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勇者より最強な黒騎士  作者: 暁 桃香
三国武道大会編
33/43

第31話 晩餐と迷惑二号

第31話 晩餐と迷惑二号





・城内、晩餐会場


 商店街の巡回から帰ってきて数時間後、数人にあの親子の警護に向かわせ、夜間の巡回の調整を済ませた。


 親子の自宅の場所に関しては、初めに警護させていた二人のうちの一人が報告に戻ってきた時に一緒に向かわせたから問題ない。


 こういう時を想定して、対処法を考え指示していて本当によかった。


 そして現在、私は顔合わせを兼ねた晩餐会に出席している。


 参加しているのは、私、陛下、コンラット、聖王、聖国代表、国王、そしてあの時の脳筋。


 今回后様達はいない。


 一応国主と代表選手の交流が目的の食事会だからだ。


 だけど……。




————………。




 交流が目的のはずなんだけど、空気が重い。


 と言うより気まずい。


 誰もが黙々と食べているだけで、言葉を発する者は誰もいない。


 隣に、式典用の軍服を着たコンラットが居ることにホッとする。


 正直彼が居なかったら心細い。


 でもこれ交流の意味あるのか?


 と言っても、無理もないのだ。


 なんせ半年前の奴隷オークションで逮捕した貴族達や、誘拐の被害者達の事が今だに解決していない。


 一応、問題がおきた国で他国の人間が犯罪を犯したら、その国の法律で裁かれるのがこの世界ルールなのだけど、各国から貴族達を帰国させろと言ってこられている。


 しかも被害者を探し出すのは無理だとかグダグダ言われるしまつ。


 まったく、何を言っているのやら。


 犯罪者に関しては、帰国させるわけにはいかない。


 理由は、他国が奴隷制度を法律に取り入れているところにある。


 つまり帝国では有罪になるが、他国では無罪にされる。


 それがわかっていて返す馬鹿がいるわけがない。


 そして被害者に関しては、探せないとかありえない。


 なぜなら、各国にはオークションで押収した顧客名簿の写しを送っている。


 要するに、顧客の家に被害者がいると言うことだ。


 これで無理とか、何言っていると思わざるをえない。


 と言う事で、今帝国は他国との関係が最悪と言える状況なのである。


 そんな中で行われる交流会。


 恒例行事だそうだから省く事が出来ないとはいえ、時期的に最悪だ。


 このような空気の中、食事を何とか続け、正直味なんて理解できなかったけど、食後のコーヒーまできた。


 ここまできてようやく周りを見る余裕が出てきた。


 先ずは王国側。


 さっき商店街で暴れた脳筋、クライヴ・マスグレイヴ。


 子爵家の出身で、見えないが一応跡取り息子。


 貴族の出身だけあって、見た目に反して食事中は完璧なマナーだった。


 服装は緑の貴族服を着こなしている。


 流石に自国の王の前では、粗相を起こせないと見た。


 居ない所では盛大にやってくれたけど。


 で、その国王様は脳筋の隣でコーヒーを無言で飲んでいる。


 ウェーブがかかった金の短髪、瞳の色は緑でたれ目、右の口元に黒子がある。


 初めて見た時の第一印象は神経質そう。


 年齢は陛下と同年齢だそうだが、陛下と比べたら若い………いや、陛下が老けているだけで、国王が年相応なのか。


 身長はパッと見た感じ175クアメイト位だと思う。


 現在の服装は青い貴族服。


 名をコーネリアス・ナヴォワジル。


 噂では第一印象通り実際に神経質で、いい年して癇癪持ちらしい。


 まぁ、神経質と言うことはプライドが高いと言うことだろう、仕事に関してはそつなくこなすとコンラットから聞いている。


 商店街での部下の行為を聞いたらどうなる事やら。


 次に聖国側。


 此方の代表は、見目麗しい女性だった。


 腰まであるであろう長い髪は銀に近い白髪。


 蒼い瞳はその白髪に良くあっている。


 目、鼻、口、輪郭、全て形が整っていて、体型においても無駄がないモデル体型。


 ちなみに胸は慎ましい。


 身長は鎧無しの私と同じ位だ。


 名をセリーヌ・マンスフィールド。


 聖国の魔導師だ。


 聖国《あちら》では聖術師と呼ばれているそうだが。


 確か男爵令嬢だったか?


