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(旧版)セレニアの国の物語  作者: さなか
精霊使いミスサリア
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第2章 古き友の咎 19

「エサム家は海を渡ってからずっと鉱夫の家系だよ。ウルスは遠い町だ。両親が死んだ後は孤児院で面倒を見てもらうしかなかった、俺とラナはそれでこの町に来たんだ。それから城下町の孤児院に連れて行かれた。」

「...そうだったのか。」

カッツォが普通に話したのでハンドレッドは少しホッとした。

「サンドラゴン王子が生きていたなんて話、今まで誰からも聞いたこと無いよ。何だってそんな話になったんだい?」

「ラナが...ラナが姉様に言ったそうなんだ。」

「ラナが?」

カッツォは眉を潜める。

「ラナは親にそう教えられて育ったと言ったそうだ。それでロカが、サンドラゴンの末裔では無いという証拠を探しに咎捨谷へ行くと言うのでついて来たんだ...私は。」

「俺の親はそんな話していないよ。一度だって。」

「では...ラナが言ったことは嘘だったのか?何故だろう。」

「...。」

カッツォは複雑そうな顔をして口を噤んだ。しばらくして、彼にしては滑舌悪く切り出した。

「ロカ...は俺の事、知ってたと思うよ。」

「え?」

「俺があの時の侵入者だってわかっているはずだよ。こないだっから、俺の事を見る時は...元から相当目つきが悪いんじゃなけりゃ、だけど。」

「色々とおかしな話だな。ダリウスはいつものうっかりだとして...。ラナは自分がサンドラゴンの末裔だと嘘をついて、それをずっと知っていたロカはカッツォの事を覚えているのに、知らないふりをしている?」

