第29話 舞踏会と月明かり
誤字など、後ほど修正いたします。
とりあえずかけたので、急いで投稿しました。
第29話 舞踏会と月明かり
・城内パーティーホール
予選が終わり、すっかり日も暮れた。
現在、皇帝陛下主催の舞踏会が行われている。
会場に響き渡る生演奏にあわせ、きらびやかな衣装に身を包んだ男女達がワルツを踊っている。
それは良い。
良いのだが…。
「黒騎士様、どうか私と一曲!」
「いえいえ、私と!」
「何をおっしゃいますの!? 私とですわよね? 黒騎士様」
私は今、きらびやかなドレスを着た、何処ぞの貴族令嬢達に囲まれています。
何であの勇介と同じポジションに、私が居るんだ!!
そしてどさくさに紛れて、何でシャルロット弓兵副隊長も混ざっている!?
助けを求めるように、近くにいる式典用の軍服を着た青長髪イケメンに視線を向けるが、そらされる。
おい! 何故避ける!?
せめてシャルロットだけでも何とかしてくれ!!
「悪いが、隊長を解放してくれないか」
そこへやって来た、コンラット。
天の助け!
いや、私の補佐様!!
私は『失礼』と言いながら、女性達の中から何とか抜け出す。
「すまん、助かった」
彼女たちに聞こえないよう、小声でそう言えば、眉を下げて微笑むコンラット。
うん、私の中で一番のイケメンはコンラットだな。
背後をちらりと見る。
そこには恨めしそうな表情で、コンラットを見ているご令嬢たち。
おいおい、本来逆じゃないのか?
私からしたら、コンラットの方が格好いいっての。
改めてコンラットを見る。
彼も青長髪イケメン同様、式典用の軍服を着ている。
青いロングコートの裾はふくらはぎまであり、詰襟。
襟から肩、袖の部分は色が紺色で、植物のツタが刺繍されている。
コートのあわせの間からみえる下は、白いズボンに、ふくらはぎまでの黒いブーツ。
それにいつもの蒼いマントを着用。
コートの色は上に上がるにつれ代わり、一般兵は茶色と焦げ茶色、班長は黄緑と深緑、副隊長は青と紺色、隊長は白と黒。
刺繍の糸は、班長までが灰色、副隊長は銀、隊長は金となる。
男女統一されているため、女もズボンである。
当然私も持っている。
と言うより、鎧の下に着ているんだけど。
流石に下が普段着と言うのも場違いのような気がするし、例え見えていなくてもきちんとしておくのがマナーだからな。
しっかし、こう改めて見ると
「似合いすぎて格好いいな」
「えっ!?」
おっと、思わず声に出してしまった。
まぁ、出てしまった物はしかたがない。
「いや、急にすまない。式典用の軍服を着た姿なんて、始めて見たから、ついな」
私の任命式は、急遽執り行われた為、全員何時も通り戦闘服だったからな。
「いえ、その……恐縮です」
ん?
何でそこで赤くなる?
コンラットなら、周りの女性達から耳にタコができる程、言われているだろう?
この間、バイロンさんから聞いたぞ。
「それより、何か用があるんだろ」
とりあえず、声をかけたと言うことは、用事があるからだろう。
「あ、はい。陛下から隊長を呼びに行くようにと、仰せつかりました」
「それは急がないとな。行こうか」
「はい」
私達は主催席へと向かう。
主催席には陛下、后様、姫、宰相閣下が話していた。
宰相閣下を見たとき引き返したくなったが、陛下に呼ばれている以上行かない訳にはいけない。
あと殿下は、さっきの私と同じ状態とだけ言っておく。
「失礼いたします、陛下」
私が声をかけると、陛下達は笑顔を、宰相閣下は顰めっ面を向けてくる。
予想道理だな。
「おお来たか黒騎士」
宰相閣下の事は無視して答える陛下。
まぁ、嫌われているの私だから、胃が痛いのは私だけなんだけどね。
「遅れてしまったが、見事だった。コンラット共々活躍を期待している」
