表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者より最強な黒騎士  作者: 暁 桃香
三国武道大会編
22/43

第20話 各隊と予選・1日目、騎士隊(後編)

第20話 各隊と予選・1日目、騎士隊(後編)






・とある一般観客席


 智慧が退場するのを見送りながら、俺は思った。


 アイツ全然本気出してねーぇ!


「アレが、ドラゴンを倒した騎士の実力……」


「すごい……」


「まさしく、黒い一角獣ユニコーンに選ばれた騎士様ね」


「………」


 俺の横で、カレン、アーシェ、ローナが驚きながら呟く。


 アリスはその言葉を聞いて不満なのか、無言で一言も話さない。


 当たり前だ、あんなので実力が分かったような言い方するんじゃねーよ。


「黒騎士様、全然本気じゃありませんでしたね、クロードさん」


 アリスが俺に話を振る。


 俺に向けた顔は同意を求めていた。


 どうやらアリスも、アレだけで分かったような言い方をした3人に怒っている様だった。


 同意見だった俺は、アリスの言葉に答えた。


「全くだ。明らかに力を押さえていやがる」


 その言葉を聞いたアリスは嬉しそうに、ニッコリ笑いながら頷く。


 可愛いな……。


「あっアレが本気じゃないですって?」


 ローナの声が聞こえ、俺とアリスが3人に顔を向けると、驚愕の表情をして俺達を見ていた。


 それもそうか、アレが本気だと勝手に思いこんでいた此奴らにとって、実は違うと言う事実は驚いても無理もない。


 だが此奴らのためにも、今のうちに真実を教えておいた方が後々良いに決まっている。


 アイツと毎晩訓練している俺でも、驚く事だらけで頭がパニックになりそうになる事がしょっちゅうある。


 確かにさっきの試合、相手の剣筋は切れがあり、スピードもなかなかの物で普通は避けるのはかなり難しい(俺は余裕で避けられるけど)と思うが、それをチエは最小限の動きで軽やかに、そして素早く避けていた。


 素人なら、コレで実力が分かったと思っても仕方ないかもしれない。


 けどそれ以前に、


「当たり前だろ? だいたい『ファフニール』と『帝国軍・班長』じゃ力の差がありすぎて、アイツの力量を計るには力不足だ」


 そうだよ、よく考えれば普通の人間相手に戦っているアイツを見ても、アイツの実力が分かるわけなかったんだ。


 てことはアイツ、今日は手加減して本気ださねぇな……。


「「「………」」」


 俺の言葉を聞いて、言葉が出なくなったのだろう。


 その三人を見てアリスは、当然といった感じにニコニコした顔で、現在行われている班長同士試合を見ていた。






**********





・軍人関係者専用観客席


「分かっていた事だが……」


「本気の『ほ』の字も出してなかったな、黒騎士……」


 俺の横でブランドンとアドルフが呟く。


「当然だ! 班長相手に黒騎士殿が本気を出すわけないだろう!」


 セレスティアが胸を張って断言した。


 その言葉に俺とエイミーは同意する。


 あの呪い竜『ファフニール』を一撃で倒した隊長が、班長に本気を出すとはとても思えなかった。


「てことは、騎士戦は見所がないって事か」


 がっかりしたように言うアドルフ。


 その言葉に『カチン』ときた。


「おいアドルフ、お前俺と隊長・・の隊を馬鹿にしてんのか?」


 ギリッとアドルフを睨み付け声にドスをきかせて言う。


 大事なところだから『隊長』と所を強調して。


「こわっ! ちげーよ! 単に黒騎士の実力が少しでも見れるかと思って楽しみにしてたから、それが見れないと分かってがっかりしただけだ! 別に騎士隊が弱いとかそんな事いったんじゃねぇ! てかお前何処まで黒騎士中心なんだよ!?」


 声を張り上げながら否定するアドルフ。


 何処まで隊長中心だと?