 空色のシンプルであるが、素敵なドレスを着用。


 彼女に限っては何故かコンラットが顔を歪めて、話すのを渋っていたから、詳しくは知らない。


 何があったんだ?


 最後になるが、聖王陛下。


 第一印象、張り付いた笑顔が気持ち悪い。


 短い白髪、青い瞳。


 皺があるが、整った綺麗な顔立ちで、ダンディーと言う言葉があうかもしれない。


 着用している衣装は、煌びやかな刺繍がされている銀色の祭服。


 地球の西洋の祭服に近い。


 三国の国主達のなかで、現在最年長の五十歳。


 正直目を合わせたくない。


 始めて顔を合わせた瞬間、品定めでもしているような、ねっとりとした視線を向けられ、鳥肌が立った。


 噂では両性愛者だそうだ。


 これを言ったときのコンラットは、冗談じみて笑いながら言っていたけど、本当なんじゃないか?


 まぁ、人の性癖にどうのこうの言うつもりはないけど。


 私の周りで問題を起こさない限りは。


 それに単に鎧の下が気になって、見られていただけかもしれないし、この事に関しては深く考えないようにしよう。


 でだ、この聖王様に関しては黒い噂がつきまとう。


 他の後継者を陥れただの、奴隷商人の支援をしているだの。


 本当かどうか証拠がない為分からない。


 以上が他国の王と代表だ。


 何ともキャラが濃い人達だよ。





 その後、結局一言も話はなく、台本のような挨拶を陛下がして、晩餐会はお開きとなった。







・城内、とある庭園


 あぁ疲れた。


 晩餐会の後、陛下に商店街での出来事を報告し、私情に任せて勝手な事をしてしまった詫びをした。


 本当ならあの脳筋を捕らえなければならないのだ、それを頭に血が上ってしまって勝手に宣戦布告、子供か私は。


 それを聞いた陛下は苦笑した後、相手が他国の代表ではしかたがないと言うことで、始末書を提出で、今回は許していただいた。


 始末書…私の若気の至りが、資料として帝国の後世に残るのか。


 それから私と脳筋が対戦相手になるように、取りはからっていただける事となった。


 別れる際




――――「王国代表を懲らしめてこい」




 と笑顔で言われてしまった。


 陛下もご立腹のようです。


 そして現在、何だか夜風に当たりたくなり、庭園を散歩している。


 庭園は庭師の手入れが行き届いており、季節の花々が植えられている。


 月明かりに照らされ、昼間とは違う庭園を愛でながら歩く。


 地球では絶対にしなかった事だ。


 なるべく外に出たくなかったし、家の近くに公園すらなかった。


 何より夜に外に出ること事態物騒だったから。


 夜が物騒と言うのは、この世界でも同じだけど。


 しかしここは帝国城内、二十四時間体制で警備されていて、国内一安全と言える。


 だから心おきなく月夜の散歩が出来るんだ。


 耳を澄ませば虫の鳴き声。


 アーメットの顎の部分を外して、風に直接当たると、大分冷たくなっている。


 もう秋の後半、後一月もしたら冬になる。


 この世界に来て色々あって、ゆっくり考える時間がなかったけど、もう半年以上ここで過ごしているのか。


 家族《みんな》元気かな?


 って、今は私がいた時間の過去の次元なんだから、地球《あっち》には私と一緒にいるから元気に決まってるか。


 それでも考えちゃうんだよね。


 もう二度と帰れない、平和な故郷。


 正直嫌な事ばかりだったけど、家族といたときは幸せだった。


 地球《あっち》にいたときは、一生会えなくなる時がくるなんて思っても見なかった。


 それも幼馴染みに巻き込まれて、異世界になんてなおさらだよ。


 今の生活は気に入ってるけど、やっぱりホームシックにはなる。


 私まだ十七歳だし、地球《あっち》じゃ成人していない子供だし。


 まだ家族と離れたくなかった。


 こんな事考えたって、仕方がないって分かってるけど、一度ふと思ったらな。


 ………。


 あぁー! だめだだめだ!!


