苦難の道
「それじゃあ言うぞ。その代わり・・・、その刀をくれ」
「はい?」
「今回のこの洞窟に止めてやる代わりにその刀をくれ」
「そんなことでいいの?」
「なに言ってるんだ。その刀、かなり高価なものだぞ」
「こんなものでいいなら、はい」
秀就はその男に刀を渡してしまいました。
「よし、交渉成立だ。今日はここで泊れ」
「ありがとうございます。添い上羽、貴方の名前は?」
「俺か。俺は宮本武蔵っていうんだ」
「武蔵さんですか。よろしくお願いします」
「お前らの名前は?」
「僕は宮﨑梅千代で」
「僕は毛利秀就」
「毛利?毛利って、あの毛利か?」
「どの毛利?」
「ほー。だからこんな高価な刀を・・・」
「なにこそこそ言っているんですか」
「なんでもないよ。さっさと寝ろ」
こうして二人は、宮本武蔵という男と、一夜を過ごしたのだった。
「武蔵さん、ありがとうございました」
「いいってことよ。こんな高価な刀も手に入れられたんだしな」
「それでは」
二人は宮本武蔵と別れ、どんどん森を進んでいく。
「郡山城までどれぐらいかなぁ」
「昨日、川を渡ったからかなり近づいているはずなんだけど・・・」
二人は森を抜け、山を登ることになった。
最初は緩やかだったが、徐々に傾斜が急になってきた。
「梅千代ー」
「秀就、お、落ちるんじゃないぞ。落ちたらひとたまりもないぞ」
「わかってるって、梅千代こそ、落ちるなよ」
二人は励まし合いながら山を登って行く。
その頃、広島城では・・・
「そっちにいたか?」
「いえ、いません」
「いったいどこに行ったんだ」
「城外も探してみますか」
「いや、城門には門番もいるか城の外には出られないだろ」
「だが子供の体なら城を抜け出せるかも・・・」
「・・・。城外も探せー」
広島城のことなんかすっかり忘れている二人は
山をどんどん登って行く。
「梅千代、あとでどれぐらい?」
「そんなの分からな・・・」
梅千代が返答していると、梅千代が歩いているところが滑落し、
梅千代も山を転がって行ってしまった。
「梅千代ー」
秀就は梅千代を追って山を駆け下りていく。
その秀就も転がって行き、山を落ちて行った。
「う、うー。はっ、ここは?
あれ、秀就?秀就ー、秀就ー。どこにいるの」
その頃、秀就は梅千代の居るところから少し離れた場所にいた。
「「秀就ー、秀就ー」」
「あっ、梅千代の声だ。おーい、梅千代ー」
「あっ、秀就だ。秀就ー」
「梅千代ー」
二人はなんとか合流できたのである。
「それでも、またここを登るのか」
「結構大変だから、また登るのは嫌だなー」
「でも登らないと・・・」
その頃毛利家の家臣たちは・・・
「えっ、子供を二人乗せたんですか」
「ああ、木材を送ってる途中に乗せてくれっていうんで、
川の途中まで送って行ってやったよ」
「ありがとうございます。やっぱり城外に出てたんだよ。
若、絶対に捕まえますからね」
毛利家の家臣たちが着々と秀就たちに近づいている中、
二人はまた山を登り始めていた。
「はー、はー。梅千代、もう夜だよ。どこかで寝ようよ」
「どこかでって、寝られそうな場所なんてどこにもないじゃん」
「そうだけど」
「もうちょっと頑張ろう」
「わかった」
二人が山を登っていくと、梅千代が滑落した地点に到着した。
「梅千代、ここ、通れないよ。どうする?」
「どうしよう。飛び越えていく?」
「飛び越えるって!」
「僕が先に飛び越えるから秀就はあとで飛び越えて、
僕が支えてあげるから」
「うん、分かった」
話がまとまると、まず梅千代が滑落した部分を飛び越える。
「さあ、秀就、こい」
秀就も覚悟を決めて飛び越える。
秀就も無事、着地成功した。
「秀就、できるじゃん」
「梅千代、早くいこ」
このことで一層友情が強まった二人だった。