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俺と彼女らの7日間  作者: 瀬尾優梨
7日目 花嫁と4人の小姑
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 天井を震わせたその一言に、さしもの姦しテディも黙り込んだ。サランは姉にさすられている手をぎゅっと握りしめ、うるんだ瞳で俺を見つめ上げてきた。

「わ、私はアーク様に、幸せになっていただきたいだけなんです! アーク様が望まれるなら、姉様との婚姻でも何でも、心から祝福したかったのです……もし、誰とも結婚したくないならば、何ごともなくうちを出られる手助けをしたいと、思ってただけなんです……」

 その一言でだいぶ納得がいったんだろう、姉たちも互いに顔を見合わせ、再びサランに目を落とした。

「でも、その公子様がサランを選んだんだよ? サランと幸せになりたいって言ってくれたんでしょー?」

 慰めるようにテディも言うが、サランはまた、勢いよく髪を振って否定する。

「で、でも! 私、何も姉様たちに勝てないのに! 美人でも、賢くも、強くもないのに! なのにどうして、私を選ぶのか……分かりません! そ、それに私は何のお役にも立てないのに……今日だって、結局役立たずだったのに……」

 今まで見てきた淑やかなサランらしくもなく、小さな子どものようにわあわあと声を張り上げるサラン。

 きっと、ずっと溜めてきたことなんだろう。姉よりも劣っている、勝てる要素がない。姉たちは優しいが、ずっと劣等感に苛まれていたんだろう。だから、俺がサランを選んだことも受け入れられない。この期に及んでも、姉弟子と自分を比べてしまう。


 腰を曲げて、俺は足元に潰れたままのネックレスの袋を拾い上げた。ちょっと中の綿が片方に寄ってしまってるみたいだが、ネックレスに異常はないだろう。

「……でも俺は、サランといるときが一番くつろげたと思うよ」

 今までの経験を振り返りながら、そう口にする。会話を交わしたことや、よく晴れた中庭で作業をしたこと。昨夜、サランの申し出を聞いたこと。

「それに、俺は別にシャリーたちとサランを比べたわけじゃない。五人いれば五人、性格や特性も違うだろ。誰にだって一長一短はあるし、その個人差に優劣付けることはできないんじゃないかな」


 シャリーにはシャリーの。ユイにはユイの、そしてサランにはサランのよさや特徴がある。長所もあれば短所もある。そういうもんだ。完璧な人間なんていないんだから、星の数ほどいる人間のランク付けなんて無理だ。

「俺は、サランの優しいところや他人想いなところが好きだよ。そりゃ、ユイみたいな速記能力やテディみたいな馬鹿力はないだろうけど、サランはサランでいいだろ。で、俺はそんなサランがいいと思ったんだ」

 なぜサランを選んだのか。細かく突っ込まれれば答えに窮してしまう。でも、人が人を好きになった理由なんて、ぽんぽん言えるわけじゃないだろう。この人ならやっていけそうだと思った。そういう思いだって強いと思う。

 それでもまだ納得がいかないのか、サランは俯き……俺の手の中にある袋からさっと目を反らし……ボソボソと口を開く。

「でも……私、豪華なお料理なんて作れません」

「大丈夫、コックがいるし……たまに、昨日みたいな家庭料理を作ってくれれば十分だ」

「……魔法も、人並み以下ですし……」

「別に魔法できるから偉いわけじゃないし。俺なんてかけらも魔力を持ってない」

「……び、美人でもないですし……」

「そうか? サランは十分かわいいと思うぞ」

 うっ、特に考えずに言葉が口から出てきた。いや、お世辞を言ったわけじゃないんだが……俺、いつの間にサラリと褒め言葉が言えるようになったんだろう。

 俺の内心を知るはずもなく、それを聞いてかあっとサランの頬が赤く染まる。さっきまで血の気が引いたかのように青白かったから、頬染めは純粋に嬉しかった。

「……あ、の、それに……」

「うん?」

「……えっと、ち、嫡男の、ことも……」

 耳まで真っ赤になってようようそう告げ、それっきり口を閉ざしてしまうサラン。その振る舞いからも、あー、こういう話題には不慣れなんだな、としみじみ思える。何せこの家の女の大半は放送禁止用語族だったから。サランがその色に染まってなくて、よかった。


 ……や、別に俺はある意味耳年増だし、そーゆー話しても赤面する歳じゃないんだが……目の前で真っ赤になられると、こっちまで気恥ずかしくなってきた。無様に赤面していないことを、祈るのみだ。

「……あー、そういうことは別に心配しなくていいから。ほら、知っているようにうちの両親は気ままだから。プレッシャーとかも、かけるわけないし」

「……はぁ」

 熱を持っている頬に手を当てながら、サランは不安げな眼差しで俺を見てきた。さっきよりもずっと雰囲気も落ち着いてきたようだ。

「……心配しなくても、すぐに結婚だの挙式だのってことにはならない。まずは一緒に暮らしてみて……サランもうちのことを好きになってくれたら、と思ってるんだ」

「それにさー」

 いつになく優しい声で、リンリンはサランの髪を手で梳きながら言う。

「サランも、シャイボーイのことが嫌いじゃないんでしょ? 少なくとも、こんなスケベ男勘弁! って思ってるわけじゃないよね?」

 スケベ男って……本当に容赦のない爆乳だ。

 でも確かに、さっきからサランの言っていることを考えてみても、俺のことが嫌いだから結婚したくないっていうことは口にしなかった。遠慮してるんかもしれないが、もし本当に俺のことを人間として嫌いなら、頬染めなんかしないよな……?

 俺やリンリンの読みは当たったらしい。サランは戸惑いがちにこっくり、頷いた。

「は、はい。アーク様はお優しくて、その……失礼ながら、お友だちとか……そういう感覚からなら、やっていけそうかな、と……」

「それで十分だよ」

 ほっと、体中の力が抜けたようだった。「お友だちから」の関係なんて古今東西でよく言われていることだ。少なくとも断固拒否! ってわけじゃないだけで、俺としては十分だ。


 さっきから持っていた袋を三度、サランの方に差し出す。

「もし、こんな俺でもよかったら。これを、受け取ってほしい。俺はサランと一緒に歩いていきたい。その想いに偽りはないから」

 俺の目と袋を交互に、交互に見つめ、その手がおそるおそる俺が差し出す袋に伸びた。袋に触れる直前、一瞬指先が震えたが……そっと、壊れ物に触れるかのように、サランは俺の手から袋を受け取って自分の胸元に引き寄せた。

「……ありがとう、ございます……。……ふつつか者ですが、よろしくお願いします……」

 そう、ぎこちない笑顔で述べる。その笑顔が、俺にはとっても眩しかった。

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