「すべてに決まっている」


 真顔で断言する。


 何故かアドルフと一緒にブランドンが顔を引きつらせているが、気にせず部下達の試合を観戦する。


 うん、隊長の指導のお陰か、全員攻撃の切れが良い。


「しかし、確かに黒騎士殿の実力が見れないというのは惜しい」


「み…見た…かった」


 残念そうに言うセレスティアとエイミー。


 彼女達は純粋に隊長を慕っているため、少し可愛そうに思えた。


 だが落ち込むには速い。


「何を言っている? このまま隊長が勝ち進めば、決勝戦の相手はカイルだ。アイツなら他の班長達と違った戦いが見れるかもしれないぞ? 」


 その言葉を聞いて4人の顔が俺に向けられた。


「ああ! 確かにアイツならそこそこの戦いが出来るかもしれないな!」


 アドルフが納得したように言った。


「なるほど! アヤツの実力ならば」


 セレスティアも両腕を組んで相づちを打つ。


 ブランドンとエイミーも納得しながら頷く。


 カイルの実力をよく知っている俺達だから分かる。


 俺たちは騎士隊の試合を観戦しながら、決勝戦を楽しみにするのだった。


 隊長と、帝国宰相閣下レイズ・スラースの息子であり、元騎士隊副隊長、現班長カイル・スラースの戦いを。






**********






・時は流れて決勝戦、グラウンド





――――ワァァァァァ!




 一回戦から順調に勝ち進んでいき、現在騎士戦・決勝戦。


 相手は元騎士隊副隊長、現班長のカイル・スラース。


 私がこの世界で初日に遭遇し、私の容姿と性別を知る数少ない一人で、緑髪の騎士さんだ。


「隊長、よろしくお願いします」


 他の班長達と違って落ち着いた態度で頭を下げる。


 角度45度の日本人の私から見たら、とても綺麗な礼だ。


「此方こそ、よろしくお願いします」


 その礼に答えるように、私も45度のお辞儀で返す。


 どんなときでも礼は基本だ。


 私は頭を上げて、緑髪の騎士・・・カイルを見る。


 穏やかな目つきに、整った鼻と口は誰が見ても笑顔が似合うイケメンさん。


 西洋人風の人間が住んでいるこの世界は、イケメンが多いと思う。


 鎧は髪と同じ緑色の塗料が塗られた、プレート・アーマーを着用。


 髪は切りそろえられた短髪で、身長は約180クアメイト位と思われる。


 元副隊長の実力通り、他の班長達と比べれば別格の実力者だ。


 そして、私から見て左側の現在皇族専用観客席にて、皇族一家のすぐ真横に控え、私をものすご~く! 睨み付けているレイズ・スラース宰相閣下のご子息だ。


 入隊してもう半年になるのに、今だ宰相閣下から嫌われている私。


 確かに初めは印象悪かったと思うけど、私それ以外には、あの人が嫌悪するような事したおぼえ一度もないよ?


「ハァ~」


 ついため息をついてしまった。


「? ………あ」


 ため息をついた私に首をかしげ、私がさっき一瞬だけ見た方向にカイルが視線を向ける。


 私がため息をついた原因を、確認して納得したようだ。


「……申し訳ございません、父が」


 申し訳なさそうに謝罪してきたカイル。


 性格が正反対な親子だな。


「私、閣下に何かしただろうか?」


「いえ、父が頑固なだけです」


 気にしないで下さいと、再び申し訳なさそうにするカイル。


 ホントに中身が似てないなこの親子。


 外見だけ見れば親子なのだが、父親の宰相閣下は頑固者で刺々しい性格、息子は見た目の雰囲気通り穏やかな性格だ。


 きっとカイルは母親似だな。


「それでは両者、構え!」


 しばらく考え事をしていると、審判が構えるように言った。


 駄目だ駄目だ、今は試合に集中。


 私とカイルは約5メイトほど感覚をあけ、私は中段の構え、カイルは片手で木剣を持ち前に構える。


 私は深く息を吸い、吐き出して心を落ち着かせる。


「それでは……初め!」




――――ダンッ!




