~ Keigo Side ~「対決」
久しぶりの投稿です(汗)
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです( 〃▽〃)♪
亜季さんへの気持ちを自覚したあの日から
俺は可能な限り亜季さんとの接点を求めた
既に社会に出て働いている亜季さんの周りにはきっと沢山の「格好良い男」達がいて
もしかしたら今この瞬間にも……なんていう想像はするだけで焦りと苛立ちを生じさせる
それでも学生でしかない今の自分が出来ることは限られていて
どんなに歯がゆくとも
今はその「出来ること」を精一杯やっていくしかないのだからと自分自身に言い聞かせる毎日
少しでも彼女の中に自分の居場所を作りたくて
気かつくと彼女の姿を探している
行き帰りの電車の中
亜季さんと初めて出会ったスーパーでの買い物
家路に着くまでのわずかな時間
とにかく「俺」という存在が彼女の傍らにあることが自然なことなのだと
隣に居るのはいつだって「俺」で、それが彼女にとっての当たり前になるように
わずかな時間でも惜しむことなく彼女を見つけては、可能な限り彼女の傍に居続けた
そんな自分でも驚くほどの独占欲に内心苦笑を禁じえないけど
でも、なりふり構わずがむしゃらに頑張る自分自身に
亜季さんが失えない人なのだと改めて感じさせられる
それに最近は少しずつ「主夫友」の領域からは抜け出せてきているんじゃないかな、なんて
そんな風に感じる瞬間があって
―――それがたまらなく嬉しい
熱が下がってからしばらくは全く姿を見ることが出来ずに
もしかして風邪をうつしてしまったんじゃ、なんてかなりハラハラしていたけど
久しぶりに会った亜季さんはちょっと疲れ気味だったけど、
俺を見つけて一瞬驚いたような表情を見せた後、嬉しそうに笑ってくれた
亜季さんが笑顔を見せてくれる、ただそれだけのことがこんなにも嬉しいのに
その後に乗った電車では思いがけず、腕の中に亜季さんを感じることが出来て
決して小さいわけでもとりわけて華奢とういわけでもないのに、
腕の中に納まる彼女に「護りたい」と強く感じた
満員電車の圧迫感からも
世間の厳しさからも
彼女を苦しめ悲しめる全てのものから
見下ろせば、そこにはほんのりと赤く染まった項
さすがに恥ずかしいのか、顔を俯けてしまっている亜季さんに
そんな姿も愛おしいと思わず笑みがこぼれる
――― ずっとずっと、この腕の中に閉じ込めて いられればいいのに
今は無理でも、遠からず必ず彼女の傍に立つ
主婦友でも、弟的立場でもなく、1人の男として
そんな誓いも新たに
今までよりも一歩踏み込んで亜季さんと接すると
最初は少し戸惑った様子を見せても、彼女はすぐに受け入れてくれる
時々頬を染めて、ワタワタしている時もあるけど
最後は必ず笑ってくれるから、
ついついやりすぎかとは思いつつも、引くことはしない
そんな日々が続いたある日、
大学ゼミの飲み会で久しぶりに入った居酒屋
そろそろ帰るかと友人達と席をたって出口に向う途中
ふと、寝てしまった連れを起こそうと呼びかける女性の声が耳に届いた
彼女が呼んでいる名前が「アキ」だったからだろう
決して静かじゃないはずの店内で、ついつい反応してしまった自分に苦笑する
何となく視線をそちらに向けた時
「まさか」と目を瞠った
小柄な女性が肩を揺さぶり起こそうとしている女性
俯いた状態で顔を確かめることは出来ないけど、
間違いない、あれは亜季さんだ
友人達に断って先に帰ってもらうと
すぐに彼女の元に向う
「すみません、彼女の、亜季さんの知り合いなんですが、手をお貸ししましょうか」
小さな座敷の入り口で、亜季さんに呼びかけている小柄な女性に声をかける
「えっ?」と顔を上げたその女性は、驚いたように目を見開いてこちらを凝視したまま動かなくなってしまった
まじまじと上から下まで順に見つめられて、どことなく品定めされているような居心地の悪さを感じる
「あの?」
再度声を出すと、その女性はようやくこちらの目を見て「あぁ」と何か納得したように頷いた
「間違っていたら申し訳ないけれど、あなたもしかして「片平さん」かしら?」
見ず知らずの女性の口から、思いがけず自分の名前が出てきて驚く反面、
亜季さんが友人に俺のことを話していたんだという事実に、嬉しさがこみ上げる