 これから大事な事が山ほどあるんだ、ネガティブになってドジ踏んだら格好つかん。


 私は帝国軍、騎士隊隊長、黒騎士!


 爵位は公爵!


 ただの女子高生の斎藤智慧は卒業!!


 それで十分!


 よし、今日は部屋に帰って寝よう、そうしよう。


 明日も仕事があるし、始末書書かないといけないし、やることがたくさんあるんだ。


「……だ…ら」


「ど…し」


 ん?


 あれ? こんな時間に誰だ?


 アーメットの顎部分を戻し、部屋に戻ろうとした時、微かだけど人の声が聞こえた?


 二人かな?


 何となく気になり、声のする方へコッソリ近づく。


 ばれないだろうギリギリの場所にある木々にに身を潜めながら、コッソリ覗く。


 本来なら暗くて見えないだろうが、アーメットの魔硝石でハッキリと見えた。


 一応人目を憚ったのだろう、木々の多い繁暗がりの中二人の男女。


 女の方は、聖国代表セリーヌ・マンスフィールド男爵令嬢。


 そして男の方は、私の副官コンラットだった。


 な、何この状況?


 もしかして逢い引き?


 いや、それはないか、コンラットが彼女に説明をするとき、渋い顔をしていた。


 好意を抱いている人の話をするときの表情じゃない。


 じゃあ何で?


「だから、俺はお前の夫にはならん」


 何だか疲れている声音で言うコンラット。


 ええ! 夫!?


 彼氏通り超して!?


「何故です! 私《わたくし》はあの時から、貴方の事を想い、四年間この時を待ちわびたのです!!」


「あの時は割り切った筈だ、互いに始めてではないからと」


「ですが私《わたくし》は、貴方以外の男性とは考えられません! あの夜以来、誰ともそのような!!」


「俺はそう思っていない……」


 ………。


 ツマリ、アレデスカ?


 二人ハ、一夜ヲ共ニシタ関係ト?


 木に寄りかかって、膝を抱えて座り、アーメットの下の顔を赤くしながら、話を聞く。


 あまり考えたくはないけど、お互いそれなりの経験者で、割り切った一夜限りの関係になった。


 しかし、マンスフィールド嬢は本気になってしまい、コンラットに言い寄っていると。


 それでコンラットは渋い顔をしていたのか。


 そりゃ話しづらいよな!


 そんな関係になった女の話を上司になんて!


 にしても、貴族のご令嬢がそんな経験豊富ってどうなんだ?