「勿体なきお言葉、感謝いたします」
「全力を持って、ご期待にお応えいたしましょう」
私の後にコンラットが言って、頭を下げる。
「ハハ、さて早速だが黒騎士よ、そろそろ」
ああ、アレか。
「はい……ですが私で宜しいのですか?」
「良いのですよ。むしろ貴方が一番適任なのです」
后様に言われ、まぁ確かにと思う。
でもなぁ…。
「エレーネの初めてのダンス、そのお相手を是非お願いいたします。何よりエレーネからの指名ですしね」
そうなのだ、実は昨日皇族の護衛任務を終えて、部屋に帰ろうとしたとき。
――――「ねぇ、黒騎士! 明日の舞踏会では私と踊って!!」
と、お願いされてしまったのだ。
それを近くで聞いていた陛下と后様も、乗り気になって断ることが出来なかった。
そもそも、私が女だって知っているくせに、どうしてそんな発想が生まれるのか分からない。
本当に姫には振り回されるなぁ。
半年も経つと大分なれたけど。
はぁ~、これも仕事と割り切ろう。
事実、姫のお相手に適任な人物がいない。
適当な貴族の男と踊るとなると、後から権力争い的な意味で面倒だし。
殿下は他の貴族との交流がある。
コンラットでは体格的に無理がある。
青長髪イケメンも同じく。
アホ剣士は論外。
筋肉兄さんは……結婚してるし。
本当に最近、具体的には一週間前に聞かされた時は驚きのあまりに叫んだよ。
しかも皆『あれ? 言ってなかったっけ?』な感じで首かしげるから、その後も『聞いてねー!』って叫ぶことになるしで、短いやり取りのはずなのにすっごく疲れた。
まだ会ったことはないけど、筋肉兄さんより3つ年下の幼馴染みで、かなりの美人らしい。
幼馴染みに恵まれて、正直羨ましいと思ったのは内緒。
それはともかく、以上の理由から多くの人に男だと思われている、私しかいない事になる。
さすがに場の空気を読んでいる為、何も言わない。
それでも、睨みをきかせた宰相閣下の視線で、胃がキリキリするのを我慢しながら、ワクワクしている姫の元に行く。
「では僭越ながら、姫一曲お相手を」
「ええ」
頭を下げ右手を差し出しながら言うと、姫が答え手を取る。
私は姫をエスコートしながら、ホールの中央へと向かう。
周りが私と姫の姿を見て道を空け、中央に着く頃には今まで踊っていた人達は、ダンスを止め四方へ散っていた。
ホールに響いていた音楽も止み、指揮者がこちらを見ている。
私達を囲むように、此方を見てくる貴族や兵士達や使用人。
兵士や使用人はともかく、貴族達の視線の意味は色々だが、気にしてはいけない。
私と姫は互いに向き直り、ホールドする。
それを見た指揮者が、指揮棒を上げ、緩やかなワルツが流れ始める。
ワルツに会わせ、ステップを踏み始める私達。
ハハ、一応想定して、アリスに練習相手になって貰ったんだよね。
その時、男性パートだけで良いって言ったのに、もの凄い剣幕で押されて、結局女性パートも練習したんだよ。
なんか女性パートの方が熱心に練習させられたような。
アリスとの練習を思い出しながら、ステップを間違わないように、そして姫をリードしながら、私達は踊り続けた。
**********
俺は、隊長と姫のワルツを眺めている。
そんな俺に、小声で后様が声をかけてきた。
「黒騎士には、申し訳の無いことをしてしまいましたね」
后様の顔を見ると、微笑んでいるが眉が下がっていた。
本当に申し訳無いと思っている時の、后様の表情だ。
俺はそんな后様に言う。
「そんなことは………と言いたいですが、そうかもしれませんね」
否定の言葉を言おうとしたが、正直に答えることにした。
世辞や建前が嫌いな方と言うことは、城で働いている者達なら誰もが知っている。
「隊長の場合、嫌がっている訳では無いでしょうけど……」
本当は女として参加したかったのでは?