 私は合図と同時に前に踏み出す。


 軽く踏み込んだつもりだったけど、カイルの元まで一気に詰め寄れた。


「!? グッ!」


 反応が遅れたカイルだが、私が振り下ろした木刀をすんでの所で、木剣で防御した。


 うん、やっぱり他の班長達と違って反応は若干早いな。


 それでもやはり動きが遅いと思うのはしょうがない。


 私は他の班長達より若干力を出しながら、カイルを攻めていく。


 正直今までの試合は、試合と言うより稽古だ。


 あの後相手にした班長達との試合、つい何時ものクセで指導してしまった。


 だからせめて決勝で当たるカイルとは、稽古ではなく試合をすると決めていた。




――――ガッ! カンッ!




 集中しているせいか、木刀と木剣の打ち合う音しか耳に入らない。


 時々カイルが負けじと反撃をし、それを木刀で受け流す。


 時代劇物の映画の対決シーンを頭で再生しながら、真似るように木刀を振るう。


 それを約5分位続けてた。


「グッ! ハッ!」


「………」


 私が打ち込みカイルが押し返した後、片手で木剣を持ち突きをするカイル。


 それを無言で右に避けて思った。


 それは上手くないぞと。


 突きその物には威力があるが、避けられてしまえば大きな隙が出来る。


 私は木刀を下から少し力を込めて、振り上げる。




――――ガッン!




「!? しまった!」


 鈍い音と共に、カイルの木剣を空高くに弾き飛ばし、焦るカイルを見ながら、木刀を右手で持ちカイルに地を蹴る。


 右手で持った木刀の剣先を部分を左に向け、焦って避ける暇もないカイルを横切る瞬間、刃の部分をカイルの腹に叩き付け、少しだけ力を込めてカイルを吹っ飛ばす。


 約10メイトほどの所でカイルは地面に叩き付けられ、5メイトほど地面を滑り止まった。




――――カランッ!




 上に弾いたカイルの木剣が落ちる音を、右腕を横に伸ばし、木刀を真横一直線に持って体勢を低くした状態で聞いた。


 なぜだか周りが静かだ。


「……ハッ! 勝者黒騎士!! よって、騎士戦優勝者は黒騎士!!」




――――ワァァァァァァァ!




 どうやら周りが静かだったのは、歓声がしていなかったからのようだ?


 どうしてみんな黙っていたのだろう?


 決勝戦前はあんなに騒いでいたのに。


 私は木刀を下ろし、今だ仰向けに倒れているカイルに駆け寄る。


「カイル、大丈夫?」


「は、はい……グッ」


 起き上がったカイルはお腹を押さえて唸る。


 鎧を見ると凹んでいるのが分かる。


 あっちゃ~、木刀だからって少し力を入れすぎた。


 試合は選手全員鎧を着るから、使用する武器が破損しないように魔導師が補強魔法をかけているのを忘れてたのも悪かったか。


 しかし魔導師よ、鎧を凹ませるとか、どんな補強魔法かけたんだ……。


 まぁ、それプラス私の力加減が問題なんだけど。


「ごめん、やり過ぎた」


 私は謝罪しながら、体勢を低くし右手を差し出す。


「いえ、良い勉強になりました」


 私の右手を掴み立ち上がりながら言うカイル。


 カイルの表情は、腹部が痛いはずなのに、清々しいすっきりとした表情をしていた。


 とりあえず彼の様子からして問題なさそうだ。


「隊長! 絶対に代表になって下さい!」


「ああ!」


 カイルの応援の言葉に応えた後、互いに礼をしグラウンドから退場した。


 ただいまの時刻15時過ぎ。


 約1時間の休憩を挟んで次は剣士隊の試合が始まる。


 ふぅ~、お腹すいた!


 ぶっ通しで試合してたから、お昼まだなんだよな。


 この後は休みの予定だから、屋台でアイツの分のお昼買わないと。


 遅くなると五月蠅そうだから急ご。


 私は廊下を急いで通り、屋台が出ている闘技場外の広場へと向かった。






 でも、木刀や木剣の補強をした魔導師って誰なんだ?