 いや、知ってるよ? 貴族達の間でも隠れてそう言う事してるの。


 別に節度を弁えていたら、誰も何も言わない事を。


 あ~ぁ、どうしよう。


 本当はこんな事盗み聞くなんて、最悪な行為だって分かってるけど、かといって下手に動けない。


 一応ギリギリ気づかれない場所ではあるけど、言い争っている二人は国の代表に成るほどの実力者。


 気づかれない保証はない。


 それに、いい加減止めた方が……。


「ならば、今一度私と! そうすれば私《わたくし》が貴方にふさわしいと分かるはずですわ!」


「っな! 何を考えて!?」


 ついに実力行使にかかり、抱きつくマンスフィールド嬢。


 コンラットも流石に不味いと思ったらしく、抵抗している。


 これは本当に不味い。


 そう思った私は


「私の副官に何をしている、マンスフィールド嬢?」


「なっ、貴方は!?」


「たっ隊長!」


 仕事モードで声をかけ、驚く二人。


 さて、どう諦めさせるか。


「……貴方には関係ございませんわ。これは私《わたくし》とコンラット・エイデンの問題。部外者は立ち去ってくださいまし」


 そう言って行為を続けようとするマンスフィールド嬢。


 それを先ほどより強く抵抗して、マンスフィールド嬢を押しのけ、私の所に駆け寄り慌てふためくコンラット。


「た、隊長違うんです! これは逢い引きなどではなくてですね!!」


 顔を真っ青にさせ必死に違うと言うコンラット。


 まさかこんな反応されるとは思わなかった。


 そんな彼の肩をポンと叩き、私の後ろに下がらせ、マンスフィールド嬢に向かう。


「失礼ながら、途中から二人の話を聞かせていただいた」


「随分と無粋な……。しかしそれなら話は早いですわ、私とエイデン殿はそう言う仲ですの。つまり貴方が口を挟むのは筋違いと言うことです」


 成る程、彼女の中ではすでにコンラットは自分の者認定なのか。


 本人の意見を無視して、何を言っているのやら。


「そう思っているのは貴方だけのようですが? 私には彼が嫌がっている様にしか見えませんよ」


 そう言うと、綺麗な顔を一瞬ゆがませるマンスフィールド嬢。


 すぐさま元に戻した彼女は続ける。


「そんな事関係ありません。私《わたくし》を再び受け入れてくだされば、分かっていただけますから」


 その言葉を聞き、私に中で何かが引っかかった。


「『そんな事』? コンラットの気持ちは関係ないと?」


 私は眉を寄せながら問う。


「ええ、エイデン殿が男である以上、私《わたくし》の物。そうなるのが必然なのですから」


 『私《わたくし》の物《・》』?


 『なるのが必然《・・》』?


「私《わたくし》に靡《なび》かない男はおりませんもの。今までがそうでしたから」


 『今までそうだった』?


 言葉を聞きながら、頬をひくつかせる。


 握る拳の力が強くなる。


 そして彼女は、頬を恍惚とさせ、言ってはならない事をほざいた。


「そしてコンラットは私《わたくし》の夫となる存在! コンラットは私《わたくし》の為にあり、私《わたくし》を満足させる存在! 彼の身体は私《わたくし》の為に神が与えた物なのですわ!!」


 言い終わった言葉に、私の中で何かが切れた。


一瞬で彼女の前まで距離を詰め、彼女の後ろの木に右腕をめり込ませる。


「え?」


 一瞬で目の前に私が現れた事と、右頬に感じた風に何が起こったのか分からない顔をするマンスフィールド嬢。


 ゆっくりと右腕を引き抜く。


 私が引き抜くと、今度はゆっくり後ろを確認し青い顔をして私を見るマンスフィールド嬢。


「……聞くに堪えないとはこの事をいうのか。全く腹立たしい」


「なっなにを?」


 私の言葉に、声を震わせながら問うマンスフ……ビッチ女。


「『何を』?」


 私は木の穴の開いていない左側に『バンッ!』と強く左手を叩き付け、ビッチ女の鼻に触れるギリギリの所に、私の顔《アーメット》を近づける。


 それに『ヒッ!』っと悲鳴を上げる。


 そんな女を見ながら、ドスをきかせた男の声で言う。


「何もかも全部に決まっている。男女である以上、そう言う事があっても別に悪くはない。そので恋心が芽生えても全く不思議ではない。でもな、片方が拒絶しているのを無視し、尚かつ己の思い通りになると思っているのは論外だ」


 ふるえて顔を背けようとするビッチ女。


 その顔を右手で顎を掴み、無理矢理視線を合わさせる。


「目を背けるな」


「っ!」


 そう言うと、涙目で私を見る。


「それになあ、どれだけコンラットに迫ったところで、お前の夫に成る事は絶対にあり得ない」


 その言葉に怯えながらも、理解できないと言う顔をする。


 ちょっと考えれば分かるだろうに。


「いいか、そのおめでたい頭でも理解出来るように説明してやる。そもそも、お前もコンラットも今大会の代表だ。それはつまり国にとって手放したくない存在だ。そんな存在が夫婦の間柄に成るからと、どっちかの国に二人がとどまる事なんて不可能なんだよ。最悪、国同士の問題になり、二人を取り合って戦争に成りかねない。そう言う存在なんだよ、代表選手と言うのは」


