おまけ「とあるオタクの熱弁」
長いので第一話では割愛しましたが、鷹野のアニメトークをお届けします。
基本的には噂話の寄せ集めなので、内容の信憑性は保証できません。
「『宇宙戦艦ヤマト1』は、実は三クール三十九話で放送される予定だったんですけど、視聴率が低迷し、二クール二十六話しか放送されなかったんです。でもその理由は、裏番組で『アルプスの少女ハイジ』や『フランダースの犬』が放送されていたからなんです。『宇宙戦艦ヤマト』は再放送で再評価され、大ブームになったんです。『機動戦士ガンダム』も同じパターンで、四クール五十二話の予定が四十六話で放送が終了したんです。新しい物が評価されるのには時間がかかるんです。最も悲惨だったのは『伝説巨神イデオン』ですわ。四クール五十二話の予定が、三クール三十九話で打ち切りになったんですけど、文字通り打ち切りで、最終回が放送されなかったんです。『伝説巨神イデオン』の監督は、『機動戦士ガンダム』の富野喜幸監督だったので、視聴率のわりに結構ファンが多くて、ガンダムブームで左団扇のサンライズが、劇場版という形で最終回を作ったんです。これらと真逆の作品もありました。艦長もご存知の『超時空要塞マクロス』です。最初は二クール二十七話の予定だったんですが、二クールなのになぜ二十七話かというと、最初の放送はスペシャル番組で、第一話の『ブービー・トラップ』と第二話の『カウント・ダウン』が一時間枠で放送されたんです。戦闘機がロボットに変形するギミックの完成度の高さ、アニメにはなかったメロドラマの要素の導入、そして『板野サーカス』と呼ばれる戦闘シーンの演出で、放送中に人気を集めたんです。高視聴率で三十六話まで延長されたんですけど、本来の最終話、第二十七話『愛は流れる』より後はストーリーがグダグダで、人気を落としちゃったんです。話がそれちゃいましたね。『宇宙戦艦ヤマト』の監督は、漫画家の松本零士先生だったんですけど、どちらが原作者かを巡って、プロデューサーの西崎義展氏と裁判をしたんです。最高裁まで争った結果、西崎氏に軍配が上がったんですが、これには松本先生は怒りました。あまり知られていないんですけど、松本先生は週一回のアニメの監督と同時に、月刊で『宇宙戦艦ヤマト』の漫画の連載もやっていたんです。でもこのハードスケジュールに耐えられず、漫画は休載が続いて、未完成のまま、単行本一巻の超ダイジェスト版で出版されたんです。この前、オークションで出品されていたのを見つけて、競り落としたんです。でも当時の本は酸性紙が使われていたので、一世紀近く経っていて、ボロボロの状態だったんです。そこで専門家に依頼して修復してもらったんです。結局ボーナス一回分のお金を使っちゃいました。スキャンして電子化してあるんですけど、著作権がまだ切れていないので、私的利用の範囲で使ってますけど、著作権が切れたらアップロードして、『宇宙戦艦ヤマト』と松本先生の素晴らしさを世界に知ってもらうつもりです。『宇宙戦艦ヤマト』は何度もシリーズ化されて、映画も何本も作られたんですが、『宇宙戦艦ヤマト2』からはヤマトが犠牲となって特攻か自沈するパターンがほとんどで、『詐欺』とか『マンネリ』とか言われましたけど、マンネリのどこが悪いんですか? それを言ったら『マジンガーZ』も『北斗の拳』も『サザエさん』も『ドラえもん』も『アンパンマン』も『名探偵コナン』も『クレヨンしんちゃん』も『ちびまる子ちゃん』も『うる星やつら』も『ルパン三世』も同罪ですわ。偉大だから繰り返される、マンネリこそ傑作の証拠です。実際、二十一世紀に入って、『宇宙戦艦ヤマト』はリバイバルされたんです。最後の映画の続編の『復活篇』、木村拓哉主演の実写版『SPACE BATTLESHIP ヤマト』、そして『ヤマト1』のリメイクの『宇宙戦艦ヤマト2199』の三本です。まあはっきり言って、前の二本は駄作でしたけど、『宇宙戦艦ヤマト2199』は素晴らしいですわ。製作者のヤマトに対する愛が感じられます。『2199』ではメカの描写にCGが使われていますけど、塗装のはがれとか、装甲の痛みとか、手書きのテクスチャで演出していました。こだわりの職人芸の域ですわ。『2199』のオリジナル設定に艦内ラジオ局があるんですけど、最初に放送された曲は、『ヤマト1』のエンディングソング『真赤なスカーフ』なんです。しかもヤマトファンでもほとんど知らない二番の歌詞なんです。ヤマトファンの心をくすぐる演出です。