声に出さず心の中だけにとどめておく。
それは后様も同じらしい。
隊長は一般的な女と比べて、綺麗な服や化粧になど、全くと言って良いほど興味がない。
寧ろ『カタナ』に夢中と言う変わった性格だ。
だからといって、全く女らしくないと言う訳ではない。
ハヤテと戯れている時、花を愛でる時は微笑み、甘い物が大好きで食べている時の幸せそうな表情など。
隊長を怒らせてしまった時以来、これまでの隊長を思い出して、やはり女性なのだと改めて思った。
そう思うと、ますます不自由な思いをしているのでは? と言う考えが止まらなくなった。
容姿の問題がある為、どうしようもない事は分かっているが。
「そこでコンラット、貴方にお願いがあります」
「え?」
后様に耳をかすように言われ、腰を少し折る。
そして后様から伝えられた言葉に、顔が熱くなり、思わず叫びそうになった口を押さえる。
そんな俺の反応に、満足そうに微笑む后様。
だが……。
「良いのですか? 今回の主役は隊長なのですよ?」
声を最小限に抑え訪ねる。
それに俺も前大会優勝者として、出場が決まっている。
そんな俺と隊長、二人そろってと言うのは問題だと思うが。
だが次の言葉に、俺は脱力した。
「ええ、実はエレーネが黒騎士をダンスの相手にと誘ったのは、私が貴方にこの事を伝える為で、アリスを含めた三人で一月も前から計画していたのです。無論、陛下とクリスも知っていますよ」
い、何時の間に……。
本当にこの方には敵わない。
「引き受けていただけますね」
これはもう強制だよな。
正直俺で良いのかと思うが、隊長の事情を知っている男は俺以外にクロード、陛下、皇太子殿下、カイル、隊長と初めて出会った日、皇族一家を護衛していた兵士数名、使用人数名だけだ。
陛下は今回除外だ。
クロードはアリスを口説いて貰うという、重大な使命があるから省く。
何より隊長とは親友関係である為、論外だ。
兵士達は誰も舞踏会に参加していない。
使用人達は仕事をしている。
残るは、俺、殿下、カイルの三人のみ。
しかし何故だろう、誰にも譲りたくないと言う思いが溢れてくる。
俺は后様の言葉に頷く。
それを見た后様は微笑み、隊長と姫のダンスに目を向け、何も言わなくなった。
さて、隊長に何と言って誘うか考えながら、俺も隊長達のダンスを見つめた。
もっと早く、女心を学んでおくんだった。
**********
ワルツの音楽が終わると、同時にダンスも終わった。
すると周囲から拍手が聞こえてきた。
ああ、そう言えば私達しか踊って無かったから、他は見物人になってたな。
私たちは周囲に一礼し、陛下達の元へ戻った。
「エレーネ、良いダンスだったな。黒騎士、娘の相手、感謝する」
「いえ、姫のお役に立てて、光栄でございます」
そう言って陛下に一礼する。
「本当に素敵でしたよ、二人共」
微笑みながら后様が言う。
姫は褒められた事が嬉しいようで、花が咲いたような笑顔を浮かべ、后様の元へ行き話し始めた。
そりゃ嬉しいよね、初めてのダンスを大好きな両親に褒められたら。
微笑ましい光景を眺めていると、陛下が声をかけてきた。
「黒騎士よ、少し疲れたのでは無いか?」
「え? いえ、そんな事は」
と言ったのだが。
「いいや疲れている、そうに違いない」
「そうそう、黒騎士は疲れているのよ」
陛下と姫がごり押ししてくる。
え? え? 何事?
宰相閣下を見てみると、先刻までの不機嫌は何処へやら、開いた口がふさがらないとはまさにこの事、ポカーンと大きく口を開けて唖然としている。
「それならば、皇族専用テラスで休みなさいな。あそこならば人の目を気にする必要がありませんし、誰も近づく事が出来ないように、厳重な警備がされています。ホールの演奏も十分聞こえますから」
と后様まで陛下に便乗する。
「い、いえ、しかし、私が抜ける訳には」
「コンラット、黒騎士とテラスへ。一人では退屈でしょうから、話し相手になってあげなさい。食事を後で持って行かせますから、ゆっくりなさい。今日は満月がとても美しいですから、演奏を聴きながら眺めるのもいいでしょう」
またも、とんでもない発言をする后様
「え? いや、コンラットまで抜けるのは」
「畏まりました、それでは行きましょう隊長」
「え!? ちょっと、コンラット!?」
終いにはコンラットまで私を無視して、背中を押してくる。
何が何だか分からないまま、なすすべ無くホールから退出した。
・皇族専用テラス
「それでは、ごゆっくりなさってくださいね。陛下から『明日から通常業務故、今日はそのまま部屋に戻るように』とのことです」
「……二人共、陛下達とグルだろう」
コンラットに押されテラスまでやって来た私は、何も分からないまま椅子に座らされ、食事を運んできたアリスがニコニコしながら、『ライトリー』で照らされたテーブルに並べて行くのを見ながら、頭を冷静にさせた。
大方、アリスと后様と姫辺りか?