 説明するとようやく理解出来たのか、真っ青な顔をする。


 それにたたみかける様に言ってやる。


「後な、一番腹立たしいのはお前がコンラットの名前を言いながら、物扱いしたことだ。お前達が嘗て深い仲になったのだろうが、話を聞く限り互いに割り切る事を前提とした行為なのだろう? それに関して私も悪い行為とは思わないし、先刻も言ったが男女間ならば仕方がないと思う。でもな、それに勘違いしてコンラットを己の物と思い込むとはどういう事だ?」


 女は顔中涙と鼻水でクチャグチャになっている。


 さらに、そのせいで化粧が禿、悲惨な状態にだ。


 それを無様だと思いながらとどめを刺す。


「今後一切コンラットの名を呼ぶな、その汚れた身体で彼に触れるな! 本来であれば私が大会でお前の相手をしてやりたいが、迷惑一号がすでに私の相手と決まっていてな、迷惑二号であるお前はコンラットが相手だ。正直、お前が彼の目の前に立つのも虫唾が走るが、致し方がない。だがそれでお前は、コンラットが高嶺の花だと気がつくだろうよ。誰よりも誇り高い騎士であり、お前の様な汚れた女がふれて良い男ではないと!」


 そう言って女から手を離すと、ずるずると地面に座り込んで泣きながら身体を震わせた。


 私は女に背を向け、コンラットに振り返る。


 彼は呆然として立ちつくしていた。


 そんな彼に近寄り、彼の右肩に左手を置いて


「コンラット行こう、こんな女の側にいるのは不愉快だ」


 と言って、慌ててついてくるコンラットを背に、その場を後にした。


 何でこんな奴らが他国の代表になれたんだ!?








**********







・とある廊下


 最悪だ……。


 よりにもよって隊長に見られていた。


 晩餐会が終わった後無理矢理、聖国代表セリーヌ・マンスフィールドに、人気の居ない庭園へ連れて行かれた。


 連れて行かれたと言っても、そこを提案したのは俺だが。


 本当は断ろうとしたが、彼女とは四年前、聖国で行われた三国武道大会の時の事があり、その事で騒がれたりしたら面倒になると思い、仕方がなく大人しくしていた。


 今更ながら後悔している、何で四年前彼女の誘いに乗ってしまったのかと。


 当時俺は、初めての大会に興奮して中々寝付けず、滞在していた聖国城の庭園を歩いていた。


 そこに偶然男と言い争い、掴みかかられているマンスフィールドを見かけ、助けたのが出会いだった。


 男が逃げた後、彼女が俺に礼を言い、俺は何故絡まれていたのかと聞いた。


 その時、彼女の言った言葉に驚かされたよ。




――――「何度も夜を共にしたとは言え、私《わたくし》を恋人と思っていたそうなのですの。やれやれ、所詮私《わたくし》に身体を提供する男達の一人だと言うのに」




 その言葉に俺の顔は引きつった。


 これが宗教国家である聖国の、それも貴族の娘の言う言葉かよ。


 後から知ったが、セリーヌ・マンスフィールドと言う女は有名な快楽主義者らしく、己の美貌を最大限に利用し、色々な男と関係を持っているらしい。


 俺が呆れながら彼女を見ていると、何かを考えるそぶりをして、俺に密着して




――――「貴方確か帝国代表の方ですわね。私との一夜はいかがかしら? 他国の、それも男爵令嬢を一晩とはいえ好きに出来るのですよ? その代わり私《わたくし》を満たしてくださいまし」