**********





・軍人関係者専用観客席


「…凹んだ」


「凹んだな」


「凹んだぞ」


「凹んだのだが」


「……やり…過ぎ…た」


 俺、アドルフ、ブランドン、セレスティアの順番に、試合に使う武器の補強魔法をかけたエイミーを見ながら言った。


 恥ずかしそうに反省するエイミー。


 さっきの試合でカイルの鎧を凹ませた木刀。


 間違いなく何処にでもある木を、隊長が削った物だ。


 少しだけなら凹んでも可笑しくはないかもしれないが、補強魔法がかけられているとはいえ棍棒で衝撃を与えた凹み方をしている。


 女であるセレスティアでさえ本気で攻撃すれば、隊長と同じように鎧を凹ませられる、それほど強い補強魔法がかけられているのだ。


 俺達の顔は引きつっている。


 確かに隊長が強いのもあるが、4年前の大会に使われていた木剣の補強と、今年の補強は別格だ。


「やり過ぎにもほどがあるだろ! ただでさえ木剣が当たったら普通に痛てぇのに、あれじゃ凶器じゃねぇか!?」


 アドルフが冷や汗を流しながらエイミーを怒鳴る。


 気持ちは分かるぞ。


 おそらく木剣以外の、木製の槍・打撃武器・矢も似たような補強がされているに違いない。


「コレは『補強』ではなく『凶化』だな…」


 セレスティアが冷や汗をかき、笑顔だが引きつった表情で言った。


 字が違う気がするが、ある意味間違っていないだろう。


 このまま気づかずに他の試合をやっていれば、怪我人以上に死人が出かねない。


 今気づけて本当に良かった。


「後で隊長に事情を言うぞ。その後で全部の補強魔法かけ直せ」


「……は…い」


 俺の言葉に落ち込むエイミー。


 隊長を尊敬している彼女にとって、あるまじき失態だ。


 可愛そうだが今回ばかりは仕方がない。


「さて、明日からの試合は問題ない。だが、これから行われる剣士隊の試合は……間に合わん」


 ブランドンが顔を引きつらせながら言う。


 確かに、剣士隊の奴らには今のままで試合をしてもらわなければならない。


 哀れ剣士隊。


 ま、まぁ俺の隊も決勝まで何事もなかったし!


 大丈夫だろう!


 ………。


 死ぬなよ。






**********





・とある一般観客席


「「「………」」」


 私の隣で3人共、ポカーンとした表情して固まっています。


 クロードさんは食べ物を買いに行って下さって、今はいません。


 クロードさんにお願いされて『2つ』席をとっています。


 フフ、なるほど。


 もう一つの席が誰の席が分かりました。


 本当に仲の良い親友同士ですこと。


 それにしてもこの三人、何時まではしたない表情をしているのやら。


 一人前の侍女になるには、まだまだ掛かりそうです。


「こら、3人共学生と言えど、侍女がそのような表情をしてはいけません!」


「「「!?」」」


 やっと我に返った3人。


 やれやれ先が思いやられます。


「全く、前もってクロードさんが心の準備が出来るように、教えて下さったというのに」


 呆れながら私は3人にいいました。


「いやだって! 速すぎて良く分からないし、すごすぎて頭が混乱するわよ!」


 カレンが抗議するように言いました。


 この程度で混乱するとは、やはり武術は使用人の嗜みの一つと侍女長様や執事長様が言っていた事が良く分かりました。


 使用人たる物どんな時でも冷静に!


 どんな時でも主のために仕事をこなし、サポートをする。


 たとえそれが戦場であろうとも!


 それが城仕えの使用人である私達の使命!


 城に使える事になった時からの教えです。


 本来なら通う必要はないらしい使用人学校ですが、一応学校卒業の証は合った方が良いと侍女長様にご忠告されたので通っています。


 お陰で友人が沢山できました。


 しかし何時も思います。


 執事科にある『武』の科目を、侍女科にも組み入れるべきと!


 私の様な城仕えは12歳から城に入り、それそれに合った武術を教わります。


 それに比べて他の貴族の家柄は使用人学校を卒業して、武術の心得を学ばずそれそれの屋敷へ使えます。


 そんなもので、主を支えることが出来ましょうか!


 我々使用人は肉体労働。


 それだけでなくドロドロな貴族達の裏の顔を見ることはしばしばあります。


 中には精神的な病に陥る事もあるそうです。


 そのためにも武術は必要不可欠!


