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後悔と感謝

遅くなりました(>_<)

私は今、ものすごく、後悔している……




何をって?それは私の今の姿を見てもらえれば分かって貰えるはず。

右手にボックスティッシュと日用品、左手にトイレットペーパーと食材。

通勤用の鞄を手に持つ余裕などどこにもなくて、今は左肩に掛けられている。


つまり、調子に乗って買いすぎた。この一言に尽きる。



イケメン青年との思わぬ邂逅による浮かれ気分は、買い物終了後、荷物を袋に詰め終わった時点で無情にも霧散した。


特売の文字に躍らされて、確かにここぞとばかりに買い込んでしまった感は否めないけど。

それにしても買いすぎでしょうよ、とあれこれカゴに詰め込んだほんの十数分前の自分を罵ってやりたい!!いや、もういっそレジに並ぶ直前の数分前の自分でもいい!!


生鮮食料品を取り扱う観点から、ある程度過ごしやすい気温に設定されていたスーパーを1歩出れば、そこは当然温度調整などされているはずもない場所で。

久方ぶりに顔を出した太陽のお陰で、この時間帯でも体感気温はそれなりに高い。



せめて曇りだったら良かったのに……

病院を出た時に感じた太陽への親しみは既に若干の疎ましさへと変貌を遂げつつあった。



うぅ~暑いし重いし!!

文句を言ったところで自業自得。どうしようもないことは分かっているんだけど、それでも悪態をつかずにはいられない。


とはいえ、先に進まなきゃこの苦行が終わりを告げることもない以上、歩くしかないんだけどさ。

今の姿を憂有紀に見られたら、パッチリ二重の瞳に楽しそうな色を浮かべて「あら?行商人にでも職替えするの?」って絶対言われる自信がある!!




「はぁ…」




その光景をまざまざと脳裏に思い浮かべて、思わず小さなため息が一つこぼれる。



重い。重いけど、仕方ないからこれも両腕の筋肉強化の訓練の一種と割り切って、さくさく歩こう!!

自分の計画性のなさにどっぷり後悔の念に浸っていた気分をなんとか浮上させて、1分でも1秒でも早くこの暑さと重さから逃れられるよう気合を入れ直す。




「あれ?さっきの…?」





ふいに後ろから聞こえてきた覚えのある声に、「うん?」と思いながら振り返ると、案の定そこには先ほどスーパーで秋刀魚を分け合ったイケメン青年が、イケメンの名に恥じない爽やかさで立っていた。




「あれ?君さっきの?」


「はい。今夜の晩飯のおかずも無事手に入れることが出来たし、今から帰るところなんです。」





右手に提げられた買い物袋をひょいと持ち上げて見せると、にっこりと微笑む。





「そうなんだ。奇遇ね、私も今ちょうど買い物を終えたところだったの。」





青年のように荷物をひょいと持ち上げることは到底出来そうにないから、視線を手元に落とすだけにとどめる。




「すごい荷物ですね。……まさか、歩いて帰るんですか?」




両腕にぶら下がっている戦利品の数々に目を見張りながら、驚いたように尋ねてくる。

―――やっぱり、そういう反応になるよねぇ


先ほど自分自身に対して行っていた罵りはどうやら第三者から見ても至極全うな評価のようだ。

改めて突きつけられた現実に苦笑を禁じえない。





「そうなの。さすがに買いすぎたってちょっと反省してたところ。」




ため息交じりの言葉に青年もちょっと苦笑する。

う~ん、イケメンはどんな表情でも様になるなぁ……今現在の荒んだ心には何よりの特効薬だ




「家はここから近いんですか?」


「う~ん、歩いて10分かからない位かな。ま、考え無しに買い物しまくった自業自得だからね(笑)反省しながら帰ろうかと。」


「あの、もし良ければ途中まで荷物持ちますよ?方角一緒みたいだし、家帰るついでなので。」




―――えっ!!まじですか!?


この行商人風腕力強化訓練から助け出してくださると!?

いやいやいや、待て。落ち着け自分。いわゆる「社交辞令」かもしれん。ぬか喜びは更なるダメージを受けるから、ちゃんとその辺確認しなきゃ。




「でも、悪いし……」


「そんなことないですよ。大きなお世話じゃなければ」


「結構重いよ?」


「こう見えても、男なんで。その位なら何てことないですよ」




な・ん・ていい人なんだ!!イケメン青年よ!!見た目だけじゃなくて内面までイケメンだなんて!!

ここまで確認すれば、この提案が「社交辞令」ではなく純粋な申し出であることが分かる。

そうと決まれば……



「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいかな?」



やっぱりやーめた、なんて言われない様にあくまでも殊勝な態度を崩さないよう(うぅ、打算的でゴメンナサイ!)そう言うと、イケメン青年は「それじゃあ」と重量のある日用品と食料品の袋を持ってくれる。



なんて心遣い!!

