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007.吸血鬼の特性、力

目の前の美女吸血鬼は唐突に、僕は一度死んでいたから吸血鬼の眷属にして蘇えらせたのだと言われた。

しかし、自分の体の何かが変わった、という感じはしない。


とにかく今は、吸血鬼族ヴァンパイアやその僕である眷属に関する情報が少なすぎる。

彼女に質問することは、まずその情報についてだ。



「あの、吸血鬼族のことをもっと教えてくれませんか?」



彼女は、その巨大な胸を強調するように、前で腕を組んだ。

つい目線がその部分で止まりそうになるが、我慢だ。

同じ間違いを犯すわけにはいかない。

今度、胸を見ていたことがバレれば、僕は目を失うことになるからだ。



「…いいだろう」



それから彼女は話はじめた。

彼女の話によると、吸血鬼族の特徴は、


・耳が尖っていて、長い。

・瞳の色が赤色。

・身体能力、魔法センスともに、人族より遥かに優れている。

・生物の血を定期的に吸わないと、動けなくなる。

・寿命は他の種族の血が混じったハーフやクォーターでなく、純血であれば2、3000年程度。

・純血のみが、従順な僕である眷属をつくることのできる特質系魔法”血従魔法”を使える。


ということらしい。

なんともチートくさい種族だ。

戦いに強い才能をもち、寿命が人族と比べものにならないほど、長い。

ちなみに人族の平均寿命は70~80歳、長くても100歳程度で、地球の人間と変わらない。



「吸血鬼についてはわかりました。それで眷属って結局、何者ですか?」



彼女はめんどくさそうに、深いため息してから、話始めた。



眷属とは純血の吸血鬼族のみが使える、血従魔法"血の隷属"で従えた、僕、または奴隷である。


彼女がその魔法を使えば、僕は主である彼女の命令に逆らえない。

死ね、といわれたら僕は命令を聞いて、自殺するだろう。

魔法を使っていない状態での主の命令は、絶対順守ではないようだが。

あくまでも、血従魔法という特殊な魔法を行使しているときのみ、僕は主の従順な奴隷なのだ。


だが、悪いことばかりではない。

眷属になれば、主が死なないかぎりは、僕も年老いて死ぬことはない。

肉体は老いから解放され、身体の状態が最高になったら成長が止まり、主が死ぬまでその肉体年齢で維持される。

不死ではないが、不老にはなる。


さらに、人族よりも若干ではあるが、魔力の回復や傷の自己治癒能力が高いらしい。



不老になったというのは、確かに喜ばしいことだ。

だが、主が死ねば、僕も死ぬということと、主の命令を絶対順守しなければならないという点に関しては、最悪としか言いようがない。

僕にだってやりたいことがあるのだ。

彼女に勝手に死なれて、僕まで被害を受けるなんて勘弁しとほしい。


でも、彼女には一度失った命を救ってもらったのだ。

彼女からしてみれば、僕を救う義理なんてなかっただろうし、そのまま放置するのが普通の反応だろう。


確かに僕を眷属にするという、彼女なりの思惑があったのかもしれない。

だが、彼女は僕を死から蘇らせてくれた。


彼女には非常に巨大な恩ができてしまった。

さすがにこのまま何も返さず、さよならはどうかと思う。

しかし、僕にはリリーを救うという目的がある。


……どうしよう。



「そういえば、自己紹介をしてませんでしたね。僕の名前は"ヴィンセント"です。名字はありません。年齢は8歳で、母からはヴィンスと呼ばれていました。あの、命を救っていただいて、本当にありがとうございました」



「ん?  ああ。ヴィンスか。私は名は”セラス=クロムウェル”だ。私のことは、セラスか、主と呼べ。歳は…1200歳くらいだ。たぶんな」



いきなり彼女を名前で呼ぶのには、僕みたいな童貞には少なからず抵抗がある。

まあでも、こんな絶世の美女に、僕の名前を呼ばれるのは悪い気はしなかった。


外見は25歳前後に見えるが、中身はすごいおばあちゃんだった。

さすが長寿の吸血鬼族だ。

1000年も生きているなんて、想像もできない。



「……はい、我が主、セラスさん」



さて、これからどうしようか。


とにかく、僕が聖騎士団に襲われて、母が捕まったかもしれないということを彼女に言わないとな。

もしかしたら、何か助けになってくれるかもしれない。


そんなことを考えていると、彼女から突然声がかかる。



「ところで、ヴィンス。お前はリリーの息子だろう?」



!?