「はい。片平圭吾といいます。亜季さんにはいつも本当にお世話になっていて。」
「そう。やっぱり。私は大竹憂有紀というの。亜季の同期で看護師よ。よろしくね。」
大竹憂有紀と名乗った女性は、ふんわりとした栗色の髪をした綺麗な女性で、
外見だけなら申し分のない、まさに「白衣の天使」といった容姿の持ち主だった
……ただ、なぜだろう
見たままの彼女を素直に受け入れてはいけない
そんな気がしてならないのは
「ね、片平君は今時間大丈夫なのかしら?もし良かったら少しお話したいのだけれど」
思いがけない誘いをにこやかに告げるその様子に、
やっぱり一筋縄で行く相手ではないようだと気を引き締め誘いを了承すると、
「そこに座って」と亜季さんの隣の席を示される
先ほどからピクリとも動かない亜季さんの隣に出来るだけ静かに腰をおろして
横からそっと亜季さんの様子を伺う
すーすーと気持ちよさそうに眠っているその様子に、とりあえずは大丈夫そうだとほっと安心した
こんなに無防備な彼女を見るのはさすがに初めてで、
普段見せるくるくると動く表情も素敵だけど、
こんな風に安心して眠りにつく姿はより一層愛おしくて、嬉しくなる
「ふふ、まんざらでもないじゃない」
その時ふと正面から声が聞こえ、視線を戻すと
にっこりと笑った大竹さんがこちらを見ていた
「大竹さんは、亜季さんとは同期と言っていましたが、仲が良いんですね」
ただの同期ならば、いくらなんでもこんなに安心しきった感じに眠りはしない
亜季さんの様子から大竹さんとの関係が同期以上に深いものだと窺わせる
「そう、亜季とは同期で、大切な友人よ。亜季はね、結構さばさばしているように見えて
その実とても細やかな気遣いが出来るの。そして必要とあらば彼女の持てる力全力で相手を助けようとする。」
大竹さんが語る亜季さんは、まさに俺が知っている彼女そのもので
彼女の真実を知ってくれている人が、傍にいてくれていることに安堵する
「はい。本当にその通りだと思います。俺も、亜季さんには助けられてばかりだし…。」
「私たちの出会いはね、入社式の後の研修最終日、親睦会という飲み会でなの。
いわゆるセクハラ親父に狙われて、でも相手はお偉いさん。今ならまだしも当時はピッカピカの社会人1年生。
逃げ出すことも上手くかわすことも出来ずにただひたすら耐えていた。そんな私を見つけて救い出してくれたのが亜季なの。」
大竹さんは10人中10人が美人だと認めるだろう容姿の持ち主だ。
どれほどセクハラが社会的に厳罰の対象となっていようとも、声を出せなければ気付いてはもらえない。
新入社員とあってはなおさら、ただ耐えるしかなかったのだろうとおぼろげながらも想像する。
「亜季がそんな私に気がついて、すぐさま当たり障りのない理由で私をその場から連れ出してくれて。
会が終わるまで席には戻らずにずっと傍についててくれたの。私以上にセクハラ親父に対して怒りをぶちまけてくれていたから
かえってすっきりしてしまって。最後はいつか一矢報いようと固く握手を交わしたりして。」
穏やかな表情に優しい微笑をのせて
大竹さんが過ぎ去った日々を懐かしむように静かに語る
大竹さん以上に相手に対して怒りをあらわにして
辛い思いをした大竹さんを労わる様にそっと傍にい続ける
その情景がまざまざと脳裏に浮かび、亜季さんらしい、と思わず口に出していた
「その日から、亜季は私にとってのヒーローであり、唯一無二の親友であり、なにより大好きで大切な存在になった。
……だからこそ、彼女にはいつだって笑っていて欲しい。困ったことがあれば全力で助けたいと思ってる。」
そうしてまっすぐに俺を見据える瞳には、今までとは違う強い輝きがあって
―――目を、そらしては駄目だと直感的に思った
きっと今、彼女から少しでも目を逸らせばいかなる手段をとってもきっと亜季さんの傍から俺を排除するのだろうと
本能が告げる
これは彼女なりの品定めなのだ
彼女が大切に思う亜季さんの、その隣に並び立つにふさわしい相手なのかどうか
彼女は今、見極めようとしている
それならば、俺が取る道は唯一つ
その目を逸らすことなく見返すだけ
彼女の基準に叶うように、ではなく
亜季さんを何からも護れる男になって見せると、決して誰にも渡しはしないと
その意思のみを込めて
しばらく無言の攻防が続いた後、大竹さんがふっと微笑った
