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小さな波紋

久しぶりの投稿です(汗)

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです♪

思いがけず片平家へのお宅訪問をしてから1週間


…えぇ、そりゃもう、ドッキドキの1週間でしたとも

やりすぎた感満載だっただけに、ね


でも、知らせていた連絡先にも特にこれといって苦情の電話もなく

さすがにこれだけ日数過ぎれば大丈夫だろうと、内心かなり安堵している


いや、ヨカッタヨッカタ

今度からはもう少し自重しよう……うん



あれから残念なことに片平君の姿は見ていない

熱がだいぶ高かったから、ちょっと心配だったけど

さすがに1週間過ぎればきっと快復してるだろうし、大丈夫でしょう!



なんて言うかこの1週間は私自身とても忙しくて

「残業極力しない主義」もこの時ばかりは返上せざるをえなかった

毎日泣く泣く仕事に追われてたんだよね


そんな状態だったからなおさら片平君との遭遇も難しかったのかな



怒涛の残業地獄もなんとかひと段落着いて、戻って参りました「極力残業しない主義」(笑)

まぁ、今日ばかりは私だけじゃなく課内の人ほとんどがチャイムと同時にいそいそと席を立ったんだけどね



久しぶりの定時帰宅

最近すっかりご無沙汰していた、「夏もいよいよ本番」って感じの暑さに苦笑しつつも

日暮れまでにまだ少し時間があることが嬉しい



買うべきもののリストを頭の中で作成しながらいつもの駅に向かうと

ちょうど帰宅ラッシュに当たってしまったのか、げんなりするほどの人の波

人口密度の高さからくる湿り気のある熱気が歩いてきたことでうっすらと汗ばむ身体に纏い付く

うぅ~きもちわるい……



そう言えば、最近は人気もなくなってからの帰宅だったからすっかり忘れてた

夏のラッシュほど嫌なものはないよね……

電車の中はさすがにクーラーが効いてはいるけど、これだけの人が詰め込まれたとあっては

効果を期待するだけむなしい気もするし



ほら、冷蔵庫だってパンパンに詰め込むと冷えの効率悪くなるって言うしさ



座ることはもはや無理そうだし

せめて入り口付近を確保したいと人の波から少しはなれた場所に立っていると



「亜季さん!!」



とすっかりお馴染みになった声に名前を呼ばれる

一体どこからと辺りを見渡せば、思い描いていた通りの人がその端正な顔に笑顔を浮かべて

近づいてくるところだった



「片平君!うわぁ、久しぶり!もう体調はいいの?」


「もうすっかり。その節は大変お世話になりました。でも良かった。

最近姿を見かけなかったからもしかして風邪うつしたかと思って。」



相変わらずの爽やか笑顔

今確実にこの辺りだけ5月の高原の風が吹いてるよ!!

癒しだ~



「まさか!ちょっと予定外の残業が続いて。今日は久しぶりの定時帰宅なの」


「そうだったんだ。でも、体調崩したとかじゃなくてほっとした。

 残業大変だったんだね、お疲れ様でした。」



片平君からの「大変だったね」とか「お疲れ様でした」が、

本当にすごくこちらを労わってくれているのがわかって、なんだかちょっと泣きそうになる



別に、今までだってこれくらいの残業地獄がなかったわけじゃないし

今回の残業も何もかも追いつかなくてテンパって、

泣き喚きたくなるほど激務だったかと言われればそうじゃないんだけど……


なんていうか、その声に籠められた響きがあまりに優しくて、柄にもなく甘えてしまいたい、

と、そんな気分にさせるのだ



「うん、ありがとう。なんか、片平君に会ったら疲れもどこかに飛んで行っちゃったよ」



年甲斐もなく甘やかされたような、そんな気分になった自分がどことなく恥ずかしくて

照れ隠しに笑ってみせる



まったく、片平君め!!

無自覚なのか天然なのか、いや、おんなじ意味かもしれないけど

これにやられちゃう女の子は多いんだろうな



人に甘えるなんて久しくない、社会に出てから一癖も二癖もついてしまった私でさえがこうなんだから

若くてまだまだまっさらな女の子達には抗う術などないだろうね



それからお互いの近況報告をし合っていると

ホームに電車が到着して人の波が一斉に行動を開始する


片平君と二人、見事希望の入り口付近をゲットしたけど

案の定、入り口に向いた背中以外の三方を人に囲まれる状況に憂鬱になる

目の前に立つ片平君もさすがにこの状況には参っているのか眼が合うとちょっと苦笑してみせた




「わっ」



カーブに差し掛かった電車に揺られ、人の波に押しつぶされそうになり

襲いくるであろう圧迫感に耐えるべき、ぎゅっと眼を瞑る


けれど予想していた衝撃を感じることはなく「あれ?」と思うと同時に

ふわっと何かに護られたように自分の周りにわずかな空間が生まれていることに気がついた


思わず驚いて顔を上げると、優しく笑う片平君と眼が合う


な、なんということでしょう!!

片平君が入り口に左手をつき、出来た空間に私がいるではありませんか!!!



っていやいやいや、落ち着け自分!!



「大丈夫?亜季さん。」



周囲に配慮したのか片平君が少し身をかがめて耳元でたずねてくる

いつもよりも近い位置から聞こえてくる声に、心臓が不自然にはねた



「う、うん。ありがとう、片平君。」



「そっか、よかった。」



なにこれ、なんなのこれは。

片平君によって築かれたわずかなスペースは、間違いなく私を護ってくれるもので

その事実に脳が混乱する


いや、「THE!爽やか☆」を地でいく片平君のことだから

こんなことは特別でも何でもないんだろうって分かってる


純粋に押しつぶされそうな私を気遣ってしてくれてるんだろうなって


でも、こんな風に誰かに護られるなんてこと

それなりに年数生きてきたはずなのに残念ながら経験がなくて


だからこそ混乱してしまう


特別なことなんて何一つもありはしない、片平君にとってのこれが日常


わかってる、分かってるのに

いつもよりもテンション高く打ちつける鼓動をどうすることも出来ない自分に戸惑う


きっと恐らく、意味もなく赤くなっているだろう顔を見られたくなくて

困惑と安心、恥ずかしさと面映さ、そんな複雑な感情が入り乱れた、けれどどこか心地良い空間で

私はひたすら自分のつま先を見続けた



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