以外にも、セラスさんは母を知っていた。

どんな関係なのだろうか。

もしかしたら、母の知り合いだから、僕の命を救ってくれたのかもしれない。



「母を、知っているんすか?」



「まあな。リリーは私の正体を知ってからも、話しかけてくるような、不思議な人族だった。そうだな…奴との関係は、たぶん友達というやつだ」



「友達…」



「お前を見つけられたのは、私が設置した緊急避難用の魔法陣が発動した気配がしたからだ」



「な、なるほど」



あの家にあった転移魔法陣は、セラスさんが作ったものなのか。

転移魔法陣を描けるということは、彼女は転移系の魔法を習得しているということだろう。

是非、僕も使ってみたい。



「母は、恐らく聖騎士団と名のるやつらに捕まったんだと思います。僕の後に魔法陣から現れることはありませんでした」



「そうだろうな。設置した魔法陣は一人用だ。お前が使えば、リリーは転移できない」



「そんな!? でも母は先に行けと言いましたよ!?」



くそ! リリーはすべてわかっていたんだ。

僕が魔法陣を使えば、自分が逃げられなくなることを。

わかっていれば、なんとかして母と一緒に森へ逃げたのに!


いや、でもあのときは、僕が足手纏いでそれはできなかった。

僕が魔法陣で逃げるのが、最善策だったのだ。



「……母は生きているんでしょうか」



セラスさん聞いてもどうしようもないのに、つい口から漏れてしまった。



「心配か?」



「当たり前です! 僕のたった一人の家族なんですよ!」



「ふっ、奴は愛されているな。………心配するな。リリーはその程度で死ぬような奴ではない」



セラスさんは、静かに笑っていた。

そんな彼女に、僕はなんだか無性にイライラしてしまう。



「どうしてそんなこと、わかるんですか!?」



「どうして、か。……奴と初めて会ったときの話だが、私は正体ばバレたと思い、本気で奴を殺そうとした。だが、奴は、本気を出した私から逃げおおせたのだ。それも五体満足でな。………そんな奴が、たかが聖騎士団ごときに、遅れをとるわけがない。リリーは間違いなく逃げて、どこかで生きている」



彼女の言葉には、僕を信じさせる不思議な説得力があった。

実際にリリーと本気で戦った彼女だから、生き延びているとわかるのだろう。

ひとまずは、彼女の言葉を信じることにしよう。


よかった。リリーは生きている。

僕はずっと張り積めていた緊張が溶けたような気がした。



「お前は奴の足手纏いだったのだろうな。それか、お前を守りながらでは、逃げられないと思ったか。どちらにしろ、自分の子どもを残して死ぬような、無責任なやつではない」



「母のこと、よく知っているんですね」



「まあな。一緒にいたのは、たかだた5年くらいだったが、リリーはこんな化物の私を友達だと言ってくれた。私の唯一の友だ」



そう言って薄く笑う彼女は、昔を思い出して嬉しいような、どこか寂しさを感じさせる複雑な顔をしていた。

彼女が何を思い自分を化物と呼び、そんな表情を浮かべるのか、今の僕には知りようもなかった。




------




とにかく、セラスさんの言葉を信じ、リリーは生きていると思うことにする。

それに、今は力をつけないといけない。

幸いにして、僕よりも魔法が得意そうな人が目の前にいる。



「セラスさん。……僕に魔法を教えてくれませんか?」



僕の頼みを聞いた彼女は、眉を寄せ、難しい顔をした。

やっぱり図々しかっただろうか。



「…ダメだ。私は何も教えないし、与えない」



「…」



「他人から得た力など、所詮はまがいものだ。………強くなりたいなら、死にもの狂いで努力しろ。私のそばにいれば、戦いは避けられない。オメトル教の聖騎士団などとは比べものにならん程の敵とな」



吸血鬼族ヴァンパイアは世界中から恐れられ、忌避されている。

彼女も聖騎士団やその他の連中から、常に追われ、逃げ続けて来たのんだろうと思う。



「でも、呪文がわからないと、Lv.3以上の魔法を使えません。どうやって強くなればいいんですか?」



せめて魔法の呪文だけでも教えてほしい。

この世界の魔法は、無詠唱とはいかないのだ。



「ほう、Lv.2は使えるのか。……私の属性系魔法の適正は、火属性と水属性、風属性だが、呪文だけなら教えてやろう」



「ありがとうございます」



「お前には、これから常に私のそばにいてもらう。少なくとも、体が成熟するまではな。せっかく拾ってやった命だ、無駄にされたら適わん」



「……はい」



こうして、僕は1000年の時を生きる吸血鬼、セラス=クロムウィルにお世話になることになった。


かなり厳しい人みたいだが、僕を蘇らせてくれたのだから、きっと悪い人ではないだろう。

リリーには当分会えないだろうが、ここでしっかり力をつけてやる。


もう、後悔はしたくない――――。


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