 と、色気たっぷりに俺を誘惑した。


 当時二十歳だった俺は、まぁ若かった。


 今まで遊んできた女達とは全く違う、貴族令嬢の相手の誘惑に乗ってしまった。


 一夜だけなら、問題ない。


 そう思って、俺は彼女と二人、誰にも見つからないように城を抜け出し、彼女の家が管理していると言う、無人屋敷で一夜を共にした。


 行為を終えた後、眠っている彼女を残し、まだ夜が開ける前にコッソリ城へ戻った為、この夜の事を知る者は俺と彼女以外いない。


 今後一切彼女に関わる事はない。


 そう思っていた。


 もう一度言う、何で俺は彼女の誘いに乗ってしまったのか。


 その後しつこく俺に迫ってきた。


 流石に周りに誰かが居るときは、寄ってくることはなかったが、一人になると途端にどこからともなく現れた。


 しかし、それは決して恋いとか愛とか言う感情ではない。


 俺自身そういう感情は分からないが、違うと思う。


 具合の良い男を逃がしてなるものかと言う執着心からくるものだと、彼女の顔を見てすぐに分かった。


 それに俺は嫌悪し、逃げ続けた。


 聖国を出た後、都に着いてやっと心が安らいだ。


 それ程、彼女は異常だった。


 あれから四年、俺はその時の事を忘すれていた。


 彼女が代表として、帝国に来ると知るまでは。


 彼女は忘れていなかった。


 忘れるどころか、代表にまで成って俺を追ってきた。


 俺は焦った、彼女との関係が隊長に知られてしまったらと。


 別に他の人間に知られるのは良い、もう四年も前の事だ、誰も何も言わない。


 しかし隊長には知られたくない。


 もし知られてしまったらと考えただけで、胸が苦しくなる。


 そう思っていたのに、知られてしまった、聞かれてしまった。


 必死に弁明しようとした。


 隊長に失望されてしまう。


 そう思って慌てふためく俺に、隊長は何も言わず、後ろに下がらされた。


 そして隊長とマンスフィールドの遣り取りを見ていた俺は、驚いた。


 隊長がマンスフィールドにキレたのだ。


 アデルバートの時とは比べものにならない威圧感で。


 こんな隊長見たことがない。


 何よりこれ程までに拒絶を示している隊長は。


 俺は呆然と、その光景を見ながら、恐怖した。


 次は俺の番ではないかと。


 そんな事を考えて、怯えていた俺の耳には、隊長が言っている言葉が全く入ってこなかった。


 ただ一つだけ分かる。


 隊長はあの女を完膚なきまでに、言葉で叩きのめしたのだ。


 戦意を喪失させ、逆らう気すら起こさせないように。


 恐怖を植え付けたのだと。


 そして今。


 マンスフィールドをあの場に残し、俺は隊長について歩いている。


 恐らく今度は俺の番だ。


 俺は隊長を失望させてしまったのだ。


 こうなったら何を言われても受け入れよう。


 これ以上、失望させないように。






 暫く歩くと目的地に着いた。


 そこは隊長、副隊長が使用する会議室だ。


 当然今の時間は誰も居ない、俺と隊長の二人だけだ。


 隊長は卓に置かれている燭台に火を点し、俺に向き直る。


 いよいよかと思ったときだった。


 隊長は鎧を脱いだと思ったら(今回も下に軍服を着ていた)、床に膝を折って座り、両手を地に付け、額を地に押し付けて、


「ごめん!」


 と、言った。


 え? どういう事だ?


 隊長は何故地に頭を伏せ俺に謝罪をしている?


 混乱している俺に構わず、隊長は言葉を続けた。


「本当にごめん! ちょっと散歩しているときに、話し声が聞こえてきたから、好奇心で盗み聞いてしまった! そう言うときは、聞かなかった事にして近づかないのがマナーなのに、最低な事をしてしまった! こんな上司で申し訳ない!」


 必死に謝罪の言葉を紡ぐ隊長。


 俺はハッとして、慌てて隊長に言う。


「隊長!? どうか頭を上げてください! 貴方がそのような、地に頭を伏せる必要などありません!」


 そう言って、膝をつき、隊長の両肩を掴んで起こそうとするが、ビクともしない。


 見たこともないその行為だが、ひれ伏す姿勢だと言うことだけは分かる。


 何とかして、止めさせなければ。


 しかしどうすればいいのか分からず、オロオロしながら隊長に言う。


「隊長は何も悪くありません! 謝罪すべきは俺の方です! 貴方を失望させる行動を取ってしまった……」


「……は? 失望?」


 キョトンとした顔を上げた隊長。


 ようやく頭を上げてくれ、ホッとした俺は隊長に言う。


「はい、俺は四年前とは言え、あの女と不純な行為に及びました。貴方に失望されて当然です。どうか処罰を」


 そう言って俺は隊長の見様見真似で頭《こうべ》を垂れる。


 恐らくこれが隊長の故郷の謝罪の姿勢なのだ。


 地に頭を付ける、今の俺にピッタリだ。


 そう思っていたら、頭上から今度は隊長の慌てた声が聞こえてきた。


「ちょっ! 待った待った! コンラット誤解してない!? て言うかさっき、あのビッチ女に言った事聞いてなかったの!?」


「え?」


 今度は俺がキョトンとした顔を上げる。


 どういう事だ? 隊長は俺達の不純行為にお怒りなのではないのか?


