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first contact

なんとか登場させることができました(汗)

チャラリラリィ~~~♪


耳に馴染んだ、終業を告げる電子メロディーが聞こえくる。

思わず時計を見ると、流れてくるメロディーが幻聴ではない証拠に、短針が5を指していた。


「うぅ~ん」


―――今日も一日無事終了っと


凝り固まった筋肉を解す様に伸びをすると、パソコンの電源を落とし早速帰り支度を始める。


憂有紀には悪いけど、事務職の素晴らしいところはほぼ残業無しで帰宅できるってとこよね。勿論その分はお給料として差が出てくるわけだけど……。

残業代だって大した額にならない以上、さっさと帰って部屋でゆっくり自分の時間を過ごした方が断然いい!!


「今日出来ることは今日のうちにやる」のは勤務時間内だけ。終業の合図とともに思考が「明日出来ることは明日やる」に自動的に切り替わってしまうんだから、仕方ない、うん。

もちろん、時間内はその分一生懸命働かせていただきますヨ、必要に迫られれば残業だって。


ただ、可能な限り残業はしないというのが私の基本姿勢。人件費削減にも大いに貢献していることだし、とりあえずは現状維持でなんの問題もない。


周囲の同僚達も着々と帰り支度を進める中、パソコンの電源が完全に落ちたのを確認してから席を立つ。



「お先に失礼しま~す。」



既に条件反射のようになっているお決まりのセリフを口に出すと、あちらこちらから「おつかれ~」の声が飛ぶ。その声に背中を押されながら「お疲れ様でした」と再度口に出すと、今度こそ部屋を後にした。



ま、急いで部屋に帰ったところで誰かがいるわけじゃ無し、特に趣味らしい趣味もない以上焦って帰らなくちゃいけない理由はこれっぽっちもないんだけどね



(今日は帰ったら何しようかなぁ…。あ、でもその前にスーパー寄ってかないと。今日確か何かの特売 やってたはずだし。)



新聞の折込チラシの「特売!!」の文字を思い浮かべながら、ざっとこの後の予定を立てる。

―――よし、とりあえずスーパーね。



腕時計で確認すると時刻は17時30分を少し過ぎたところ。主婦業を生業とする皆様方による夕食材料獲得ラッシュは落ち着きを見せ、勤め人による第2次ラッシュにはまだ早い。

よし、この時間なら混雑には巻き込まれずに済むかな。レジ前に形成される長蛇の列をみて「買い物はまた次回にしよう、うん」なんて回避行動をついとってしまうのは、私だけじゃないはず!


外に出ると最近では珍しく、太陽がやんわりと輝いている。ここのところ雨ばかりで多少うんざりしていただけに、久しぶりに感じる陽気に顔が自然と綻ぶ。






職場から自宅までは電車で一駅。

朝のラッシュは避けようがないけど、帰りは乗り込む人もまばらだから大抵ゆっくりと椅子に腰掛けることが出来る。「一駅なのに座るのか!?」という突っ込みは断じて受け付けませんとも!!えぇ。

たった一駅、されど一駅。

一日座りっぱなしで浮腫んだ足にはこの一駅が辛いのですよ。たとえそれが時間にしてわずか5,6分の距離であったとしてもね。同じ状況の人なら分かってくれるはず!!一日働いた身体は優しく労わってあげないと。せめて自分だけでもね。断じて年のせいではないですよ。労りです。思いやりの心です!






駅から自宅までは基本的には徒歩通勤で、だいたい10~15分位かな?

春秋はのんびり歩きながらの通勤もいいんだけど、夏冬はちょっと厳しい。


特に夏ね!!

15分もギンギラと照りつける太陽の下歩いていたら、まあ、汗だくになるのは当たり前で。

―――やっぱり自転車を購入すべき?でもなぁ、ただでさえ動かないんだから毎日の往復徒歩通勤さえなくなったら、私の基礎体力&代謝がどうなってしまうのか……最近身体のラインが緩やかになってきているだけに……やめよう、恐ろしすぎる



そんなこんなで、これも健康の為と割り切って、とりあえずは苦行(?)を続けているというわけ。








目指すスーパーはそんな駅と自宅の大体中間地点に位置している。

その名も「スーパー丸八」!

全国展開しているようなメジャーなスーパーではないけど、細々ながらもしっかりと地元に根付いている地域限定スーパー。

―――というか、この一店舗しか私も知らないんだけど(笑)



それでも、一人暮らしを始めて以来常連となっているこの店に、いつの間にか愛着を感じてしまっている。今となっては、私の日常生活は「スーパー丸八」に支えられていると言っても過言ではないほどには。






店内は歩いて火照った身体にはちょうど良い位の温度。ひんやりとした空気が肌を撫でていく感触に少しほっとする。



入り口付近には特売の目玉商品の1つ、トイレットペーパーやボックスティッシュが山と積まれていた。勿論今日はこれも買う予定。ただ持ち歩くのは邪魔だからレジに並ぶ前、最後に取りにこよう、うん。


節約のためにカートは使わず、カゴ一つぶら下げて歩く。

切れかけていた調味料、新発売になっているお菓子(必要なのかって?必要です!!)。そうそう、洗濯用の洗剤も買っておいた方がいいかな。




あれこれと店内を見て歩くと生鮮食品売り場で「冷凍さんま 一匹48円!!」の文字を発見!!