こんな事考えるのは、この三人しかいない。
「フフ」
アリスは笑った後、一礼してテラスから出て行った。
答えはしなかったが、どうやら正解のようだ。
「言っておきますが、俺はついさっき、后様に言われました。一応俺まで抜けるのは、どうかと言ったんですよ」
苦笑しながらコンラットが言う。
嘘は言っていないようだな。
「はぁ~」
私はため息をついて、マントを残し、鎧をブレスレットに戻す。
髪は何時ものポニーテールでまとめ、式典用の軍服に赤いマントを着用している。
ここには后様の茶の相手をしによく来るから、誰もここには来られない事を十分知っている。
私が鎧やローブを着けずに過ごせる数少ない場所だ。
「あ、下に着てたんですか」
「まぁな、鎧の下が普段着、と言うわけにもいかんだろう」
そう言いながら、背もたれにもたれかかる。
「すいません隊長」
「いや、正直息が詰まりそうだったんだ。タイミング的に助かった」
申し訳なさそうに言ってきたコンラットに返す。
貴族の子供に癒されようと思ってたのに、年頃の貴族令嬢に囲まれるし、大勢の前で姫と二人だけで踊る事になるし、気疲れしそうだったんだ。
「多分あのまま残ってたら、またご令嬢やシャルロットにダンスの相手をしろと迫られていただろうから、ホッとしてるよ」
そう言うと、コンラットは顔を引きつらせて笑った。
「想像出来ますね」
「だろ? さっきは青長髪イケメンに助け求めたのに、彼奴視線そらして見なかった事にしたんだぞ。いやもうコンラットが来た時は、さすが私の補佐って思ったよ」
「ハハ、彼奴は結構ヘタレですからね。お役に立てて何よりです」
いつの間にか、二人そろって笑いながら雑談していた。
内容は本当にごく普通のもので、でも彼とこうやって食事しながら話すのは初めてだなと思いながら、この空気を楽しんだ。
「そう言えばコンラット、君は私に付き合って良かったのか? 本来なら私よりコンラットの方がダンスに誘われそうに思うが」
そう言うと『あー』っと言いながら、目が泳ぐコンラット。
「いえ、その…」
何だろう、とコンラットを見つめていると、彼はため息を吐いて話しだす。
「その四年前の舞踏会で、言い寄ってきた令嬢をあしらって以来、近寄ってこなくなったと言いますか……」
「は? あしらったって、そんな事位で?」
「いえ、その当時の俺は少々棘があったと言いますか、若気の至りと言いますか……」
どんどん歯切れが悪くなるコンラット。
そしてぽつりと呟くように言う。
「あまりにもしつこかったもので、『うるせぇ』って言ったんです」
「…………はぁ?」
ちょっと言っている事が分かりませんね?
「だから『うるせぇ』って言ってしまって以来、怖がられて近寄ってこなくなったんですよ!!」
顔を真っ赤にさせながら、やけくそになったのか叫ぶコンラット。
あぁ……つまり、箱入り娘で世間知らずのご令嬢達は、初めて暴言を吐かれ、未知の体験をして以来、コンラットおびえてしまったと言う事か?
それは、何と言えばいいのだろうか。
言い寄られて苛つくコンラットの気持ちも分かるし、言い寄ってくるご令嬢って言うのは世間知らずが多いから、こんな事を言われたらおびえるのも分かる。
つまりどちらが悪いとは、私からは決められない。
お互いにご愁傷様、としか言えないな。
とりあえずそう言をうとしてコンラットを見ると、真っ赤な顔を伏せ震えていた。
あれ? 犬の耳と尻尾の幻覚が。
いや落ち着け、彼は亜人ではない。
でも、何だか可愛いぞ。
普段の彼からは、とても想像出来ない。
そんなに恥ずかしかったのか?
