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第五話 「決戦、ファー・サイド・ムーンの攻防戦!(中編)」

 アメリカの軍人たちは、我が目を疑った。転進するはずのやまとが、デブリの中に突っ込んで行った。


「日本人はクレージーだ!」

「これがバンザイ攻撃(アタック)というやつか?」

「いや、トッコーだろ」


 彼らは全員、やまとが穴だらけになって、爆発すると思っていた。だから誰も手を出さなかった。後の歴史家たちは、これを米艦隊の痛恨の極みと指摘する。

 やまとは爆発せず、デブリの雲を突き抜けた。米軍はその事実と、やまとの姿に驚いた。やまとと衝突したデブリは、やまとの外殻に穴を開けず、張り付いていた。やまとの艦体は、無数のデブリで覆われていた。

 驚いたのは米軍だけではなかった。


『デブリ層を脱出しました。反重力フィールドを解除、通常航行に戻ります』


 川端はAIの報告を理解できなかった。鷹野に説明を求めた。


「一体何をしたのだ?」

「反重力フィールドを低いレベルで展開し、デブリの速度を落としました。外殻に内蔵した電磁石で、それらを外殻に張り付かせました」

「電磁石だと? 聞いてないぞ!」

「今は議論をする余裕はありません」


 通常航行に戻ったやまとをAIは転進させた。その方向に川端は疑問を持った。


「方向が逆だぞ。旗艦のスターウルフは単縦陣の先頭だぞ。最後尾に向かっているではないか?」


 分厚いレンズのせいで、鷹野の目の表情は分からなかった。だが口元が少し歪んだ。それは獲物を目の前にして、舌なめずりをする狼を連想させた。


「スターウルフ? そんな小物はどうでもよいでしょう。向かっているのは最後尾ではありません。『敵は本能寺にあり』。がら空きになった本能寺を攻めます。ルナ2を攻略します!」


 川端はまた絶句した。

 米軍は慌てた。まさかルナ2が攻撃されるとは、誰も予想していなかった。ルナ2のウィトン基地司令は迎撃命令を出した。ルナ2防空隊の戦闘機、スターファイター2に緊急出撃命令(スクランブル)が下った。ルナ2が保有するスターファイター2の全て、六機が対艦ミサイルを抱えて宇宙港から発進した。

 やまとのAIがこれに気づいた。


『ルナ2から小型宇宙船のものと思われるロケットエンジンの熱源が六機発進しました。レーダーの反応は微弱、スターファイター2C型と思われます。熱源はやまとの包囲を試みています』


「好きにさせなさい。照準波を検出したら全方位攻撃(バラージ)よ。全機を一撃で墜とすわよ」


『アイ、コピー』


 鷹野は再びヘッドセットのマイクのスイッチをオンにした。


「アメリカ合衆国航空宇宙軍ルナ2基地へ。こちらは日本宇宙自衛隊所属、護衛艦やまと。現在複数のテロリストの宇宙船と交戦中。国際宇宙条約第二〇三条第三項にもとづき、応援を要請する。繰り返す、応援を要請する」


 今度はアメリカの軍人たちは笑わず、戸惑った。交戦相手が自分たちだと分かっているはずなのに、その相手に援軍を求める。明らかに矛盾した行為だ。ウィトン基地司令はこの要請を無視するように命じた。

 スターファイター2のパイロットたちは油断していた。やまとが何の反応も示さなかったので、ステルス性能が高い乗機に気づいていないと思い込んでいた。


「サファイアリーダーよりサファイア飛行中隊(スコードロン)へ。攻撃(アタック)を開始する」

『『『『『アイ、コピー』』』』』


 六機のスターファイター2がやまとをロックオンしようとした瞬間、予想できなかった事が起きた。やまとに張り付いていた無数のデブリが、秒速十キロの高速で自分たちに向かってきた。回避は不可能だった。デブリとの衝突で穴だらけになったスターファイター2たちは、自分の推進剤と、対艦ミサイルの爆薬で爆発した。