第二話の『我が赴くは星の海原』では、離陸したばかりのヤマトが惑星間弾道弾ミサイルを迎撃したとき、ミサイルの爆発にヤマトが巻き込まれるんですけど、その様子を見ていた芹沢虎鉄将軍が、ヤマトは『溶けて蒸発したのでは?』って言うんですけど、この台詞、『ヤマト1』には無いんです。実はさっき言った漫画で登場する台詞なんです。製作者が漫画まで読み込んでいた証拠ですわ。この台詞は私の心の琴線に触れました。でも芹沢虎鉄は地球人側の悪役なんですよ。初めて地球の艦隊がガミラスの艦隊と遭遇したとき、先に攻撃命令を出して、反対した沖田提督を解任して、地球艦隊側からガミラス艦隊に先制攻撃をさせちゃったんです。その結果、地球が滅亡の危機に瀕しているのに、何の責任もとらずに生き延びていたとは、本当に腹が立ちますわ。また話がそれましたね、戻します。『2199』のオープニングで古代がコスモ・ゼロに乗り込むとき、コスモ・ゼロの計器類が一瞬見えるんですけど、全て円形なんです。松本先生の怒りを買わない範囲での、松本メーターへのリスペクトを感じました。ちなみにオープニングを作ったのは、『新世紀エヴァンゲリオン』で有名な庵野秀明監督です。『新世紀エヴァンゲリオン』も実質的な最終回が放送されなかったんですけど、打ち切りではなく、二クール二十六話の予定通りに放送されたんです。『新世紀エヴァンゲリオン』は『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』と違って、奇をてらった伏線だらけのストーリーで放送中に高い人気を集めたんですけど、広げすぎた風呂敷を畳めなくなったんです。予定された放送回数で話をまとめられなかった庵野監督が悪いんですけど、人気があったので、『伝説巨神イデオン』のように劇場版が作られたんです。ところが庵野監督は同じ失敗を繰り返したんです。劇場版でもまとめられず、劇場版を二本作ったんです。これにはさすがにファンもあきれましたわ。『納得がいくまで仕事を続けるのがプロか、与えれた条件で最善を尽くすのがプロか?』なんて議論もありましたけど、前者が許されるのは黒澤明やジェイムズ・キャメロン、宮崎駿のレベルで、残念ながら庵野監督はその仲間入りができるとは到底言えませんね。その劇場版も不可解な内容で、ファンの間でも評価が分かれました。私はどちらかと言えば、否定派ですね。二十一世紀には完全リメイクの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』が制作されたんですけど、やっぱり微妙でしたわ。二十年近く前のコンテンツで食っている、当時のアニメ業界の不甲斐なさが目立ちますわ。テレビの深夜放送で作品数が大幅に増えたんですけど、大ヒットと言える作品がないんです。使い古されたネタにペンキで色を塗ったような物ばかりで、粗製濫造としか言いようがありません。まあ、『魔法少女まどか☆マギカ』は佳作と認めていいですけど。話を戻しますが、実は庵野監督は『宇宙戦艦ヤマト』の熱烈なファンなんです。『ふしぎの海のナディア』の第三十六話『万能戦艦ニューノーチラス号』は、ほぼ全部がヤマトネタなんです。ショックカノンの発射音が忠実に再現されていたのには、『ここまでやるか!』と思いましたわ。この他にも『トップをねらえ!』の第五話『お願い!!愛に時間を!』でもヤマトネタが使われているんです。地球防衛庁の緊急対策会議で軍令部次長が『艤装が済んでいない戦艦なんぞ、石の狸だ』と言うんですけど、これ実はヤマトネタなんです。『ヤマト1』の第二話『号砲一発!!宇宙戦艦ヤマト始動』の中で、沖田艦長が意味不明な台詞を言うんです。『補助エンジンが動かぬ我々は「?」だ』って。この台詞は、はっきり聞き取れず、解釈を巡って『イシノタヌキ』か『ヒンシノタヌキ』か、意見が分かれたんですよ。私も観て確認したんですけど、この台詞の間は、沖田艦長の口パクが無いんです。モノローグの可能性もありますが、そもそもこの台詞自体、台本に無かった可能性もあるんです。『宇宙戦艦ヤマト』最大の謎です。それはさておき、『トップをねらえ!』は『石の狸』が使われているわけです。一方、『ふしぎの海のナディア』では、ネモ船長の『万能を誇るこの船も、エンジンが動かなければ瀕死の狸だ』というモノローグが出てくるんです。『トップをねらえ!』のヤマトネタはこれだけではありません。オオタコーチが罹っている架空の病気の宇宙放射線病は、『ヤマト1』の沖田艦長と同じ病気です。