 黒騎士様も仰っていました、肉体を鍛える事によってその分強い精神が身につくと。


 まさにその通りです。


 その結果が今の私と3人の違いです。


「侍女を目指す者ならば、どんな時でも冷静に! だから武術を勧めているのに、あなた方が嫌だ嫌だと言っているから、今日の様に混乱してしまうのです! 精神がたるんでいる証拠です!」


 良い機会なので確り言い聞かせなくては。


 私は決して、彼女達が嫌いなのではありません。


 友人として、侍女の行く道は甘くない事を教えたいだけです。


「今からでも遅くありません。武術を学び、精神を鍛えてこそ、一人前の侍女へ一歩踏み出せるのです」


「……もしかして、城の使用人達全員、武術の心得があるの?」


 アーシェが怖ず怖ずと質問する。


「当然です。私達城仕えすべて何時いかなる事への対処として、武術を心得ています」


 何が起こるか分からないのが今の世の中ですから。


「そ、そう言うのは普通兵士の役目ではなくて?」


 ローナが顔を引きつらせて言った。


 そんなに武術を学ぶ事が嫌なのですか?


 しかし、そうはいきません!


「兵士様方より主のそばにいるのは、私達使用人! もし暗殺者や魔物が襲撃してきた時、側にいる者が対処するのが当然の義務!」


 事実、皇族が狙われる事がございました。


 その時は我々使用人も皇族を守る事に奮闘しました。


 アサシンの集団と戦った事もあります。


「私は3人が嫌いだから言っているのではありません。むしろ大好きな友人だからこそ、言うのです。今すぐでなくても良いので、ゆっくり考えてくだざい」


「「「………」」」


 すっかり黙り込んでしまった3人。


 少々きつい言い方でしたが、仕方ありません。


 今まで散々穏やかに言ってきたのに、分かってもらえなかったのですから。


「さて、お説教はこれでおしまいです。もう少しでクロードさんが美味しい物をいっぱい買ってきて下さいますから、気持ちを切り替えて剣士隊の試合を楽しみましょう」


 何時もの様に笑顔で言う。


 笑顔も使用人にとって、とても大切なお仕事の一つです。


「……そう言えば先刻からいないと思っていたら」


 カレンが辺りを見渡して言う。


 かなり前から居なかったのですが、気づかれなかったのですね。


「それともう一人、クロードさんのご友人が来る予定なのですが……まだの様ですね」


 騎士隊の試合が終わって40分ほど発ちますが、あの方もなかなか姿を現しません。


 この後は休みを取ると言っていたので、間違いなくあの方が来る予定なのですが。


「え? もう一人来られますの?」


「アリスの知り合い?」


 ローナとアーシェが質問します。


「ええ、良く知っている素敵な方です」


 笑顔で質問に答えます。


 心なしか、声も弾んでいます。


「へ~ぇ、あんたがそこまで言うなんてね」


 カレンが珍しそうな表情で言いました。


 何かいろいろ引っかかる言い方ですが、気にしないようにしましょう。




――――「お前手加減しすぎだったんじゃねぇか?」


――――「ん? そんなことないと思うけど…」




 ふと聞き覚えのある声が2つ。


「あ、帰ってきたようね」


「前者は野蛮人の声みたいね」


「もう一人は?」


 カレン、ローナ、アーシェが言う。


 一人は誰の声か分かったようです。


 しかし、後者の声。


 まさか!


「失礼します!」


「え? って! アリス早っ!」


 カレンの声が後ろからしましたが、気にしている場合ではありません!


 まさか、まさか!


 出入り口付近で探していた御2方はすぐに見つかりました。


 1人は私が恐れていた通りの姿で。


「あ、アリス。どうしたのそんなに慌てて?」


 何時もの様に、なんてことないと言う風に目の前のお方…黒騎士様は私に聞いて質問してきました。


 恐れていた通り、両手いっぱいに食事や飲み物を抱えた姿で。


「あ……ああ…」


「アリス? どうした?大丈夫?」


「……大方お前の格好が原因だろう」


 言葉にならない声をだす私に変わり、クロードさんが代弁してくれました。


 クロードさんありがとうございます!


 ああ、何て事でしょう!


 主に、食事を買いに行かせてしまった私は、使用人失格ですー!