何だかだんだん、可笑しくなってきた。
「ブッ!」
「ちょっ! 隊長!!」
ついに吹き出した私に、真っ赤のまま顔を上げるコンラット。
それがまた壷に入ってしまい。
「アハハハハハハッ!」
お腹を抱えて笑い出してしまった。
なんか前にもあったな、こんな事。
「ああ~笑った笑った!」
「笑いすぎです……」
片手で顔を覆うコンラット。
「いやぁ、ごめんごめん」
『フ~』っと息をつき落ち着く。
いやもうコンラット面白すぎ。
「てことはアレか? それ以来、ダンスに誘われることが無くなったと」
「その通りです」
顔を手で覆ったまま返事をする。
相当恥ずかしかったらしい。
ごめんねコンラット。
「もったいない事するな、ご令嬢達は」
「え?」
私の一言で顔から手を離し、呆気にとられた顔をする。
「だってそうだろ? 昔はともかく、今のコンラットって顔も良いし体格も良い。その上仕事も出来て、気配りもできる。こんないい男そうそう居ないって言うのに」
「い、いえ……ありがとうございます」
今度はほのかに頬が赤くなり、照れている表情のコンラット。
おまけに可愛いとか最強じゃん。
さすがに可愛いは言えないけど。
「まぁ、そんなんで舞踏会ではダンスに参加せず、アドルフ達や陛下と話をして過ごしていたんです。今まで一度も踊った事がないんです」
「ん?」
あれ?
なんか聞き間違えか?
「参加してない?」
目をパチパチしながら聞く。
「はい、そうですが?」
と今度は、それがどうしたと言う感じで答えた。
いやいや、いくら誘われないからって、それってどうなんだ?
あ、でもコンラットならあり得るかも。
彼って私と同じで、きらびやかな事が苦手だったはず。
半年しか一緒にいなくてもそれぐらいは分かった。
でも、一度ぐらいは……。
「なぁ、良かったら私と踊るか?」
「………へっ!?」
って、私何言ってんだ!?
コンラットもビックリしてるだろう!?
「あっ、その、ほら、ここ今私達しかいないだろ。それにワルツの音楽だって聞こえるし、ここって踊るには十分な広さがあるし、偶にはこう言うのも楽しんで良いんじゃ無いかと……」
本当に何言ってんだ私は。
あぁ~、恥ずかしくて顔が熱くなってきた!
「あ~! ごめん今の「お、俺で良かったら!」……え?」
あれ? 何て?
何を言われたのか頭が付いていかず、呆然とする私。
コンラットは立ち上がり、驚いた顔をしている私の横まで来たと思ったら、背筋を伸ばし、深く息を吸った後
「私と、一曲お相手願えますか?」
左手を胸に当て、右手を差し出し、目を閉じて一礼するコンラット。
月明かりをバックに一礼する姿に、さっきとは別の意味で頬が暑くなり、気づけば
「はい」
と無意識に手を取って、答えていた。
手を取って立ち上がり、コンラットにエスコートされながらテーブルからはなれ、互いに向き直る。
『ライトリー』の明かりから離れて薄暗くなったが、近くで見たコンラットの顔は赤くなっている。
その顔を見て何だか落ち着いた。
ああ、コンラットもドキドキしてるんだ。
そう思ったら、頬がゆるんだ。
「一応アリスに、女性パートも練習させて貰ってるけど……ちゃんとリードしてくださいね、騎士様」
そう言って笑ったら、コンラットは驚いた後、
「お任せください、レディー」
と微笑みながら言ってきたので、今度は私が驚いた。
互いに驚かされ、この状態が可笑しくなって、
「「プッ」」
二人して吹いた。
私たちは互いに背筋をただし、私はスカートの代わりにコートの裾を掴み、コンラットは左手を胸に当て、互いに一礼してホールドする。
そして流れるワルツの曲に合わせて、ステップを踏む。
月明かりに照らされて二人っきりで踊る。
何だかロマンチックだ。
相手が軍服姿の私で申し訳無いけど、素敵な殿方を独り占めするのは、女として優越感を感じる。
たまには女らしい事をするのも悪くない。
人生初めてそう思った。
**********
本当は俺から持ちかけるはずだったんだが、アドルフの事は言えないな。
隊長とダンスを踊りながら、心の中で呟く。
后様に
――――「この後、皇族専用テラスで、チエのお相手になってくださいな」
って言われて、機会を伺っていたんだが。
隊長から誘われるとか、かっこ悪すぎだろ俺。
でも……いいかな。
女としての隊長を独り占め、って言うのも悪くない。
月明かりに照らされる隊長の姿は、黒髪と黒い瞳も合わさり、月の精のようだ。