エクセリヲンが自沈するシーンも、ヤマトとそっくりです。更にノリコの部屋に『宇宙戦艦ヤマト』のポスターが張ってありました。他にも『となりのトトロ』などのポスターが張ってあり、ノリコがアニメマニアだと分かります。もっとも、私はノリコに負けない自信が有りますけど。でも『トップをねらえ!』はちょっと残念な作品なんですわ。最初は四話が作られたんです。幕間に科学講座があって、ハードSFチックに世界観を説明していたんです。まあ、そこまでは良いですけど、好評で六年後に続きが二話作られたんです。ところがこの二話のストーリーが、科学的に全く間違っているんです。宇宙船や木星をブラックホール化して、周囲の宇宙怪獣を吸い込んで退治するって話なんですけど、重力の大きさは質量だけで決まるので、ブラックホール化しても質量は変わりませんから、ブラックホール化したとたん、周囲の物を吸い込むなんてあり得ないんです。逆にホーキング放射でブラックホールが蒸発しちゃいます。やっぱり庵野監督は詰めが甘いですわ。ちょっと変わった巡り会わせですが、『復活篇』の古代と、『2199』のデスラー総統は、どちらも声優の山寺宏一が演じているんです。意見は割れると思いますけど、正義の熱血漢よりクールな悪役の方が似合うと私は思いますね。ちなみに『ヤマト1』では、古代は伝説の声優・富山敬、デスラーは伊武雅刀という俳優が演じてます。当時の芸名は伊武雅之でした。伊武雅之は声が渋いし、演技もいいんですけど、口パクに合わせてしゃべるのがとにかく下手で、台詞の方に口パクを合わせるという、当時では前代未聞の事件を起こしたんです。なぜか映画の第二作『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』では、地球防衛軍司令長官を演じています。今世紀のボーカロイドの出現と進化で、最近は声優ではなく合成音声が使われることが圧倒的に多いんですけど、実はアニメ番組で合成音声を初めて使ったのは、『宇宙戦艦ヤマト』なんです。ナレーションの背景に『アーアーアアーアーアーアア』というスキャットが流れるんですけど、実はこれ、シンセサイザーの音なんです。一世紀前の電子楽器で作ったというのは驚きですわ。ヤマトと言えば波動砲、波動砲はヤマトの代名詞です。『困ったときの波動砲』なんて言われていますが、『地球人より以前から波動エンジンを使っているはずのガミラスの戦艦が、なぜ波動砲を備えていないのか』なんて疑問がありましたけど、まあ正確に言えば、デスラー専用の戦艦には、『デスラー砲』という名前で装備されていますが、『2199』ではその理由が説明されていましたね。愛と平和の星だと思われていたイスカンダルも、かつては波動砲を使って侵略をしていたという黒歴史があって、波動砲は、今の私たちの核兵器に相当する禁断の兵器になっていたんです。ちょっと無理が有りますけど、この大胆な設定は驚きましたわ。でも『復活篇』では波動砲の六連発が可能になって、バーゲンセール状態ですわ。『ドラゴンボールZ』の戦闘力のインフレーションに似てますね。それが良いか悪いかは、意見が分かれるところでしょうね。あと『2199』では、キャラクターの立ち位置が、『ヤマト1』と結構変わっていましたね。女性クルーが大幅に増えたことばかり注目されていますけど、従来の脇役の違いも見逃せませんわ。やっぱり大きいのは真田志郎ですわ。『ヤマト1』では技師長で、『そうか分かったぞ!』という名台詞がありました。『こんなこともあろうかと』も有名ですけど、実はこちらは都市伝説なんです。一度もこの台詞は言っていないんですよ。『2199』では副長も兼任してます。沖田艦長の次に偉い人に出世しています。『2199』では『そうか分かったぞ!』の名台詞は言っていませんわ。『ヤマト1』では、航海の途中で病状が悪化した沖田艦長が、古代を艦長代理に任命していますけど、ナンバー2が決まっている『2199』では、そのシーンは当然ありません。でも残念なことに、副長としては無能ですわ。第十三話『異次元の狼』と第十五話『帰還限界点』では敵の罠に引っかかりましたから。でも、もっとも重要な点は、古代の兄、古代守の親友という設定です。回想シーンでは、『ヤマト1』でほとんど登場しなかった古代守の人柄がうかがえます。『2199』のオリキャラで、真田の後輩である新見薫が古代守の元恋人という設定で、三人の微妙な関係が描かれています。脇役の脇役ですけど、義一くんも見逃せませんわ。