重い荷物の全てを引き受けてくれるなんて、なんて出来た子なんだろう。

年齢を重ねる毎に、そういう優しさに触れる機会が減ってきているせいか、その気遣いが心に染みる。


ありがとう、とお礼を言うとにこっとさわやか笑顔が返されて。

それだけでさっきまで低空飛行だった気分が急上昇していくのが分かるんだから、やっぱり私ってば単純だなぁと心の中で苦笑して、肩を並べて歩き始める。




「そう言えば、まだ名前も言ってないですよね?俺、圭吾って言います。片平圭吾。」


「片平君ね。高郷亜季です。よろしくね。」


「たかさとって高いに里山の里ですか?」


「ううん、高いに故郷の郷、で高郷。亜季は亜細亜の亜に季節の季ね。けいご君はどんな字?」


「土二つの圭に漢数字の五に口で圭吾です。」




ここにきてようやくお互いに名乗り合い、他愛もない会話を続ける。



片平圭吾君は22歳(なんて若い!!!)のS大経済学部の4年生。

S大といえば私の職場である病院のすぐそば。なんと徒歩10分の位置にある。すごい偶然。


私も病院で医療事務として働いていることや、よくスーパー丸八に買い物に来ることについては話したけど……年齢についてはあえて触れませんでしたとも、ええ。



その他にも職場の近くのおすすめのカフェとか、美味しいお弁当屋さんの話とか。

気がつくと食べ物の話ばかりしてる気もするけど……人間関係の基本その1「まずはあたり障りのない会話から」の三大テーマといえば「天気・食べ物・趣味」で決まりでしょ?まぁ、最後の趣味は他の二つに比べるとちょっとだけハードルが高いけど(笑)



そうこうするうちにスーパーを出た時には果てしなく遠く感じられた我が家に、気がつけば辿り着いてて。思った以上に片平君との会話を楽しんでいた自分に改めて気づかされる。



「あ、片平君ありがとう。うち、ここなの。」



足を止めて呼び止めると2階建てアパートを指してみせる。




「へぇ、亜季さんここに住んでるんだ。うちとすごく近い。俺んちはもう少し先に行ったグレーの壁のアパートなんだけど。知ってる?」


「グレー…あぁ!交差点の少し手前にあるアパート?」


「そうそう。そこの3階」


「へぇ、ほんとに近いのね。でもお陰で助かりました。結局最後まで荷物持たせちゃってごめんね。ありがとうございました。」




人間関係の基本その2。「挨拶はしっかりと」に基づいて、きちんとお辞儀をしながら感謝の気持ちを伝える。



「どういたしまして。俺のほうこそ亜季さんと色々話せて楽しかったし。なんだか得した気分かな。」



相変わらず眩しい位の笑顔で最後まで優しく気遣ってくれる。

うぅ~ん、見事だ。外見がこれだけイケメンで、性格まで素晴らしいなんてきっと女の子達からすごくもてるんだろうな、なんてまるで近所の噂好きなおばさん的感覚になってしまう自分が悲しい。



「あ、ちょっと待ってね。」



アパート前にある自販機まで走ると、少しだけ迷ってからスポーツドリンクを購入する。



「はい、これ。たいした御礼も出来なくて申し訳ないけど、暑い中重い荷物持ってもらっちゃったし。のど渇いたでしょう?嫌いじゃなかったらどうぞ。」



冷たく冷えてるスポーツドリンクを差し出すと嬉しそうに受け取ってくれる。



「遠慮なくいただきます。学校出てから何も飲んでなかったから、ありがとうございます。それじゃ、また。」



ぺこりとお辞儀して去っていく後姿に、なんだか楽しい気持ちになる。

就職してからの人間関係は、せいぜいが職場関係者。それ以外の、まして自分より6歳も年下の子との出会いなんて相手が男にしろ女にしろ早々ない。


そう、なんて言うか、久しぶりに広がった人間関係の相手が片平君のような気持ちの良い子というのは、ちょっと贅沢すぎやしないかと、そう思えてしまう。


うん、やっぱり贅沢だ。


でも、倹約家を自称する私でもこんな贅沢なら悪くないなと素直に嬉しい。


今どきの若者は、なんて眉をひそめたり呆れたりで言われる事が多いけど、片平君に会って「今どきの若者」も捨てたもんじゃないなと心から思う。


ま、もしかしたらこれきりかもしれないけど(笑)


―――今日のこの出会いを、もしかしたら、実はいるのかもしれない神様にちょっとだけ感謝してみた。

ちょっと予定が目白押しで…なかなか時間が取れず遅くなりました(>_<)待っていてくださった方(いるのかな ^_^; ) お待たせしました!!少しでも楽しんで頂けたら幸いです♪

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