その表情は先ほどまでとは違って穏やかになっている
「そう。それがあなたの覚悟なのね。亜季を傷つけるのは私が許さない、でもあなたに彼女を護ろうとするその意思がある限り
二人のことに口を挟むのはやめておくわ。」
そうして紡がれる言葉に、こちらも自然と表情を緩める。
「ふふ、大学生だって聞いていたし、変に気負ったり突っかかってきたりするかと思ったけど。
あなたは本当に自然体で驚いた。亜季を護るってことがあなたの中ではごく当たり前のことだという証拠ね。」
いたずらそうに瞳を輝かせる大竹さんに、思わず苦笑する。
「俺が知ってる亜季さんは、お人よしで困っている人をほっとけない。いつだって明るくて生き生きしてるけど。…でも亜季さんだってたまには人に頼っていいんだって、人に寄りかかって甘えてもいいんだって、時々そう言いたくなる。そして、亜季さんが頼り甘える相手は俺でありたい。……亜季さんはそのままの俺を認めてくれたんです。同情するでもなくただカッコイイねって。きっと本当に心からそう思ってくれてるんだろうなって素直に思えるくらい綺麗な笑顔で。別に褒められたくてやってたわけじゃないし、特別苦しいと思ったこともないけど、同年代の友人達は大変だって口先だけでは同情してみせる。そんなことの繰り返しにちょっとうんざりしてた時でもあったから、亜季さんに「カッコイイ」って言われた時、自分でもびっくりするくらい嬉しかった。見た目じゃなくて、おれ自身をそういってくれたんだと分かったから。その時に思ったんです。この人に「カッコイイ」って言ってもらえる人間であり続けたいと。そして彼女が何か困ったり落ち込んでる時には、今度は俺が力になって見せると。それからも何度も亜季さんと会って色んなことを話して、自然と苦しみも悲しみも、彼女を虐げることがないように亜季さんを護れるそんな男になりたいって思うようになりました。」
大竹さんもまた、亜季さんを護りたいと思う同士だと感じて、真摯な気持ちで打ち明ける。
亜季さんが好きなのだと、何よりも護りたい存在なのだと
「そう。……良かった。本当はこんなこと、他人が口出すことではないって、分かってはいるんだけど。
亜季はね、仕事面ではもう完璧に自立した女性間違いなしなんだけど、恋愛面では未だに純粋な部分が強く残っていて。
今時のような簡単に付き合って簡単に別れてって言うことが出来ないタイプだし、とりあえずっていうのも無理な子なのよね。
だから、片平君がそこまで真剣に想ってくれているなら、亜季を幸せにしてあげて欲しいと、私は思うわ。1人で生きるなんてそんな哀しいことを強がって言わなくてもいいように、彼女を護ってあげてほしい。まぁ、全ては亜季の気持ちしだい、なんだけどね。」
当事者の亜季さんをよそに、お互い思いがけずあつく語ってしまった
そのことがなんだかおかしくて大竹さんと顔を見合わせて思わず笑う
そう、全ては亜季さん次第ではあるけれど
でも、俺だって簡単に諦めるつもりはない
こんなに素敵な女性が、こんなにも心を傾ける亜季さんは
今まで出会った誰よりも、俺にとっては愛おしく大切な人
「そうそう、一つ忠告をするなら。」
ふと大竹さんが真剣にでもどこか笑いを含んだ様子でそう切り出す
「あまり余計なことを考える時間を与えないほうが、いいとは思うわ。亜季は結構臆病だから、下手に考える時間を与えるとなぜか思考がマイナス面に伸びていくのよね。たとえば、自分よりもっと若くて綺麗なふさわしい子がいる、とか。」
なるほど。
それは困る。
誰でもなく、俺は亜季さんがいいのだから
もしそれが誰とも知れないひとへの遠慮でしかないのなら、そんなものは認められない
「分かりました。ご忠告ありがたく頂きます。俺も亜季さん以外とお付き合いする気持ちは全くないので、分かってもらえるよう最善を尽くします。」
がんばって、とエールをくれる大竹さんに再度頷いてみせる。
さて、どうしようか。
大竹さんの言葉に従うなら、あまり時間はかけられない。
毎日会えるわけじゃないし、顔を合わせない間におかしな思考に走られても困る。
気持ちよさそうに眠り続ける亜季さんに視線を移して
最近の亜季さんの様子を思い浮かべる
恥ずかしそうにでも楽しそうに笑う姿
驚きはしても笑って、傍に居ることを受け入れてくれる
もう少し、なんて様子をみずに
―――行動に出る時なのかもしれない