 やまとは電磁石の電源を切って、反重力フィールドを最大出力で展開した。その結果、やまとに張り付いていたデブリは、同時にあらゆる方向に、高速で飛散した。


「あーはっはっはっは! 見たか。これがアステロイド・ベルト防御ならぬデブリ防御だ!」


 CICで両手を腰に当て、仁王立ちして勝ち誇る鷹野を、誰も止めることができなかった。


「防空隊全滅!」


 ルナ2基地の将兵は震撼した。もはや自分たちを守るものは無いと思ったからだ。だが神は、まだルナ2を見捨てていなかった。

 やまとのAIが警告を発した。


『警告、後方より戦闘艦が高速で接近。エンタープライズと思われます』


 鷹野は舌打ちした。


「ちっ、トレッキーのおでましか。ルナ2は後回しよ。ヤマトの愛と正義を教育してやるわ! AI、ケースグリーンを実行」

『アイ、コピー』


 エンタープライズのスチュワート艦長は冷静だった。


「驚いたな。トッコーではなくトーゴーターンとは。やまとの艦長はどんなやつだ?」


 川端は米軍から過大評価されたようだ。過大評価したスチュワート艦長は、ルナ2、やまと、エンタープライズの相対位置に細心の注意を払った。


「この射線なら大丈夫だ。外れてもルナ2の急所に当たらない。主砲一斉射」


 エンタープライズに搭載された電磁投射砲(レールガン)四門が火を噴いた。それと同時にやまとは回避運動を始めた。砲弾はやまとに当たらずルナ2に当たったが、ルナ2に無害なクレーターを掘っただけで済んだ。


「データー通りに加速が良いな。艦長だけでなく艦も良い。やまと、侮りがたし! やまとを追撃するぞ。友軍の火線上に誘き出すぞ」


 エンタープライズはやまとを追撃した。当たらないのを承知で、電磁投射砲(レールガン)を撃った。やまとをけん制し、進路を妨害した。やまとを友軍の艦が攻撃できる位置に追い詰めようとした。いくらやまとが高加速でも、合計二十八門の電磁投射砲(レールガン)に撃たれたら、かわしきれない。最初の作戦ではレーダーが使えないデブリ越しの射撃をするつもりだったが、今ならレーダーが使える。防空隊を失ったのは誤算だったが、作戦の目的は達成できる。スチュワート艦長は勝利を確信した。

 そこに落とし穴が待っていた。

 砲弾をかわすばかりだったやまとが、急に進路を変えた。撃たれるのを覚悟しての転進だった。やまとがこちらの意図に気づいた、スチュワート艦長はそう考えた。遠慮なく主砲全門の一斉射を命じた。四発の砲弾がやまとを襲った。その中の一発がやまとに当たった。やまとにダメージを与えた。そう思った。


「砲弾が跳ね返されました!」

「何だと!」


 スチュワート艦長は観測士の報告が信じられなかった。電磁投射砲(レールガン)の砲弾を跳ね返せる装甲など存在しなかった。少なくとも、その存在は知られていなかった。


 やまとのCICで、鷹野は尻餅をついた。重力制御は慣性制御ではない。自由落下以外の衝撃が加われば、艦内に伝わる。鷹野は立ち上がりながら、やまと級二番艦のむさしには、艦内に加速度センサーを取り付けて、衝撃を重力制御で相殺するシステムを加えようと考えた。立ち上がった鷹野は、尻をさすりながら、高笑いをした。


「あーはっはっはっは! 見たか、トレッキー。これぞ空間磁力メッキならぬ反重力アクティブアーマーだ!」


 もはや見物客になっていた川端が、恐るおそる質問した。


「あの、今の砲弾はどうやって跳ね返したのでしょうか?」


 いつの間にか敬語を使っていた。


「反重力フィールドを使って砲弾の速度と向きを変えたのよ。浅い角度で命中した砲弾は、高速でなければ、特殊な表面加工を施した厚い装甲で跳ね返すことができるの。やまとの外殻が凹んだけど、貫通はさせなかったわ」


 やまとの外形は避弾経始を考えて設計されていた。これを見ても、鷹野が最初から反重力アクティブアーマーを考えていた事が分かる設計だった。


「でも強力な反重力が必要だから、ピンポイントでしか防御できないのが欠点ね。ポイントは移動できるようにしてあるけど、二発同時に当たっていたら危なかったわ。ピンポイントバリアーならぬピンポイントアーマーよ。まだまだセコイわ」

「はあ、でも素晴らしい発明ですね」


 もはや川端は、鷹野に頼ることしかできなくなっていた。


「さあ、代償(ペナルティ)は払ったわ。今度はこちらのターンよ」


 やまとは軌道を変えた。その速度が落ちた。


 スチュワート艦長は気を取り直した。条件がよければ装甲を貫通できる可能性はある。やまとが速度を落としたのを見て、発射を命じた。


「第一主砲、発射」


 そう命じた直後、重大な事に気づいた。


「駄目です。射線上にロサンゼルスがいます」


 砲手がそれを代弁した。

トーゴーターンとは?


 一九〇五年、日本海海戦において聯合艦隊が行った敵前回頭のこと。外国の海軍では聯合艦隊の指揮をとった東郷長官の名前を取って「トーゴーターン」と呼ぶ。

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