「あ~、やっぱり聞いてなかったのか? 」


 膝を折った不思議な座り方をしている隊長は、頭をかきながら俺に問う。


 俺も身体を起こして、同じ座り方をして答えた。


「はい、お恥ずかしながら隊長を失望させてしまったと思い、隊長に声をかけられるまで耳に言葉が入ってこなかったのです」


「成る程…」


 隊長は苦笑を浮かべて話し出した。


「あのな、私があの時怒ったのは、あのビッチ女がコンラットの心を無視して物扱いしたことと、あまりにもおつむの足りない発言をしたからだ」


 その言葉を聞いて、俺は驚いた。


 てっきり、俺とマンスフィールド、二人に対してお怒りなのだと思っていたから。


 にしても『ビッチ』ってなんだ?


「あの女、自分の代表という立場がどういう物なのか分かってなくてな、普通の貴族の娘が他国に嫁ぐのならともかく、代表は軍事的に国が手放したくない戦力で、他国に移住が許されるわけない。例え二人が愛し合って夫婦になったとしても、二人を取り合って最悪国同士の戦争になりかねない。それを全く理解していなかった。何か? あの女の頭はエロイ事しか考えていないのか? ああ、そうなのだろうな、実際コンラットの身体目当てで代表に成ったのだろうから」


 と隊長は頭を押さえ、顔を引きつらせながら言う。


 その言葉には怒りと同時に呆れが含まれている。


「にしても他国の貴族って常識がないのか? 王国の脳筋と言い、聖国のビッチ女と言い、公には言えないがあんなのが貴族で、国の政治を行っていてよく国が保たれるな。まぁ他国の事なんてもうどうでもよくなった。腹立たしい事この上ない。この怒りは大会で晴らさせてもらうが、いっその事あの迷惑共両方叩きのめしたい。でもそう言う訳にはいかないからコンラット!」


「は、はい!」


 早口で小言を吐いていた隊長に呼ばれ、反射的に背筋を伸ばして返事をする。


「あのビッチ女に手加減せず本気でやれ。まぁ、コンラットが本気出したら試合開始と同時に終わって試合にすらならないだろうけど、敢えてそうしろ! あんな世間知らず相手にまともに試合する必要はない。私もあの脳筋とまともに試合するつもりはない。適当にあしらって一発入れて終わらせる。試合なら私達二人がまともにすればいいんだ。そして見せつけよう」


 そこまで言った後、隊長は笑った。


 ただしいつもの楽しそうな、穏やかな笑顔ではない。


 ニンマリと背筋が凍るような、怒りを無理矢理笑顔に変えた笑顔で。


 そして次の言葉で俺は理解した。


 他国は触れてはいけないものに触れてしまったのだと。


「帝国軍の力を」


 帝国最強黒騎士の『逆鱗』に。









To be continued


あとがき

皆さまお久しぶりです。

本気を出すと言って、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。

第31話いかがでしたでしょうか?

他国の王達は今回一切しゃべらせませんでした。

彼らが喋るのはまぁ、皇帝陛下が無双するときですので楽しみにしていてください。

そして新たなキャラは言うまでもなく悪役令嬢です。

コンラットの若気の至りとして登場させたのですが、彼女のおかげで確定しました。

智慧がヒーロー、コンラットがヒロインだ!

私の中でこれがしっくりきました。

この『三国武道大会編』は今年中に完成させます!

そのために新しいパソコンを買いました!

パソコンの故障は更新が遅れる原因の一つだったので、これで少しは改善されるはずです。

こんな私の作品ですが今後ともよろしくお願いいたします。


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