「...。」

「そうか...やはり全てはマルメロの陰謀だな!ルペッサン家の頂点に立つ為にラナに嘘をつかせているんだ。南オルミスを乗っ取るつもりで...!」

ハンドレッドが熱弁に拳を振り上げる。

「待て待て、落ち着きなよ。思い込みで話を進めると厄介な事になるぜ。」

「...わかった。二人に話を聞いてみよう。」

「俺は別の場所にいるよ。やっぱり顔を合わせるのはまずいから...。」

カッツォはイヴェットたちとこの孤児院の裏で待っていると言ったので、無理強いも出来ずハンドレッドは一人で町に戻った。

店という店は覗いてみた。宿屋も全て確認した。ロカとラナの兄妹はどこにも痕跡を残していなかった。

ハンドレッドは初めに入った食堂に帰って来た。隣の馬小屋にフィネスとペルシュの二頭は大人しく繋がれている。

「お帰り、ドレ君!」

「あれ...お一人ですか?」

ミスサリアとダリウスが出迎える。ハンドレッドは空腹を忘れていたのでテーブルの上に一枚も皿が無い事も気にならなかった。

「カッツォたちは見つけた。ロカとラナがどこにも見当たらないんだ。」

「私も探しましょう。」

「ボクも行くよ。」

店を出て、三方向に分かれる事にした。ダリウスとミスサリアが恥も外聞も無く大声で「ロカ君〜!」「ラナ様ー!」と叫ぶので、彼らはだいぶ町人たちの注目を集めていた。

昼過ぎに到着してからそれほど時が経っていないはずなのに、辺りは暗くなり始めていた。

「町の外へ行ってしまったのだとすると、まずいですね。」

ハンドレッドと合流したダリウスは言った。

「山は日が落ちるのが早いですから。」

「ドレ君ー、ダリ君ー!」

二人の姿を見つけ、ミスサリアも通りの向こうから戻って来る。

「どこにもいないよ。」

「...そうか。」


「お兄ちゃん、宿に戻ろうよ。」

山の影が忍び寄る気配に肌寒く感じたイヴェットは言った。

「そうしなよ。彼らがいたら気を逸らせば良いんだろ。」

この建物の裏などに留まるのがいい加減うんざりした様子で、シュロも言った。

「そうだな。」

二人と一匹が道へ向かって行くと、

「おーいリサーナ!」

反対側の道の脇の林から、汚れた服の男が叫んだ。カッツォたちの前を歩く、孤児院から出て来た女性に向かって言ったようだ。

「さっき、子どもが二人南へ抜けてったが帰ってこないんだ。ちょっと見て来てくれるか。」

「わかりました...。」

女性は気の無い声で答えると、町の方へ向かって行った。

林の奥から恰幅の良い女が出て来て、男の背中を乱暴に叩いた。

「あんたそんな事、リサーナに...。」

「良いだろ、どうせ行くんだから。」

「なあ、」

カッツォは木こりの夫婦に話しかけた。

「その子どもって金髪のと、こんぐらいの...?」

「そうだな。そんなだった。友だちか?見かけねぇ子どもらだったんで気にしてたんだ。この時間に戻って来ねぇから心配だな。」

「さっきのリサーナって人は?」

「孤児院で働いている娘だよ。」

「...へえ。俺は昔、孤児院(ここ)にいた事があって久しぶりに帰って来たんだ。あの人は見た事が無いな。」

「事情があってね。孤児院で働き始めたのは最近さ。」

「そうなんだ。咎捨谷へ行くんだって?こんな時間に?」

「あの娘は毎晩、仕事が終わりゃ咎捨谷(エルワルーシャ)へ行くからな。道がねぇから危険だがあの娘らにとっちゃぁ庭みてぇなもんだ。」

「あの娘にだって危険だよ。でも誰も止められるもんかね。」

「ふぅん。何か事情があるんだろうね。」

「そりゃあなあ、...。」

男は辺りを見回すと、声の調子を落とした。

「一月、もう二月になるか。」

「可哀想にねぇ。」

「墓参りに行くのさ。」

「何でこんな時間に?」

「リサーナもこの町では肩身が狭い。皆んな同情しているけどね。朝からちゃぁんと働いて、仕事が終わってから行くのさ。」

「そりゃあ大変な、事情があるんだろうね。誰の墓なんだい?」

「実際は墓はねぇがな。愛した男のな。」

「始めっから幼馴染同士、結婚させてやりゃ良かったのさ。それをあの親が...。」

「うん。」

「嫌な金持ちの家に嫁がせたからさ。大事にされて無いのを、テオも黙って見てられるもんかね。だけどある日バレちまってねぇ。」

「裁判で奴は...死刑んなっちまった。奴の骨は谷の底。二人で逃げちまえば良かったのになぁ。こんな小さい町ん中で人の女房に手ぇ出したらなぁ。」

「なんとも可哀想な話だね...わかった、ありがとう。」

愛想良く別れたカッツォはイヴェットたちの元へ戻ると、「行こう。」と真剣な顔をして言った。道の途切れた先は真っ暗闇の林だ。孤児院にいた頃は入ってはいけないと口酸っぱく言われていたものだ。

道を降りていくとハンドレッドたちがいた。

「ロカとラナは咎捨谷の方へ行ったらしい。」

「どっちだ?」

「南だ。谷へはちゃんとした道が無い。林の中を抜けて行かなきゃならない。夜は特に危険だ。」

「じゃあ早く二人を追わないと...!」

ハンドレッドは躊躇もなくそう言った。カッツォは思わず、ふっと笑った。

「何だ?」

「いや、何でも無いよ。とはいえ俺たちも危険だ。もうすぐ咎捨谷へ行く人が通るはずだ。その人に案内してもらおう。」

「さすがカッツォだ。ではミザリーとイヴェットはここで待っていてくれ。」

「えー、ボクも行くよ!」

「...私も。」

イヴェットが言うのをシュロが見上げる。

「危険な場所に君たちを連れて行きたく無いんだ。」

困った顔をしているハンドレッドに、

「ドレ君が一番心配だよ。」

とミスサリアは言った。

「確かに...。」

ダリウスは苦笑いした。



暗い夜道にランタンの明かりが揺れている。石ころの多い道を踏みしめる音がぼんやりとした明かりと共に近づいて来る。明かりの照らし出した人影にリサーナは驚いて顔を上げた。

「どうしたの?もう夜なのに...。」

リサーナはランタンを掲げて一人一人の顔をよく見た。鼻筋の通ったやつれた顔で、目付きは鋭く睨まれているようだった。

「孤児院の子じゃ無いわね。」

「背の低いのもいるけど、もうそんな歳じゃ無いよ。」

カッツォが言うので、ハンドレッドとダリウスはどちらの事を言ったのかと視線で身長を比べあった。イヴェットはシュロに乗って、少し離れたところにいた。彼女たちはリサーナには見えない様にしてついて来ることになっていた。

「仲間が昼に咎捨谷へ行ったきり帰ってこないんだ。」

「咎捨谷に夜を過ごせるところは無いわ。」

「そう...心配なんだ。探しに行きたいんだよ、案内してもらえないかな。」

リサーナは注意深く四人の顔を見つめた。彼女の表情はピクリとも動かなかった。

「...良いわ。私の歩いた後をついてらっしゃい。」

リサーナは、ふいと背を向けて歩き出した。





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