見つけた。金色の長い髪をした人だった。
周りには、トゥヴァリが書き写した本が積まれて山になっている。
「...誰だろう?」
トゥヴァリは精霊に聞いた。精霊はスイ、スイ、と飛び回る。
「うーん...。」
と唸ると、その人は目を覚ました。
頭を持ち上げて、トゥヴァリと目が合う。
左頬に服の跡が付いていた。
「トゥヴァリ!」
彼女が目を開いて叫んだので、トゥヴァリはたじろいだ。
ベッドの方に戻って、隠れた。
知らない人のはずだった。心臓が、どきどきする。
「急に動いちゃだめよ。気分はどう?」
「誰ですか?何故、俺の家に?」
「私は元老院のハーヴァ。アイピレイスに呼ばれて来たのよ。」
ハーヴァは、ゆっくり、優しい声で答えた。
道理で変な服を着ている、とトゥヴァリは思った。
ちょうどその時、玄関の扉が開いた。赤い帽子に赤い服、赤い靴の男は部屋に入り、トゥヴァリを見るなり大変に喜んだ。
「良かった、トゥヴァリ!うーん、君は、もう三月も眠っていたんだ。心配したよ。」
アイピレイスはトゥヴァリを抱きしめようとした。トゥヴァリは恥ずかしくなって、アイピレイスを避けた。
「何が起きたか、話してくれるね。」
アイピレイスは真面目な顔で言った。
三人はテーブルにつき、トゥヴァリは精霊と行った実験を二人に説明した。
精霊が、人を死なせ無い程度に生気を食べることが可能であるという結果を。
信じられない、とアイピレイスは言った。
「結果はこの目で見た。だが、私が驚いているのは、精霊が君の言う通りにしたことにだ。」
と、ハーヴァと顔を見合わせる。
「セレニアに、試行錯誤する許量がある...ってことかしら。」
「それでは...私たちが勝手に諦めていた、というわけだ。」
二人が黙り込んだので、トゥヴァリも黙っていた。
「今まで、数多くの命を無駄にしてしまった。」
しばらくして、アイピレイスはぽつりと言った。
「もし、早くそれに気づいていたら...こうなる前だって...。」
「仕方ないわ、三百年以上前のことを言ったって。」
ハーヴァがアイピレイスの肩に手を置いて、慰めた。ハーヴァ自身も沈痛な表情を浮かべていた。
「...俺も、五年前になんとか出来ていたら、ペルシュが死ぬことはなかったのにって思いました。」
トゥヴァリも恐る恐る言った。三百年生きてきた人たちに自分のことを混ぜるのは、自惚れだったかと不安になった。
しかし、ペルシュという名前を聞いて、ハーヴァは息を飲み、「私、あなたに謝らなければ。」と言った。
アイピレイスが顔を上げ、
「ハーヴァ、それは。何でも知ることが良いこととは限らない、それは...。」と言って、トゥヴァリを見る。
「何ですか?」
トゥヴァリは家を飛び出し、走った。
五年前のあの日のように、息を切らせて西南地区へ走った。
「はぁ...はぁ...っ!」
唾を飲み込み、涙を落としながら走った。
西南地区の広場で、膝に手をつき、息を整えて辺りを見回した。
前にレニスとの喧嘩を仲裁してくれた男がいるのを見て、トゥヴァリは涙を拭き、しっかりと顔を上げた。
「あれ?トゥヴァリじゃないか!...どうしたんだい?」
赤い目を見れば、泣き顔だということが誰の目にもすぐにわかった。
「レニスはどこですか?」
「今日は、林の方へ行くのを見たよ。」
トゥヴァリが走って林の入り口へ行くと、レニスが葉を蹴り飛ばしながら歩いているのに会った。
「あ!なんだ?お前...。」
レニスが苦いミズハ草を噛み潰している時のような顔を向けると、トゥヴァリは突然、地面に膝をついた。
「俺のせいだったんだ!俺の...お前の言う通りだった!」
「な、何がだよ。」
レニスは突然の剣幕に、怯んで後退りをした。
「ペルシュが死んだのは、俺のせいだった!俺を殴ってくれ、レニス!お前以外に俺を罰せられる奴はいない...っ!」
トゥヴァリは気がおかしくなってしまったのだと、レニスは思った。だが、無理やり笑いを浮かべ、
「ああ、やっとわかったかよ。」
と、トゥヴァリの顔を膝で蹴り飛ばした。トゥヴァリは葉を撒き散らして倒れ込んだ。が、すぐに起き上がって、尚もレニスに縋った。
「ごめん...ごめん...ごめんペルシュ...!ごめん...ごめん...っ!」
「気持ち悪いな、くそが!」
レニスはトゥヴァリの胸ぐらを持ち上げると、思いっきり頬を殴った。
「くそ!くそ!」
そうして倒れたトゥヴァリをもう一度掴み起こして、言った。
「何でお前が大人になる!何でお前だけ大人になる!ペルシュは死んだのに!
どうしてペルシュが気に入るような事ばっかり、お前はするんだ!
俺には到底できないような事ばっかり、平気でするんだ...っ!」
レニスも泣いていた。トゥヴァリは気を失うこともなく、目を背けることもなく、それを聞いていた。
「精霊が決めたのは、俺とペルシュだったんだぞ!お前が、こっちの地区に上がりこんで盗んでいかなければ!」
「決めたって...何?」
「家族になる相手だよ!」
「え??」
トゥヴァリはとても驚いた。子どもの頃は女だと、男だと、意識して人を見ていなかった。
「何っだよ、お前...あいつの事、男だと思ってたのか?そうだよなぁ、あいつ女らしくなかったもんな...!」
レニスは泣きながら、笑った。
「ああ、嫌になるよ、お前に会う度に、お前に向けている恨みは全部俺の独り芝居なんだって思い知らされてさぁ...!
なあ、お前が何で悪いのか、教えてくれよ。わかったんだろ?俺だってずっと考えてたんだ!」
トゥヴァリは地面に転がっていた。頭はガンガンと痛かった。それでももっと、レニスが自分を殴れば良かったのに、と思った。
もっと怒っていて、もっと恨んでいて、トゥヴァリを殺してしまえば良かったのに、と思った。