場の雰囲気に酔ったのか、普段の俺ではとても考えられない事を思ってしまう。
しかしその言葉が似合うほど、隊長は月が似合う。
こんな隊長を、俺だけが知る事が出来たと優越感を感じ、引き受けて良かったと思いながら、俺達は月夜の下で踊り続けた。
**********
・数日後
私は今、二種類の資料を持って、陛下の執務室へと向かっている。
ようやく報告出来るほど、情報が集まった。
大会までに間に合い、本当に良かった。
執務室の前に立ち、深呼吸をして
――――コンコン
とノックする。
「誰だ?」
「陛下、閣下、黒騎士です」
中から宰相閣下の声が響き、答える。
「入れ」
今度は陛下の声が聞こえ
「失礼いたします」
と中へ入る。
案の定、宰相閣下に睨まれるが、今回は気にしていられない。
「陛下、閣下。至急ご報告しなければならない事がございます」
そう言って、資料の一つを陛下に渡す。
しばらく、資料を読んだ陛下は目を見開き
「これは!」
っと声を上げる。
「陛下、いかがなさいましたか」
「レイズ、お前も読んでみよ!」
陛下から資料を受け取り読み始め、次第に顔が青ざめていく宰相閣下。
「一体どういう事だ!」
声を荒げる宰相閣下。
「ごらんの通りです。報告が遅れて申し訳ございません。ですが表だって動いてしまえば、事態が悪化すると判断し、独自で調査しておりました」
そう言って頭を下げる。
宰相閣下も理解してくれたらしく、それ以上怒鳴る事は無かった。
「黒騎士、よくぞ気づいてくれた」
「いえ、とある情報屋が、極秘に知らせてくれたのです。その方は念のため安全な場所に保護させていただいております」
本当、アーロンさんには感謝しかない。
この件に首を突っ込んだら、命の保証が無いと言うのにギリギリまで調べて、知らせてくれたんだから。
「これでは三国武道大会を、予定通り行うべきか……」
「そうだな、二国には文を「お待ちください」ん?」
陛下の言葉を失礼ながら遮る。
「大会は予定通り行っていただきます」
「な!? 何を言っている」
「……何か考えがあるのだな」
私の考えをお二方に伝える。
「このまま予定を変更してしまえば、かえって怪しまれ兼ねません。むしろ、事態が悪化する可能性の方高いかと」
「フム、一理あるな」
「……」
お二方は理解し、話を聞く。
「ですので大会はそのまま予定通りに。そして、このように兵の配置を」
そう言ってもう一つの資料を見せながら説明した。
「まさか、そんな事を」
「だが、これならば」
お二方共に目を見開き、そして納得したように、頷いてくれた。
「では早速、配置を兵に」
「すでに兵には指示しています。先ほど報告したことは極秘にしておりますが」
「……早いのう」
陛下だけでなく宰相閣下までも驚いた顔をする。
そんなお二人を見て、アーメットの下で頬がゆるむ。
「この事は隊長、副隊長のみにだけ知らせます。敵に悟られない事がこの作戦の鍵になりますので」
「分かった、ならば早急に会議を行う。会議室へ集合させよ」
「ハッ!」
返事をし執務室から出て行こうとした。
その時
「黒騎士、『カラス』は元気か?」
「……ええ、偶につつかれて大変です」
「カラス?」
『カラス』と言う言葉に宰相閣下は首をかしげるが、さほど気にすることは無かったようだ。
これは私と陛下の間の暗号のようなもので、主にコンラットとアリス以外の人間が居る時に使われる。
クロードの事は私を含めた四人だけの極秘であるため、どうしても聞きたい時は『カラス』と読んでいる。
さっきの言葉を訳すと。
『クロードは元気か?』
『はい、偶に喧嘩する位には』
と言うことだ。
とりあえず動物に呼び方を変えれば、大抵怪しまれないと判断した結果だ。
私は一礼し執務室を出る。
さて、これから暫く忙しくなるぞ。
To be continued
あとがき
何時もながら大変お待たせいたしました。
第29話いかがでしたでしょうか。
今回少し甘い雰囲気を書いてみました。
もっと早く書けると思ったのですが、日常が忙しくなかなか進まず、気づけば年が明けていました。
時間がほしいです。
こんなに遅い更新ですが、待っていてくれた方々に、感謝してもしきれません。
今月のシフト(十六日から十五日まで)は珍しく、二連休が二回もあるので、二話更新しようと思います。
次回、時間が一気に飛びます。
私自身さっさと二章、三章を終わらせ四章に行きたいので、ちょっと本気を出すつもりです。
今後ともこの小説をよろしくお願いいたします。




