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セレニアの国の物語  作者: さなか
アルソリオのトゥヴァリ
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12 ミスラの家に伝わる物語

『朝、起きると畑や林や我々の周りを、精霊が忙しく飛び交っていた。さながら、家畜小屋の主人のようである。


 昨日までの絶望が夢であったかのようだ。まるで何かの救済施設に保護されたかのような感覚が生じる。


 私たちは各々に当てがわれた家の中に住んでいる。清潔なベッドというのは半年ぶりくらいだろうか。

 北には立派に過ぎる宮殿が出来ていた。我々の居住区は、それよりもずっと狭い。なにせたったの百人ばかりしかいないのだ。あれに掬われて行った人たちは、宮殿の中で生きているのだろうか。


 空腹を覚えてきた頃に、町は少し揺れ、少し拡がった。

 驚いて外に出て見ると、広場ができていた。皆、何事かと集まってきた。一瞬でも安息についてしまうと、また危機的な状況を迎える事が不安で仕方ない。

 精霊が、魔法で缶詰を配った。同じ量を均等に配っている。今後、食事はこのように配給されるということなのだろうか?


 宮殿から人と精霊の王が出てきて、町を視察した。

 一人は女医であった。彼女は我々のメディカルチェックを行い、一人の年配女性が、だいぶ気分を悪くしていることに気がついた。

 彼女は気付けの薬が必要だと言った。

 精霊王は精霊に命じ、魔法で治させた。


 町は壁に囲われている。

 人の居住区の西と南は動物の居住区で、西に乾いた林が、南に熱帯が、宮殿の向こう側には氷の地があるらしい。それも一つ一つに住処が与えられており、つまり動物園のようなのだろう。


 町を歩きながら精霊王が熱心に話を聞いているのは、農夫のオーウェンという男だった。

 また町は少し揺れ、少し東に拡がった。オーウェンの為に魔法で鍬が出され、彼は少し地面を掘り返した。

 精霊王は、魔法で一面を畑に変えた。

 私たちと動物が食料とする農作物が育てられる事になった。


 私は精霊王と話をした。

 植物や畑はどこから持ってきているのか?

 ー世界のあちこちから切り取って移動した。

 退屈だから畑の係になっても良いか?

 ー生気を消費させてはならない。人が今までの活動をするのは無駄に物を消費する。精霊がすべてを管理した方が効率が良い。


 そうして何日と過ぎた頃、食事時でも無いのに腹を空かし畑に入ってしまった男がいた。

 私は久々に人の死体を見た。

 勝手に物を消費しようとすれば、殺処分するという事らしい。

 私は精霊をまるで神の力かのように思い始めていたが、そうなってあの日々を思い出した。


 男の生気をまるまる吸い取ってしまった精霊にも、お咎めがあったようだ。皆の好物なのだから皆で分ける約束だと精霊王は怒った。


 その死体は精霊王の魔法によって血もこぼさぬように解体され、部分ごとに分けられ、まるで肉屋のショーウィンドウのように並べられた。

 それが繰り広げられた時、広場は阿鼻叫喚だった。


 あれは元々人であったはずが、その心は失われたのだろうか。

 頼むから、私たちの知らないところでそれをやってくれと、私は頼んだ。


 それをどうするのか聞くと、動物の飼料にするという。人の味を覚えた動物は人を襲う、と言ったが、勝手に人を食おうとした動物も同じように殺処分するという事だ。


 缶詰ではなく、動物の肉が食事に配分される日があった。

 これは人を血肉とした動物では無いのか、と私は食べる事を拒んだが、横の者が、生物は少ない。仕方ないのではないかと言った。


 人が動物の死骸を食い、動物が人の死骸を食う。自然のサイクルに人は還ったのだ。しかしそれさえ精霊の魔法で行われている。


 かつての社会の時、家畜であった動物たちはこのような思いを抱いていたであろうか。賢さでもって頂点捕食者として君臨した人間は、ついに精霊という圧倒的な天敵の前にピラミッドの順位を一つ下げ、動物の中にカテゴライズされたのだ。』






 トゥヴァリは、あまりの衝撃に本を閉じた。イグルシスの言った通り、意味のわからない単語が多すぎる。

 もし、トゥヴァリがたくさん過ぎる『物語』を読んで、色々な事柄の意味を識っていなかったなら、さっぱりわからないだけの本だっただろう。

 しかし、トゥヴァリは既に幾つかの文を関連付けて文章を読み解くことができた。書かれていない行間の事柄も、想像することができた。


(『精霊が人の生気を吸い取った』、その結果『人が死んだ』。)


 トゥヴァリが当てはめたのは、西の林で熊が倒れた時のことだった。


(『人の生気は精霊の好物』...。)


 七日ごとに赤い精霊が来るのは何故か。

 赤い精霊が来ると人が死ぬのは何故か。


(精霊は七日ごとに人の生気を吸い取る。)


 トゥヴァリは自分の白い本にペンを走らせた。


 人は野菜を食べる。人は動物を食べる。

 動物は木の実を食べる。動物は人を食べる。

 精霊は人や動物の生気を吸い取る。


 精霊は野菜の種を蒔く。精霊は野菜に雨を降らせたり、日に照らしたり、栄養を与えたりする。

 精霊は人の食事の世話をする。食事は人が栄養を得るために摂る。栄養がなければ人も野菜も死ぬ。


 精霊は畑で野菜を育てる。人に食べさせるため。

 精霊は町で人を育てる。


(精霊たちが食べるため...!)


 トゥヴァリは、ペンを落とした。


 この国に出口なんてあるわけが無かった。人間はこの国に生まれ、精霊に食べられる、ただそれだけの一生だからだ。

 彷徨っていれば家に帰される。食事の時間にいなければ探しにやってくる。管理されているからだ。

 具合が悪ければ治され、子どもは三人産むことが決まっている。数を増やすためだ。


(アイピレイス様に聞かなければ、アイピレイス様にー。)


 アイピレイスはすべてを知っているはずだ、とトゥヴァリは気がついた。彼は不死で、何故国が作られたかを知っていて、何故精霊が人の世話をするのかを知っている。


 トゥヴァリが精霊に食べられるために生きていることを知っている。


 いくら知識を得たところで、五十を過ぎれば順番が回ってくることも。




 トゥヴァリは数日、自分の家から出なかった。アイピレイスが訪れた時も、扉を開けて迎え入れることはなかった。


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