―――48円!!?安っ!


季節的にも去年の秋刀魚の冷凍物かなとは思うけど、48円は安い。せっかくだから今晩の夕飯は秋刀魚にしよう。


さすがに48円は安いのか、ブースにはパックが残り一つ。

慌ててゲットするものの……


―――さすがに4匹はちょっと多いなぁ…どうしよう。


一人暮らしに同じ魚4匹はちょっと多すぎる。4連ちゃんで秋刀魚はさすがに飽きてしまうだろうし。

冷凍保存しておくにも、一人用の小さな冷蔵庫に3匹の秋刀魚を収納するのは困難だ。


う~ん、う~んと一人手にしたパックを眺めていると



「あの、それ、やっぱり買いますよね?」



不意に後ろから声をかけられて驚いて振り返る。


(おぉ、イケメン君だ)


目の前に立っていたのは、明らかに年下と分かる青年。

白地に紺と水色のラインが入ったポロシャツに、ジーンズ姿というラフな出で立ちでも、思わずそう思う程度には目の前の青年は整った容姿をしていた。


一見細身に見えるラインにもしっかりと筋肉が付いているのが分かる。

う~ん、腕の筋なんかちょっとドキッとしてしまう。


目は切れ長の二重。右目のすぐ下には泣き黒子まで完備されている。なんという威力!!

髪はサラサラのストレート。染めてはいなさそうだけど、黒というよりは少し明るめだ。


思わず上から下まで眺めて目の保養をしていると、青年はどこか戸惑ったように再度同じ質問を繰り返した。


「あ、あぁ。ごめんなさい。最近君みたいないわゆる「イケメン」を目にする機会がなかったから、思わずガン見しちゃった。気を悪くしていたら本当にごめんなさい。」


本人目の前にして何言っちゃってんの!!?言わなくてもいいことまで、ぺらぺらと勝手に口走るこの口は!!本当に躾がなっていない!

一人ワタワタとしていると、私の言葉にちょっと驚いたように目を見張った後、ふんわり優しく微笑んで、「気にしなくていいですよ」と青年は宣った。


「面と向かって「イケメン」なんて、そうそう言われないので、ちょっとびっくりしました。怒ってるとかじゃないんで、気にしないで下さい。……ところで、やっぱりその秋刀魚、買いますよね?」


視線を私の右手に向けると、ちょっと残念そうに再再度確認してくる。



「そう、ね。買おうと思っているんだけど……。」



つられて右手の秋刀魚に視線を向けると、ちょっとがっかりしたように「ですよね。」と青年が呟く。―――お、ちょっと待てよ?もし彼が必要とする数が3匹以下なら……


「ちなみにそう聞くって事は君も秋刀魚が欲しいって事でいいんだよね?差し支えなければ何匹必要か聞いてもいい?」


「え?えぇっと、買えるなら3匹欲しかったんですけど。」


―――ビンゴ!!


「ちょうど良かった。私も欲しいのは1匹だけだったから、4匹は多すぎてちょっとどうしようか迷ってたところだったの。もしよければ、3匹引き取ってもらえない?」


「いいんですか!?そうしていただけると助かります。」


「オッケー。じゃ、ちょっと待ってね。」


私の提案を嬉しそうに快諾してくれた青年に、早速お店の人を捕まえてパックの中身を1匹と3匹に分けてもらう。



「はい。じゃあ、これね。」



3匹入りのパックを青年に渡すと「ありがとうございます」と丁寧にお礼を返されて、ちょっとくすぐったい気分になる。


いまどきの若者にしては、しっかりしてるなぁなんてしみじみと感じながら「どういたしまして。それじゃ」とその場を離れた。





3匹の秋刀魚も無駄にすることなく、必要とする人の下へ行くことが出来たし。私も必要分の1匹だけゲット出来て、その分金額も浮いたし。イケメン青年で眼の保養まで出来た上に、礼儀正しい良い子だったし。良い事尽くし。良かった良かった♪




トイレットペーパーとボックスティッシュを一袋ずつ手に取ると、色々と得した気分でレジに並ぶ。



今日は良い一日だ。

なんて、上機嫌になってしまう私は、結構お手軽人間なのかもしれない。

秋刀魚の数え方…調べてみると「本」が正しそうなんですが、ここはあえて「匹」で統一しました(笑)

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