ほら、通信担当の相原義一ですよ。『ヤマト1』の第十九話『宇宙の望郷!!母の涙は我が涙』では主役をはっていましたけど、まあヘタレな主役ですけど、『2199』では見せ場がほとんどありませんでしたね。逆に出世したのは、砲術長の南部康雄ですわ。出番が大幅に増えて、第十三話『異次元の狼』と第二十話『七色の陽のもとに』では、ショックカノンでのピンポイント射撃を初弾で当てていますし、第二十三話『たった一人の戦争』では古代が森雪を助けに行くため、ユリーシャを連れてコスモ・ゼロで出撃したとき、古代の代わりに波動砲を発射しました。財閥の御曹司という裏設定まで公表されちゃいましたから。でも森雪に片思いして失恋する道化役ですけどね。でも道化といえば、あの男で決まりでしょう。『ヤマト1』の第十一話『決断!!ガミラス絶対防衛線突入!!』で、『総統も相当冗談がお好きで』という親父ギャグを言って、デスラーに落とし穴に落とされた男です。『決断!!ガミラス絶対防衛線突入!!』ではデスラー機雷が登場しますが、『2199』では登場しないんです。そこでヤマトがガス生命体から逃げるために、恒星の表面すれすれを飛ぶ、第八話『星に願いを』にシーンを移しています。『ヤマト1』の第十二話『絶体絶命!!オリオンの願い星、地獄星』に相当する回です。デスラーの『ガミラスに下品な男は要らない』は、沖田提督の『馬鹿め』に匹敵するヤマト屈指の名台詞です。やっぱりアレは欠かせませんわ。でも『絶体絶命!!オリオンの願い星、地獄星』のデスラーの『ヒス将軍、君は馬鹿かね』も惜しかったですわ。主役クラスで一番大きかったのは森雪ですね。『2199』の後半は、『ヤマト1』と大幅にストーリーが変わっていますから、当然、いや必然ですね。科学設定の変更も興味深いですよ。マゼラン星雲の距離が十四万八千光年から、定説の十六万八千光年に変わってますし、天の川銀河も渦銀河から腕銀河になってます。ヤマト艦内がなぜ無重量空間ではないのかも、慣性制御で説明しています。慣性制御ができるくらいですから、重力制御もできます。第十八話『昏き光を越えて』では、重力アンカーを使ってヤマトの位置を固定して波動砲を発射し、途中で重力アンカーを解除して波動砲の放射による反作用で後ろ向きに移動していました。私たちはようやくこのレベルに達したわけです。その舞台となったバラン星は、自然の天体ではなく、太古に絶滅した異星人が銀河間航行のために造ったワープゲートという設定に変わっていましたね。ヤマトは波動砲でバラン星を破壊して、その反作用でワープゲートに飛び込み、一万隻のガミラス艦を置き去りにして、一気に九千光年も引き離しました。圧倒的な戦力差を埋める手段としては、なかなかよくできたプロットですわ。戦闘シーンで最も盛り上がるのは、ドメル将軍率いる空母機動部隊との決戦です。『ヤマト1』なら第二十二話『決戦!!七色星団の攻防戦!!』、『2199』なら第二十話『七色の陽のもとに』です。太平洋戦争で、戦艦大和が米空母機動部隊と戦って沈没した史実を彷彿とさせるシチュエーションです。太平洋戦争のリベンジというわけです。ドメル将軍は強いですわ。『ヤマト1』の第二十話『バラン星に太陽が落下する日!!』では部下の密告で、『2199』の第十五話『帰還限界点』では撤退命令という妨害でヤマトを仕留めそこなったんです。決戦でもヤマトを絶体絶命の状況まで追い詰めたんですけど、ヤマトにとどめを刺そうとして、空母の艦隊に突撃命令を出すという勇み足で自滅しました。ドメルが乗った船がヤマトの第三艦橋に取り付いて自爆したんですけど、『ヤマト1』と『2199』では、結果がちょっと違うんです。『ヤマト1』では第三艦橋は完全に破壊されたんですけど、『2199』ではオリジナル設定の波動障壁のおかげで破壊されずに済んだんです。ヤマトの第三艦橋は『究極の3K職場』なんて言われたんですよ。第三艦橋は潜水艦になったときに使われる戦闘指揮所なんですけど、冥王星の海に沈んだときに使われただけで、それ以外では使われませんでした。『ヤマト1』では、やられるときは真っ先に破壊されるんです。『2199』では出番は変わらなかったんですけど、一度も破壊されなかったんです。ここら辺からは『2199』の製作者の心情がうかがえますわ。……」
さて、何人の方がここまで読めたでしょうか? 川端のうんざり感を追体験してもらいました。
実は松本零士先生の『宇宙戦艦ヤマト』は電子書籍で復刻されていました。