華の黄昏
設定穴だらけですけど短編だから許して下さい(土下座
遠くない未来。時代は進み、社会の中でもほんの数割の人間だけが経済を動かしていく、というのは昔から変わってはいないものの、その兆候は昔よりも強く根付いてしまった未来。
当たり前の様に格差が生まれ、それは非常に大きくなった。平等なのは精々支払わねばならない血税のみ、庶民の暮らしは厳しくなってゆく。それだけではなく浮浪者の数も大きく増え、治安も守られなくなっていった。持つ者はそれの位置を確固たるものにするために、同じ人間同士で蹴落とし合う。果てには非合法に暗殺を試みるなど、その倫理観は全く要を成さない。
個人の利益だけを追求していく国家の形に不満を覚え変革を夢見る人間は、同じく社会に見放され怨みを持った人間と結託し、社会の転覆を目論んでは闇に消えて行き、また後を追う様に同じような集団が現れる。平和な国だという常識は最早何処にも有りはしない。
このような社会の大企業のトップの人間は、自分の残した財産や功績を引き継がせる為に子供を大量に作り、選別し上で優秀な者に継承権を与える。既に大人たちからすれば子供たちは守り育てるものではなく、自分達の見栄をはる為の道具と成り下がっていた。
何処かの海。絶海の孤島にそれは存在する。
西洋的幾何模様に彩られた荘厳な門を潜り抜けた先には、おおよそ人が想像しうる、楽園というものを切り取ったかの如き光景が広がっていた。
白く、清浄を体現する百合の華が一面を覆っている。
「 蟻が」
呟いた彼女は、金糸をその体躯に煙らせながら碧玉の瞳を冷たい感情に染めて。
「 駆除して頂戴な 」
紫皇院セイラ。それが彼女の名である。紫皇院家の次期当主であり、才色兼備の令嬢。その美しさは天使ではなく、女神と見紛うほど。
しかし、対照的に性格は非常で、目的の為にはあらゆる物を切り捨てることのできる才媛である。
駆除を、と軽く虫を無意識に踏み潰してしまうように隣にいる召し使いに告げた彼女は再び紅茶へと意識を戻す。それ以上はまるで自分は関与しないとでも言っているかのように。
「 畏まりました 」
召し使いもこの世の造形とは思えない美しさであるが、その方向性は主とは違い、悪魔的。魔性というには生ぬるく、視線だけで人を魅惑し、魅了し、飼い殺せるのではないかと錯覚する。紅の瞳に喜色を湛えた彼女は鴉色の御髪を靡かせて歩いていった。
処理を終えた召し使いは主の元へと帰還する。薔薇に覆われたトンネルを通り抜けて、その先で褒美を与えることを心待ちにしている彼女の元へと。
一度召し使いの姿を目視したかと思えば、紅潮させた頬を隠すこともなく、彼女の胸元へと顔を埋め、堪らず喘ぎを漏らした。
「 褒美よ。受け取りなさい 」
そう高圧的に言い放ちながらも纏う雰囲気は完全に淫秘な何が異性を誘惑しているかのよう。
「 では、有り難く頂戴致します 」
差し出された首筋に舌を這わせ、一舐め。恥ずかしげな喘ぎを響かせて、召し使いに身を預ける。
怪しげな笑みを浮かべた召し使いはその牙を、唾液の上から柔らかく挿し混む。
溢れる血を舐めとり、傷口を愛撫すると、主は声を枯らししまいそうな程に悲鳴というにはあまりにも淫らな声をあげる。瞳が蕩け、脚が笑いそうになりながらも召し使いを見上げた。足元は液体に塗れ、口からは粘度の高い涎が垂れている。その主の姿を確認した召し使いは、浮かべていた笑みを更に深くした。
国立蒼凰学園。そこは世界各地の令嬢を集め、守る檻。令嬢一人一人につき、召し使いの入学が認められている。
処女の帝国の女王である紫皇院セイラは、自らの召し使いであるレティシアに組み臥されている。
読了ありがとうございました