**********






 今俺達の前に、珍しく取り乱したアリスがいる。


 原因は間違いなく俺の隣にいる黒騎士姿のチエのせいだ。


 侍女のアリスにとって、主であるチエにメシを買わせ、持ってこさせてしまった事を後悔している様だ。


 チエ自身公爵の地位がある貴族だが、元々が庶民の家庭で育ったらしく、貴族らしくない。


 チエ曰く、


『無茶な事以外は自力で何とかする! それがサイトウ家の教えだ』


 だそうだ。


 時々話してくれるチエの家族って、パワフルと言うかワイルドと言うか、正直無茶苦茶だな。


 チエも偶に遠くを見ていることがある。


 そんな感じの家で育ったせいか、チエは人を頼ろうしない。


 それを理解している俺は、チエの普段の行動を見ても特に驚くこともなく何とも思わないが、侍女であるアリスや、部下であるコンラットさんは別のようだ。


 頼ってほしくて仕方がないらしい。


 そして今が頼って貰えなくて、本来の自分の仕事を主にさせてしまったと取り乱しているアリスが目の前にいる。


 だが今回ばかりは仕方がない。


 元々俺が場所取り、チエがメシを買いに行くと予定していたのだから。


 そこに偶然アリス達が合流して、アリス達の分を買うために席を立ち、チエと合流。


 事情を説明して、5人分のメシや菓子、飲み物を2人で運んで来たのが現状だ。


 アリスに落ち度はない。


 大体今日は休暇のはずだから、仕事する必要ない気がするが、そう思えないのがエイデン兄妹だ。


 この半年で良く理解したよ。


「……アリス、今日は仕事はお休みだから良いんだぞ」


 チエもアリスがこうなっている理由を理解したらしく、アリスに言い聞かせる。


「で、でも…黒騎士様の…お、お世話…」


 動揺で声が震えている。


 さすがにこの状態のエイデン兄妹を静められるのはチエだけだ。


「良いんだよ。アリスはまだ14歳で成人していないんだから、今日は大人の私とクロードに甘えなさい」


 ちゃっかり俺の名前も出して、甘える様に促すチエ。


 嬉しいが俺には分かる。


 兜の下の顔はにやけているに違いない!


「………はい」


 渋々ながら落ち着いてきたアリスは納得した。


 さすが慣れてるなチエ。


「さて、お腹すいたから席に座ろ。そろそろ剣士隊の試合が始まる時間だし、3人待たせてるんだろ? 」


「あ、そうですね! さぁ、黒騎士様荷物をお預かりします」


 何時もの笑顔が戻り、チエから荷物を預かろうとするアリス。


 それをチエは断った。


「先刻も言っただろ? 今日はアリスは甘える側だから、コレは私が持つ。どんどん甘えなさい、特にクロードに!」


「お前な……」


 此奴ぜってぇ楽しんでやがる。


 とまぁ、チエに若干腹を立てながら、俺たちは元の席へ戻った。


 戻って来たことに気づいた3人は、振り返った瞬間の顔は待たされた事への不機嫌全開の表情だったが、チエを見た瞬間、アホ顔で呪いに掛かった訳じゃねぇのに石化した。


「お~い、君たち?」


 チエが手を振っても反応なし。


 呪いじゃない石化だから問題ないと判断した俺達は、3人を放置してメシにすることにした。


 俺を挟んで3人で手を合わせ


「「「『いただきます』」」」


 チエの故郷のメシ前の挨拶をして食べ始める。


 チエの故郷の言葉は発音が難しかったが最近『いただきます』は言える様になった。


 俺、この言葉結構好きだ。


 使い捨てのフォークで蒸し芋を食う。


 あ、結構イケる。





剣士隊の試合が始まるまであと10分。







To be continued

あとがき


第20話をお送りしました。


今回はまじめと見せかけてギャグ要素を取り入れてみましたが、楽しんでいただけたでしょうか?


アリスが取り乱すと言う、珍しい一面をお見せ出来たと思います。


咳喘息もようやく治まりましたので、次の更新はもう少し速くしたいと思います。


誤字は後々修正していきます。


何時も読んでいただき誠にありがとうございます。


今後もこの小説をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